1-07
翌日。譲治は今日も同じようにアリサと荷台に荷物を運び入れる。
今日は隣の村で行商をやるらしい。
オルターの話によると外には幻獣が出てくるから注意しろとのことだ。
幻獣…。いかにもファンタジーぽい単語。
この世界にはモンスターが出てくるとは、異世界らしさが引き立てられるな。
準備が終わり、隣村へ向かっているとオルターが突然聞いてくる。
「そういえばお前さん、幻獣とは戦ったことはあるのか?」
「幻獣ですか…すいません俺の大陸にはそんなのがいなくて戦ったことはないです。」
違う大陸に来たことになっている俺は、話を合わせるようにして答える。
「そうか、幻獣がいない大陸なんて平和そうで良いな。とりあえずこれ持っておけ」
そういって懐からナイフのようなものを取り出し、譲治に渡す。
よく見ると、ナイフの柄に赤い石のようなものが埋め込まれており、押せる仕組みになっている。
「その赤いやつを押せば、刃が白い靄のように光るから、その状態で幻獣を倒すことが可能だ」
押してみると、確かに刃がうっすら光っているように見える。
「この辺りはポムポムが出てくるから、お前さんでもいけるだろう。」
そういえばポムポムって昨日のおっさんが襲われていた?やつだが、どんなやつなんだ。
「ほら、そう言っていると出てきたな。後ろで見てるから武器を構えな」
え、俺が戦うのか。
ピョンピョンと跳ねるようポムポムというものがやってくる。
うさぎのような丸っこい可愛らしい生物で、ゲームの序盤で出てくるようなモンスターな感じだ。
「怪我したら、私がいますから頑張ってください」
一緒に荷台を引いていたアリサに応援される。
先ほど渡されたナイフを手に取り、刃を光らせ、戦闘態勢に入る。
すると、ポムポムの表情が変わり怒っているように見える。
ピョンピョンと跳ねながらボールのように体当たりをしてきた。
譲治は攻撃を躱せず体に直撃し、地面へ倒れる。
「うっ…」
態勢を立て直し、ポムポムの方へ向かいナイフを振り下ろす。
しかし、ポムポムはピョンと飛んで簡単に避けられてしまい反撃を喰らってしまう。
「おいおい、がむしゃらに降っていても当たらんぞ。ちゃんと相手の動きを見て攻撃するんだ」
そういわれ、しばらく攻撃を一方的に受けながら動きを観察していく。
ポムポムの体当たりはボールのように飛んでいくから自分から軌道を変えられないのでは?そう分析出来た。
ポムポムが同じようにこちらへ体当たりしてくる。それを見計らい、やりやすいタイミングでナイフを振り下ろす。
ポムポムの体を切り裂き、光のように消えていく。
「ふむ、まぁ動きはぎごちないが、まぁまぁだろう。この調子で村まで頑張れよ」
「え、俺一人でやるんですか。」
「そうだぞ。これはお前さんが戦いに慣れさせるための訓練だ。今後を生きていくのに必要だぜ」
そう言い渡され、社畜経験上、上からの命令は絶対という言葉があるので仕方なくやる。
村へ着くまで何度かポムポムと遭遇したが、最初より対処の仕方が分かっているので少しは攻撃を喰らいながらも簡単に倒せるようになってきた。
隣村の入り口に着き、オルターが事後評価してくる。
「なんとか着いたな。構えはなっていないが、少しは戦いに慣れただろう。まぁ、ポムポムぐらい簡単に倒せて当たり前なんだがな」
確かに武器をうまく扱えないが、ポムポムの単純な動きだからこそ勝てた相手なのだ。
人生で今まで戦いなんて無関係で生きていた俺がモンスターと戦うなんて信じられないことだ。
「さて、本来の目的である商売を始めますかね。疲れていないでいくぞ、本当の仕事はここからだ。」
慣れないことに少しクタクタになっているが、ちゃんと仕事は頑張らなければ。
こうして俺たちは隣村での行商を始めていった。