1-04_行商人オルター
オルターの仕事はなんでも取り扱う行商人というものだった。
この村から中心街までは片道で一日ほど掛かるらしく、高齢の方が多いこの村にとっては不便である。
そこに目を付けたオルターはこのクヒド村とその近隣の村を拠点として行商を始めた。
村で収穫した野菜などの生産物を買い取り、それを街へ売りさばく。
街では村人から頼まれたものや食料・生活用品などを仕入れ、村へ売るといった村の住民たちのことを気遣かった商売だ。
まぁ他にもやっているらしいがメインは村での行商とのことだ。
今日は自分の紹介を兼ねて村を回るらしい。そのための準備として木の荷台に荷物を運び入れる。
その作業に一緒になってアリサも参加している。よく父の仕事を手伝っているらしく、手慣れた感じで運び入れる。
次々と荷物は運び入れられ、荷台には果物や乾燥した肉と酒といった食料品や食器・農具・書物と注文品が積まれていく。
そういえば注文品の中にあった書物なのだが、書いてある文字が日本語だったことに驚いた。
アリサに尋ねたところ、<人型公用言語>通所<人語>という言語らしいが、曖昧な表現でしっくりこない。
もし異世界なんだったら○○語のようなカタカナが出てくると思ったが違うらしい。
この国では日本語が公用言語として扱われているのではないかなと考えれば、日本語で会話できることについて納得がいくが、なんか世界観がおかしく感じてしまう。
まぁ考えていても仕方ない、とりあえず今は仕事に集中しよう。
「さて、注文品も全部積めたし、これぐらいでいいだろう」
オルターが荷台にすべて荷物を積まれていることを確認し終え、
「ジョージ、これぐらい引けるか?」
オルターが荷台を引く部分の取っ手を持ち上げる。
馬じゃなく、人が引くんですね。
荷台の取っ手部分を持ち、引いてみる。
「うぉぉお…っと!」
力いっぱい踏ん張って引くが、荷台が思ったより重く、もとの位置から数センチぐらいしか動いていなかった。
すると近くで見ていたアリサが俺の隣に立ち、一緒になって取っ手を持つ。
「私も手伝うね!」
そう言って一緒に引き、先ほどよりスムーズに荷台が進む。
あれ?アリサって結構な力持ちだな。
先ほどの運び入れの作業を見ると、おそらく俺より力は断然あると思う。いや絶対に俺より上だわ。
あれ、女に力で負ける俺って格好悪いな。これでは男としての威厳が…。
「そんなにがっかりすんな。女に力で負けるなんて男としてみっともないが、これから鍛えていこうぜ」
そう言って笑いながら背中をガシガシ叩いて慰めてくる。
うん。身体鍛えよう…。
これから力仕事がメインになりそうだし、アリサに負けないよう鍛えないとな…。
悔しい思いをした譲治は、そう決意したのであった。
※12/25 加筆・修正を行いました。