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猫と映画と酒。そしてプロポーズ

作者: サキバ

書いてる内に何書いてるんだろう、そんなことを思いましたが結構楽しく書きました。

「結婚しようか」


それは割と衝動的に出てきた言葉だったが悪くない提案をした気がする。付き合ってそろそろ三年だ。生活も安定してる。

そう思ったが彼女は呆けた顔をしていた。口を半開きにしながら、首を傾げている様子はなんだか雛鳥を思わせた。


「 ……いきなり?」


僕は現在の状況を確認する。

僕たちは一緒に映画を見ていた。別にラブストーリーとかではなく、車に傷を付け続ける少年の話だ。なんとか賞を取ったとかなんとかだったから興味が湧いてレンタル屋で借りてきたのだが、僕達には内容がよく理解できない。恐らく高尚な内容やのだろうが、高尚さというのは僕らに合わないらしい。型式ばったものが苦手なせいかもしれない。

僕らはそんな映画を酒を飲みながら見ている。

なるほどプロポーズするタイミングを間違えてしまったようだ。


「あー」


思わず言葉に詰まる。なぜここでプロポーズをしたのだろうか。少し考えて酔ってるのだろうと結論付けた。

不意に映画に目を向ける。少年が何故か猫の前で得意気にアイスクリームを頬張っていた。


「……猫のことでも考えようか」

「猫?」

「うん、猫」


由紀は少し考えてニャーと猫の真似をして鳴いた。どうやら彼女も酔っているらしい。僕もミャーと同じように鳴く。また彼女は鳴いて、僕も鳴いた。馬鹿みたいだなと思ったが思いの外楽しい。もう一度ミャーと鳴こうとすると彼女が話し始めた。


「前にね」

「うん」

「ダンボールに捨てられた猫を見たの。5、6匹くらいいた」

「そうなんだ」


由紀は空を見つめて体を揺らした。それで僕の顔を見て、綺麗にテープを剥がせなかったみたいな顔をした。


「それだけ。その後のことは知らない」

「ふうん」


無言。

僕はダンボールに捨てられた猫のことを考えた。彼らはそのまま死んだだろうか。それとも誰かに拾われたのだろうか。生きてたらいいな、と思うが死んでいても、まあ別にいい。優しい飼い主に拾われてたなら幸せになれるだろう。

そしてその猫のことを考えるのをやめた。

酒を呷る。酔いが酷くなった気がした。


「そういえばさ、昔猫を飼ってたんだ」


空になった缶をテーブルに置くと、思い出したことを口に出した。彼女はまた空を見つめて聞いてるのか、聞いてないのか判断がつかない。気にせず続ける。


「僕はそいつのことが好きでさ、名前は、えっと、きい、だったかな」


酔った頭でなんとか思い出した。なんできいって名付けたんだっけ。よく思い出せない。もしかして意味なんてなかったのかもしれない。


「突然にそいつが、きいが、いなくなったんだよ。猫は自分の死に際を悟ったら誰にも見られないようにひっそりと死ぬらしい。きいもきっとそうだったのかなって」


その時はとても悲しくて、母親に泣きついた。でも、二週間ほどすれば平気で遊びに行った。悲しみは本物だった。確かに僕は悲しかった。でも、なんだろう。自分の気持ちを上手く言葉にできなくなってきた。


「きっときいは死んだんだろうね」


結局、そういうことなのだ。多分それが一番適した言葉だ。

僕は空になった缶を見る。そして、ミャーと鳴く。彼女もすかさずニャーと鳴いた。

それをずっと繰り返しているといつの間にか映画が終わっていた。


「映画終わったね」

「なんだかよく分からなかったね」

「だね」


ふわふわとした頭で彼女を見る。なるほど、今がいい。


「結婚しようか」

「ええ、そうね」


今度は偉く淡白に話が終わった。

デッキからディスクを取り出して、テーブルから缶を退かした。そして、しばらくくだらない話をして一緒にベッドに入った。

寝室の電気を消す前に一つ。


「結婚したら猫でも飼おうか」


そして寝室の電気を消した。

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― 新着の感想 ―
[一言] こういう癒し系の物語、私作れないから、とても羨ましい
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