1-05
アリサと一緒に荷台を引き、オルターが客寄せをしながら村を回る。
オルターが村を案内しながら回っていると、オルターが村人から信頼されていることが分かってくる。
一人の老婆がこちらへ近づき挨拶してくる。
「オルターさんとアリサちゃんこんにちは。おや、この子は誰だい」
「こいつは俺のところで新しく働くことになった。」
「譲治です。重労働やら出来ることならお手伝いしますのでよろしくお願いします。」
この村は中年から高齢者が多く、重労働がきついという事なので助力するアピールをしておく。
「おやおや、それは頼もしい。わしら年寄はもう体を動かすことがきつくてね、若者の手が必要だったじゃよ。」
「はい、これ。頼まれたものだぜ」
「いつもありがとうね。はいお代。本当オルターさんには感謝しておるよ」
注文品の食器を引き換えに硬貨のようなものを渡す。
「それじゃあね。オルターさんにアリサちゃん。あとジョージさんや、これからよろしくの。」
そう言って老婆は立ち去る。
このようにオルターは村人から結構感謝されている。
毎日のように村を回っているようなので大変らしいが頼られるのが嬉しいので続けているらしい。
すると全身土まみれの中年の男性がこちらへ向かってくる。
よく見ると、ところどころ怪我をしている様子だ。
「ちょうどよかった、アリサちゃん治してもらえるかな」
「大丈夫ですか!少し安静にしていてくださいね」
アリサが男性を座らせ、怪我の具合を見ていく。
「おいおい、どうしたんだその怪我」
「ちょっとね、ポムポムとじゃれ合っていたら、こうなってしまってね」
「じゃれ合ってたじゃなくて襲われていたんじゃねぇの。ポムポムぐらい簡単に退治できるだろうが」
「いや~、あの可愛らしい顔を見たらどうも攻撃しずらくてね、微笑ましくなるのだよね~」
アリサが具合を確認し終えると、怪我の部分に手をかざし始めた。
すると手から白い光のような放出され、みるみると怪我が治り始めてくる。
そんな不思議な光景に俺は驚いた。まるでファンタジーに出てくる魔法のようだった。
「ふぅ…。」
治療が終えたのか、アリサはその場から離れ、近くの低い塀に座り休憩した。
土汚れた男性のほうへ見てみると、さっきまで怪我をしていたのが分からないぐらい、傷跡もなく完全に治っていた。
「いつもありがとうね、それじゃ僕は仕事へ戻らなきゃね」
先ほどまで怪我をしていた土汚れた中年の男性は礼を言って立ち去る。
「すいません。さっきのあれはなんですか?」
先ほどの魔法みたいなものが何かを知るべく、休憩中のアリサに尋ねる。
「あ、あれは私の《治癒魔法》の祝福です。怪我した部分を傷跡も残さず治せる力なんですけど、怪我の度合いによって体力を消耗しますから使うとこのように疲れちゃうんです。」
確かに治療をし終えてたら疲れた様子が見えたな。
その前に祝福というのはいったい何なんだ?
「《祝福》というのは?」
「ん、お前さん知らねぇのか?誰かしか必ず持っているはずなのだが」
「えーと。俺の国では祝福というのが知られていなくて…。」
知るはずもないことに誤魔化して答える。
「おかしいな、この世に生まれてきた人間は神から何かしらの祝福を受けていると言われているのだが、祝福を閉ざしている国なんてあるかもしれんな」
「祝福というのは神から与えられた力と言われてな、我々人間は神からの祝福と呼んでいる。祝福は生まれた時からもう身についているんだ。ただどういう祝福なのかは無意識で発動したときに初めて分かるんだ」
生まれた時から身についていることは、人類みな能力者になるな。
「そういえば、自分の祝福が分からず生涯を終えた人も少なからずいるって聞いたことがありますよ。自分の進路にまったく関係がないことが祝福されていて気づかず死んじゃうなんて悲しいですよね」
「祝福には様々なものがあってな、足が飛び切り速くなったり、手から火を出したりといろいろとあるんだ。ただ自分とまったく同じ祝福を持っているやつはいないんだ。だからみんな別々の祝福を持っている。だけど似ているけど性質は違うものはある。」
「例えば私の治癒魔法なのですけど、私のは魔法という私にも原理が分からない術で治しているのだけど、中には人間の自然治癒力を活性化させて治すなんてものがあるのです」
つまり、自分と全く同じ祝福を持っている人はいないのだな。
「祝福の系統によって自分の人生が決まっていく人が多い。俺もそうだ。俺の祝福は《原料識別》でな、物を触ることで何で作られているのかが分かるってものだ。この力のおかげで粗悪品が分かるようになって商売に向いていると思い行商を始めたんだ」
そういえば、オルターがスーツの材質について聞いてきたことがあったな。あの時ポリエチレンのことが見えていたがそれが何かが分からなかったのだろうなと納得する。
「だから、お前さんも何かしらの力を持っているはずだぞ」
「様々なことを試してみて、祝福を見つけるしかないですね」
アリサがそういって労わってくれる。
オルターとアリサの説明に当惑したが、確信したことがある。
ここは俺が知っている世界ではないことを。
俺は果たして《祝福》なんて持っているのだろうか、
異世界から来た自分は持っているはずが無い。
そんなことが言えるはずもなく曖昧な返事をするしかなかった。