2話
13歳の私、暗いですね。
いやいや。お金もなく、食べる物もなく、周りに信じられる人も居なくて、いっぱいいっぱいだったんだよね。13歳の私を抱きしめて、今から1年後、心の友に出会えるよ、大丈夫だよって言ってあげたい。
今では、グローリーさんの事は、グローリーおじ様って呼んでますのよ。
最初は嫌がってたけど、ワインの師匠だし、私を助けてくれた人だもの。敬意と少しのからかいを含んで、おじ様と呼ばせて頂いてます。
食材の買い出しに行く時に必ず寄って、おやつを貰うの。貴族は普通は食材は配達してもらうんだけど、少し割高だから、節約の為に屋敷の外に買い出しに行くのを許して貰っている。
私が行くときは、必ずグローリーおじ様の奥さんのメーコさんも居て、軽い軽食をお土産で持たしてくれる。
ワインを売ってから、何回かグローリーおじ様の所に通っていたら、たまたまメーコさんがいて、ガリガリの私に衝撃を受けたみたい。
少し痩せぎみだけど、今はもう大丈夫ですよって言ってるのに、いまだに心配をしてくれる。
メーコさんもメーコおば様って呼びたいんだけど、おば様呼びより、名前だけで呼ばれる方が、若い気分になれるんだって。
私のもう1つの心の救いは、グローリーおじ様とワインです。
あれ?2つになっちゃいましたね。引っくるめてってことでいいかな?
ワイン=グローリーおじ様ですもの。
それで、すっごく話は戻りますが、いっちゃんの話ですね。
いっちゃん、私が明るくなったから怪しんで私をつけて来たのですよ。
それで、グローリーおじ様のお店に入ったのを見て、そのまま入ってきて、そこで、グローリーおじ様の甥っ子のロイスさんと目があって……
私、二人同時に一目惚れするのなんて、初めて見ました。
えっ?えっ?と思っているうちに、二人が吸い込まれるように、手を繋ぎあって、視線を外さず、二人の世界。
えーっ。いっちゃんだよ?プライドガッチガチに高いいじわるいっちゃんだよ!
恋しちゃうの?ロイスとローズでロが被ってるんだよ?えーっ……
私は、目の前の現実に理解が追い付かず、そんな事を思っていました。
それからは怒濤の展開。勝手に二人でデートして、3回目のデートでプロポーズ。継母に知られて猛反対!かと思いきや、相手が、この国で5本の指に入る大商会の息子(跡取り)と分かった瞬間、ニコニコ大賛成……。
もう、いいですよ。何も言いません。
いっちゃんの意地悪なとこがバレて、フラれてしまえばいいんですよ。
私は、もうすぐ家を出る予定ですし…
いや、でも、いっちゃんが嫁に行って、にっちゃんが万が一、子爵様辺りか、裕福な男爵家に嫁いで、継母がにっちゃんについていけば、このまま私は、家でのんびり出来るのではないでしょうか?
(シンデレラちゃん、わたくしのところに来て下さるんじゃなかったんですの?)
頭の中に、とても綺麗で可憐な声が響きます。
(アリシナ様…何回も言ってますけど、勝手に私の思考を読まないで下さいませんか?)
誰でも頭の中を勝手に読まれればムッとすると思います。
アリシナ様に強くは出れませんが、何回も言ってる事です。
(シンデレラちゃん。また頭の中、オープンですわよ?会話と思考は分けれますのよ)
簡単に言ってくれますが、私にはそれが難しいのです。
(アリシナ様、念話は私が落ち着ける場所でお願いします。私、今掃除中なんです。掃除しながら、意識を分けてアリシナ様と会話するのは、私には無理なんです。)
(分かりましたわ。落ち着ける時間になったらメールを下さいまし。)
(はーい。じゃあ、また後で。)
アリシナ様のチートな超能力解放が止まらない件について。
どこかにありそうなタイトルみたいですね。
アリシナ様が念力を使えるようになったのは話しましたよね?
次に使えるようになったのは、念写です。これも私の余計な一言が発端です。
『ポルターガイストじゃなくて、念力って言うんですよ~。またはサイコキネシス。すごいなぁ、動画で見てみたいなぁ』
『動画って写真とは違いますの?』
『ん~。全然違いますけど、説明が難しいです。写真は以前に言ったみたいに、その瞬間瞬間を切り取り記録に残します。
動画は、動いている映像を記録に残します。そういう魔道具ってないんですか?』
『ごめんなさい、知らないわ。50年前はなかったわ』
ああ、そっか。
アリシナ様と普通に交流しているから違和感なかったけれど、アリシナ様は50年以上前の人だった。ってことは、アリシナ様は今、60……
『シンデレラちゃん?何か失礼な事考えていらっしゃらなかった?わたくしたちは時が止まっておりますの。時が進み出すまで、わたくしは永遠の16歳ですわ。』
今は、私の1つ歳上だけど、そのうち、私がアリシナ様の年を追い抜いて引き離してしまうんだわ。
…なんか、やだな。
『…。』
(この頃から、アリシナ様はよく私が考えている事を見抜いているようだった。念話の下準備は早い段階でされてたって事かな?)
『わたくし、シンデレラちゃんの写真欲しいわ。』
『えっ?この前送ったじゃないですか』
『あれは、6つまでのシンデレラちゃんですわよね?今のシンデレラちゃんの写真が欲しいわ。』
『嫌ですよ~』
今の私は…
いまだ灰をかぶらされています。
元々の私の髪の毛の色は、お母様そっくりの銀髪。継母はそれが気に入らないようで、染め粉で髪を染めるか、灰をかぶれって言って来るのです。
しかも、オーダーメイドのグレーのワンピ。
お金かけてまで地味にするって。
女の執念感じます。
今の姿を、アリシナ様に見せるのは………
『わたくしが、動画撮れるようになったら写真送ってくださいますか?』
なんか、こちらからも執念を感じるような気がするのは気のせいでしょうか?
***
アリシナ様は念写を覚えた!
アリシナ様は自分のテリトリーを城全体に広げる事に成功した!
アリシナ様は舞踏会も開催出来る大広間に城の中でバラバラに眠っていた人達を集めた!
アリシナ様は暇潰しに眠っている人達を動かして夜会を開催した!
全部で48人。皆を操ってダンスさせた!
アリシナ様は、テリトリーを城下町まで拡大させた!
アリシナ様は、城内の人を操って魔物退治を始めた!
陛下もお妃様も、騎士もメイドも、それを操るアリシナ様もレベルが上がった!
アリシナ様は………
・・・。
ちょ、ちょ、ちょっと待って……
どんどん不可思議なメールの内容と、
ホラー映像な動画が送られて来るのですが、
どこをどう突っ込めばいいのか。
全員、目を瞑っている人達の踊る姿、とか。
絶対画像に残すのNGな魔物討伐の瞬間、とか。
あの、アリシナ様?
何か、鬱憤たまっていたのでしょうか?
それとも、遅れて来た思春期ですか?
今、青い春を満喫中でしょうか?
わ、分かりました。
写真送りますので、ちょっと落ち着いて下さいまし~
(やっと、写真送って下さいましたのね。子供の頃のシンデレラちゃんは天使みたいでしたが、今もあまり変わりませんのね。)
いや、よく見て下さい!
髪は手入れをしていないので、ボサボサッ。
顔も疲れた顔をしていますし、服はダサい、グレーのダボダボなワンピースですよ?
嘘偽りなく、今の等身大の私の写真を送ったのですよ?
眠っていて、目を閉じているせいで、
5割以上割り増しされているんでしょうか?
最近は秘密の小部屋を快適に整えて、そこで眠っています。
呼び出しの魔道具があるので、メイドの部屋で眠らなくてもいいのです。あちらから来ることはまずありえませんからね。
夜中に送った自撮り写真。
久し振りに自撮りしたら、なんかめちゃくちゃ恥ずかしかったです。
でも、アリシナ様の暴走を止める為です。
仕方ありません。
さっき、急に聞こえた声は、知らない女性の声でした。とても、可憐な…
(えっ?アリシナ様?)
(そうですわ。お久しぶりですわね、シンデレラちゃん。)
(あの、これって?)
(念話ですわ!シンデレラちゃんと直接お話したいなぁって思ってたら、出来るようになったんですの)
思っただけでは、普通は出来ないと思います。
(でも、出来るようになったんですのよ)
アリシナ様のチート化が止まらないです。
(チートってなんですの?)
チートって何?って改めて聞かれると説明出来ないので、その質問はスルーさせて下さい。
アリシナ様がお返事しているのは、私の心の声なのですが、どういう事でしょうか?
(あらっ?そうでしたか?シンデレラちゃんがお話しているのだと思っていましたわ。まだ調整が難しいですわね。こう、思考を分けるって考えて下さらないかしら?)
思考を分けるって……今まで生きてきた中で考えた事ないのですが…
(あっ、時間ですわ。これで失礼させて頂きます。また連絡しますわね)
アリシナ様、何の時間ですか?
アリシナ様…なんか……………
あの………どこを目指していらっしゃるのでしょうか?
ここ、最近の近況。
私は、代わり映えのしない毎日を送っています。
しかし、アリシナ様が…。
アリシナ様の日常が目まぐるしい感じで変わっているようです。
***
それから約3ヶ月弱程、アリシナ様からの連絡がまちまちになったのです。
たまに思い出したように、念話で私の様子を聞いて来ますが、忙しいのかすぐに念話が切れてしまいます。
寂しくなんかないんだからね!
嘘です。寂しいです。
私、拗ねちゃうぞ~
と、思ってた所にずーっとさっきの会話。
私はいそいそと秘密の小部屋に引きこもります。
『アリシナ様~?』
久々のメールです。
メールしても忙しいのか、すぐには返事がなかったので、最近は、私からメールするのは控えてました。
『ごめんなさい、もう少し待って下さいまし』
もう少しってどのくらいでしょうか?
私も暇ではないんですよ~
掃除とか、ご飯作りとか、庭の手入れとか……
シンデレラって辛い…
(……ちゃ……ん、シンデレラちゃ…ん)
……はっ、寝てた。
アリシナ様、起きました!ごめんなさい~
(いえ、いいのですよ。シンデレラちゃんはいつも頑張っていますものね。)
アリシナ様はいつも優しいですね。
今日はゆっくりお話出来るのでしょうか?
(ええ、準備が整ったので、ご連絡いたしましたわ。わたくしが最近していたことを聞いて下さいますか?)
ええ、もちろん。
アリシナ様が最近していたこと。
それは戦力の強化だったんですって。
もう、この時点でハテナですよね。
まず、アリシナ様がしたことは、念話で眠っている人達の意識に働きかけ、一人一人の意識を浮上させる事でした。これは前々から徐々にやってはいたそうです。今、意識がはっきりしているのが、城内人口48人中、22人だそうです。(内訳。陛下とお妃様。騎士10人。アリシナ付きメイド5人。宮廷魔導士5人とのこと。アリシナ様とあまり接触がなかった人達は意識を通わせるのが難しかったんだって)
次にしたのは、意識が浮上した方達に、念力の使い方を教え込むことでした。意識ある22人の中で、念力を使えるようになったのは、16人でした。
意外となのか妥当なのかは分かりませんけど、魔導士の方達からは、1人しか念力を使えるようにはなりませんでした。アリシナ様が言うには、高い能力を持った魔導士だからこその固定概念があるのでしょう。とのことです。騎士からは8人が念力を使えるようになりました。騎士の方が、素直にアリシナ様の言葉を吸収して次の次の段階まで駆け抜けたそうです。長い間眠っていて、体を動かしていなかったという意識があって、すごい快進撃を遂げたとか。(時が止まってるんだから、動かしてなかった時間はなかったと思うのですが、感覚的なものですから…ですって。)
念力で、自分を動かせるようになったら、次は透視を覚えさせて、目をつむっているのに、周りを見えるようにさせたそうです。
その次は、城の外に出て、魔物退治でレベル上げ。(念力覚えれなかった人達はアリシナ様が操って魔物退治。意識はあって、体は勝手に動いて、周りの情況は見えない。…アリシナ様、それはあまりにも…アリシナ様が鬼……いいえ、何でもありません、アリシナ様、私の意識に勝手に入って来ないで下さい!)
そして、今。
魔女の森に潜伏して、魔女達に戦いを挑もうと……
いやいや、なんでそうなるんですか?
展開がおかしいでしょ!
(…?どこがですの?魔女達を殲滅しましたら、呪いがとけるかと思いまして)
(アリシナ様。魔女の森に住む魔女達は、私達より長く生きていて、強力な魔法に長けていると聞きます。たった15人で何が出来るとお思いですか。)
陛下は参加で、お妃様はお城で待機だそうです。
(わたくしたちは、魔法とは違う力で対処していきますわ。わたくしのメイド達は、今は優秀な隠密部隊クノイチですので、ある程度、力の弱い魔女の方は後ろから気配を殺して…ですわ。力の強い魔女達にも騎士達の“バリア”があれば、力押し出来ると思いますの。)
クノイチ、バリア…。
私が悪いのでしょうか?
前世の世界の空想に近い話をして、誰がここまで再現出来ると予想するでしょうか?
(アリシナ様、ちょっとそこに座って下さい。)
私のイメージは、もちろん土下座で、です。
(あの、わたくしは、呪いの力が強くて、寝てる状態をまだ動かせませんの)
シューンって。
イメージですよ、イメージ。
ご、ごめんなさい。そう返されるとは……
って、怯みませんことよ!
(いいですか?力をつける事も呪いを解こうとする事も間違ってはいないと思います。ですが、過剰な力をつけました!では、魔女を攻撃しましょう!と言うのは100%間違っていると思います。魔女達の全員が悪い魔女なのでしょうか?プレナーレ王国の方々は多くのものを失ったとは思います。時間も。領土も。それら以外にもたくさん。でも、力で解決して呪いが解けた後は、何かある度に力で解決しようとしてしまうのではないでしょうか?それに、アリシナ様。メイドさん達が強くなったと言っても、魔女も人です。人を殺させるなんて、いけません。呪いを解く方法は他にないのですか?私にも協力出来ることがあれば、協力しますので、早まったマネはしないで下さい)
(………。)
(シンデレラちゃん、わたくしが間違っておりました。申し訳ございません。)
(いえいえ、分かって頂ければ何よりです。復讐は何も産み出しませんよ?)
(………。復讐、ではないのです。わたくしは、シンデレラちゃんに置いていかれるのがツラいのです。)
復讐、じゃない?私が置いて行くって、家を出たらアリシナ様のとこに行くって言ってるのに。
(それでも、時が過ぎれば、置いて行かれると思いますの。この城は時が止まっています。生きている人には長く留まれない場所ですわ。シンデレラちゃんは優しいからいつまでも居るとおっしゃって下さるかもしれません。わたくしもその優しさに甘えて、シンデレラちゃんを離せないかもしれません。でも、それでは嫌ですの。友達だからこそ、対等に。シンデレラちゃんの重荷にはなりたくありませんの。同じ年齢である今、わたくしは呪いを解きたいのですわ。)
アリシナ様の熱い思いに涙が止まりません。
(うぅ~、アリシナ様~。何か、何かないんですかぁ?呪いを解く方法は~。私に出来ることはないんですかぁ?)
(あります。)
(そうですよね~、ないですよね~。)
(いえ、あります。)
あれ?アリシナ様からあるって聞こえたけど?んっ?
(実は、隠密部隊に、わたくしに呪いをかけた魔女の館に忍び込ませて、解呪方法を調べさせましたの。)
えっ?クノイチのメイドさん?
大丈夫だったんですか?
(ええ。クノイチ部隊、優秀ですから。2週間忍び込んでもバレませんでしたわ。)
結構、長く忍んでましたね。
力ある魔女の館に2週間。
優秀だと自慢したくなる気持ちも分かります。
(隅から隅まで本や資料などを捜して1つだけ、解呪方法が見つかりました。)
強力な解呪方法、どれだけ難しい事なんだろう。
(難しい、と言えば、難しいかもしれません。それに、わたくしがこの方法を取るなんて嫌ですの。でも、シンデレラちゃんの協力があれば、達成出来ることかも知れないのです。)
(もちろん、協力します!)
(どんな方法かも聞いていらっしゃらないのに、協力するって言って下さるの?)
(アリシナ様は私を救ってくれました。私はアリシナ様に少しでも恩を返したいのです。)
(それは、違いですわ。わたくしの方が、シンデレラちゃんにたくさんたくさん救われていますわ。)
ああ。直接アリシナ様に会いたいな。ちゃんと、顔を見て、目を見て、お話をしたい。
会って、私の方がアリシナ様に救われたってことを分かってもらいたい。
その為だったら、アリシナ様の為だったら、
私に出来ることなら、何でも協力します!
(で、その方法とは何ですか?)
(その方法は……………………………。)