後編
仕事が定時に終わり、時間に余裕が出来たので近くの繁華街へ向かった。
今はクリスマスシーズンが近いことがあって、色鮮やかなイルミネーションが街中に飾られていたこともあってそれを見に来る、若者のカップルが多くみられた。
プロポーズはそろそろしなければ、いつまでも彼女を待たせる訳にはいかない。
そう思い指輪でも見に行くかと専門店を探していると、見覚えがある後姿が見えた。
あれは…真澄じゃないか。
人混みで少し分かり辛いが、いつも見ている後ろ姿だったから認識できた。
さてとどうしたものか。
あんまり準備しているところを見られたくないし、声を掛けるのはやめておくか…。
歩くスピードを緩めようかと思った時、真澄が男性と一緒に歩いていることが分かってしまった。
…。
足を緩めず、そのまま気づかれず無意識に追うようについていく。
後ろから見ていると、何か楽しげな雰囲気だ。
もしかしたら会社の同僚かもしれない。
それでもこの繫華街で二人きりで出歩くのは怪しげな感じだ。浮気の可能性もある。
いや待て、まだ彼女を疑うのはよろしくない。
男性のほうから強引に誘ったのかもしれない。真澄は何かと断りづらい人間だからな。
そう信じる譲治だったが、予想外な光景を目撃してしまう。
彼女のほうから男性を連れてどこか雰囲気のある飲食店に向かう場面を見てしまった。
二人は店に入っていって、俺はこの近くを呆然と立ち尽くすしかなかった。
そして。俺の何かが割れるような感じがして、そこから走り去っていった…。
・・・
譲治は近くの海岸の波止場まで走っていった。
人の気配のなく、潮の音しかない波止場で譲治は考えこんでいた。
「は~ぁ、やってらんね」
なんかもう人生嫌になってきた…。
とうとう、彼女に愛想を尽かされてしまったのかもしれない。
俺がいつまでも待たせたせいだ…。
もう、ここから飛び込んだら、こんな世界とおさらば出来るかな…。
鞄を地面に置いて、今まさに飛び込む準備をしている。
しかし、ここはそんなに潮の流れは強くなく、底は浅い。
死ぬには難しいレベルだ。
まぁこんなところで飛び込んだって死ねないのだけどな。
少し頭を冷やすだけだ…。そう頭を冷やすだけだ…。
どうせ溺れたって、近くの砂浜で打ち上がって誰かに助けられるだろう。
もう自暴自棄な考えしか出来なくなり、他に何も考えられなくなってしまった譲治。
そして浅はかな考えで海へ飛び込んでいくのであった。
真澄…。ごめんな。
俺はもう疲れた…。
見事に海へ頭から飛び込んだのだが、
しかし運悪く飛び込んだ先に突出した岩があり、そこへ激突してしまった。
そして譲治は海の中で意識を落とすのであった。
これが本当に現実世界から逃げ出すことになるとも知らずに…。
※12/14 修正を行いました。