1-06
取り敢えず村を1周し終えオルターの家に戻った。
空は赤く染まり、もう夕暮れを示す時間だなと感じる。
荷台や積み荷の片付けを終え、夕食をみんなで食べ始める。
「どうだいこの村は、なかなかいいところだろう?おっさんや年寄りばかりでつまらないと思うが全員優しい人たちだぜ」
「えぇ、そうですね。皆さん本当優しそうで、良い雰囲気の村で、俺がいたところより断然暮らしやすそうです。」
そういって一息いれると、オルターが少し真剣な顔をする。
「そういえばなぜおまえさんをここで暮らせって言った理由を話しておこうと思う。お前が目覚めて、表情を観察していたら、どうも人生に絶望しきった顔をしているなと感じたんだ。だから、心配の意味でなここでの暮らしを無理強いした訳なんだ。」
オルターに自分の心境を見破られていたことに驚く。
まぁ顔に出ていたかもしれない、ずっと暗い気持ちで過ごしていたからな。
心配させていたことに申し訳ないと感じる。
「何があったかは追求はしない。その疲れ切った心をここで暮らしいる間は癒しているといい。心が回復したらここを出て行ってもいいし、そのまま残っていても構わない。俺らはお前さんここにいることを歓迎するぜ」
「そうですよ。私も若い人との話し相手が増えて嬉しいですし、ジョージさんがいい人ですから歓迎しますよ。」
二人からの心温かい言葉にふと涙を流す。今まで溜まっていた思いが溢れ出すように。
本当に嬉しかった。今まで自分のことを思ってくれていたのは彼女ぐらいだった。いつも自分にかけられるのは罵声や見下しの言葉ぐらいだった。
しかしその彼女から捨てられて今、自分の心は壊れきってしまった。
そんな中、見ず知らずの自分を温かく歓迎してくれていると思うと、嬉しくて涙が出てしまった。
しばらくオルターとアリサに慰められながら、自分の部屋となった小屋へ戻る。
古臭い木のベッドに横たわり1日を振り返る。
自分の彼女が見ず知らずの男性と夜の繁華街で歩いていたこと。
そして、色々とヤケクソになって海へ飛び込んでしまったこと。
海へ飛び込んだはずの自分が、何故かよくもわからぬ土地の海まで流されていたこと。
そんな見ず知らずの自分を助けてくれて、さらには居場所を提供してくれたオルターとアリサ。
色々と盛りだくさんの1日だが、
話を聞く限り、確信したことがある。
大航海時代みたいな時代錯誤の国事情。
魔法みたいに傷を治すアリサ。
これを様々な形でこの世界の住民は普通に持っていること。
などなど、自分がいたところとは全く異なる話ばかりだった。
そう、ここは異世界なのだと。
でもここが異世界なのだろうと、俺には関係ない。
もう戻る場所がないのだから。
そうして、俺は異世界暮らしを決意する。
そんな風に考えて込んでいたら夜が更けていき、譲治はいつの間にか眠りに落ちていった。