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僕と女子高生

作者: 雫石野 想人


「これは恋と呼んでいいのだろうか」

今でもたまに考えてしまう。

答えなんて永遠に見つからないだろう。

でも、過去の出来事の意味を変えることなら出来る。

そう信じて書き始めてみようと思う。


何も変わらない日常の中、突然だったか、それとも気づけば現れていたのか忘れてしまったが、僕は一人の女子高生に見惚れていた。

ショートカットの黒髪のその女子高生はバスの前方左側の三列目の席に座り、スマホをいじっていて、その無表情には「苦い」という言葉が当てはまりそうで、彼女のルックスは当時、人気のあったアイドルに似ていた。

僕は最初「可愛い人だな」と思い、深い理由もなく、バスの乗降の際に少しでもその女子高生を見れたらと思い、僕はバスの前方右側の三列目に座るようになった。

この時点で僕は彼女の名前は知らず、分かっていることは自分より年上だということだけだった。

ある時、中高の授業が午前中までで、一斉下校となった時、いつものようにバスに乗り、約1時間かけて駅に着き、電車に乗り込んだ時、あの女子高生が僕の隣に座り、音楽を聴きながら、スマホをいじり始めた。

すると、席の端に座っていた老人が「音楽聴いて、携帯いじりたいなら別の車両に行けや」と嫌味っぽく言った。

彼女は黙って立ち上がると、別の車両に行ってしまった。

僕にとっての幸福な時間は短い間に終わってしまった。

ある時、彼女の名を知る機会があった。

中高合同の集会で彼女は高校生徒会として前に立ち、名前を名乗っていた。

日々が過ぎて行き、僕の想いは募り始め、会話したことのあるわけでもないその女子高生に僕は大きな好意を抱き始めた。

彼女の名前を知ったことから、僕は彼女のSNSアカウントを見つけた。もし、コンタクトを取ることが出来れば、彼女と知り合いになれるのだろうか?そんな期待が生まれ、僕はリプライを送ってみた。

返事を待つ間、僕はとある古戦場近くの神社を訪れ、おみくじを引き、大吉を引いたので、きっとコンタクトが取れるに違いないと馬鹿みたいにはしゃいでいたのだが、結果は僕を裏切った。

返事は来なかったのだ。

この時、僕は一度、この恋を諦めた。

しかし、一度火がついた恋の炎はすでに業火に変わっており、僕を苦しめるには十分な感情を生み出し、僕はやはり彼女への想いを捨てることは出来なかったのだが、度胸も勇気もない僕は何も出来ず、時が過ぎるのを待つだけだった。

高校三年生の彼女、中学三年生の僕、それぞれの卒業が近づいた頃、午前中までの授業を終え、バスに乗り、駅に着き、電車に乗ったときだった。

いつもは別の車両に乗っているあの女子高生が、僕の真正面の席に座った。

電車が動きだす。

僕はわざと鞄から本を取り出して、目のやり場を作る。たった一駅なのに、わざと目のやり場を作り、なにかを必死で隠そうとしていた。次の駅が近づいた頃、僕はそっと彼女の顔を見た。

無駄に言葉を使う必要はなく、ただ一言で十分だった。「美しい」ただその一言だけで彼女の寝顔を表現するには事足りる。

僕は本を鞄にしまい、そっと電車から吐き出され、帰路に着いた。これで最後だと分かっていながら。

二人は卒業の時を迎えた。

僕は泣けなかった。

高校一年生になった僕は、あの女子高生のことを忘れられず、自殺を考えたり、再度コンタクトを図ろうとしてやはり返事は来ず嘆いたり、おかしな日々を過ごしていた。

その後、僕はこの出来事を「届かない。」と言う名の小説にする。


ここまで書き終えて、僕はそっと病室から窓の外を眺めた。

もう夜だ。

外は恐らく冬の寒さが人々を襲い、皆、足早に家へ急いでいるのだろう。

電車が駅のホームに滑り込むのが見えた。

何の脈絡も無い僕と彼女を細い糸で少しだけ近づけてくれたあの電車だ。

電車はゆっくりと動きだし、少し不気味な光を放ちながら、定められた終点に向かって行くのを僕は眺めながら、これからの行く末を少しばかり思案し、ちょっとばかりの希望をあの電車に託してみた。


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