1-02_新生活
譲治が寝ていた小屋から少し出ると、このおっさんが住んでいるらしきログハウスが見える。
入り口への扉まで中へ通される。
中は木の香りが感じられる。どこか古めかしい趣のあるような空間であった。
奥へ進むと食卓が見え、食事の準備している少女がいた。
すると少女が俺に気づき、こちらへ近づいてくる。
「あっ!お目覚めになりましたか、どうですお具合は?」
日本ではあんまり見かけない可愛らしい顔立ちの茶髪ストレートの美少女が心配そうに尋ねてきた。
「えぇ、おかげさまでどこも悪くないです。治していただきありがとうございます。」
あまりの可愛らしさに少し見惚れてしまったが、すぐに立ち直り治療の礼を言った。
「どうだい、俺の娘はかわいいだろ~」
「もう~お父さんたら…。」
髭のおっさんが自慢するように自分の娘を紹介し、それを少女が恥ずかしながらあしらう姿が微笑ましい。良い家族だなと感じた。
「まぁとりあえず立ち続けるのはなんだ、座ろうではないか」
座るように促され、食卓へ席を着き、二人はその反対側に座った。
目の前には、パン、豆と野菜を煮たもの、野菜のスープといった、いかにも中世の料理ぽいのが置かれていた。
「よし全員席に着いたことだし、頂くとしますかい」
「はい、いただきます」
おっさんと少女が食事を始めたので、続くようにしてこちらも食べ始めようとする。
「あっ、いただきます」
とりあえず、料理を口の中へ入れて、味を確認する。
なにか物足りない味だが、今までの自分の食生活からすれば満足のいく味だ。
「そういや、お前さんの名前聞いていなかったな」
そういえばそうだった。いつまでもこの人のことをおっさんと呼ぶのは失礼なことだ。ちゃんと自己紹介しないと。
「あっ、そうでしたね。えーと自分は中村 譲治と申します」
「ナカムラ・ジョージ…。ナカムラって変な名前だな~」
そういえば英語圏では名前を先だったなと気づき、慌てて訂正する。
「あ、すいません。譲治が名前です」
「おいおい、しっかりしやがれ。まだ頭が治りきってないんじゃないのか」
そう冗談ぽくいいながらおっさんと少女が優しく笑う。
「俺はオルター・フレファティだ。で、娘のアリサだ」
「アリサ・フレファティです。よろしくお願いしますね」
「これで自己紹介がすんだな。ちょっと聞きたいことがあるんだが、なんでお前さん海岸に打ち上げらていたんだ?」
そういえば俺は海岸に打ち上げられていたのだったって聞いたな。
俺があの時、飛び込んだ後の記憶が全く無いけど、あそこの潮の流れとして適当な近くの海岸に打ち上げられるはずだ。だから結果としてはまぁ良かったんだけど。飛び込んだ経緯を話すことになるから…。
彼女に振られてしまい、自暴自棄になって海へ飛び込みました。
情けないすぎて言いづらいなこれは。
どう答えるか悩んでいたら、オルターが話を続けた。
「そういえば、お前さんが着ていたあの服装。どこかの貴族が着ているようなものに似ているが、執事でもやってたのか?」
貴族、執事…?
なんて時代錯誤の用語が出てきたな。今の平和な日本じゃそんなのあんまり聞かないし貴族とか執事ってアニメとかしかで聞かない言葉だよな…。
「もしかして~雇い主に捨てられ海へ放り投げられたんじゃねぇのか?」
――捨てられた…。
そういえば俺って彼女に捨てられたのかな…。
いやまだちゃんとした
あれが浮気だとまだ確定していない。
机に肘を立てて考えていると、
「お父さん!」
「おっと、これはすまんかった。聞いちゃいけねぇことだったか」
俺の様子に気を遣ったのかアリサが咄嗟に注意した。
「ごめんね。お父さんって無神経なところがあるから。言いづらいことだったら、無理して言わなくてもいいよ気にしないからさ」
アリサが自分の父に代わり謝罪する。
なんか話が俺のせいで暗い雰囲気になってしまったところにオルターが切り出す。
「お前さん、行く当てあるのか?」
行く当て…。
家に戻ったとしても会社を無断欠勤したから色々と五月蝿いし、今はあんまり家に戻りたくはないなぁ…。
「えぇ、まぁ…ちょっと…。」
「なんだ?無いのか?だったら、ここで暮らしな!」
「え」
「うちは今、ちょうど人手が欲しいところだったんだ。お前さんが先程寝ていたところで住み込みで働いて嫌な気分を晴らそうじゃねぇか!」
「え、ちょ」
いつの間にかオルターが隣まで移動し、気さくな感じで腕を俺の肩に回してくる。
「それに村の連中は年寄りばかりだから、お前さんのような若手は大歓迎してくれるからな安心しな!」
なんかいつの間にか、ここで暮らす流れになってしまったが、最近うつ気味だったから精神的に休めそうだしここの暮らしも良さそうかな。どうせ今の俺には帰るところは無いのだし。
※12/24 加筆・修正を行いました。