2-02_初めての野営
馬車に揺られながら、過ぎ去っていく景色を眺めていく。
ただ揺れが少し激しく、さっきから視界がぐわんぐわんして気持ち悪い状況に陥いる。
車酔い…いや馬車酔いか。
あまりの気持ち悪さに吐き気を催していたら、向かい側に座るアリサが心配してくる。
「大丈夫ですか?ごめんなさい、私では体調不良までは治せないから力になれなくて」
「おいおい、もうへ垂れ込んでるのか。まだまだ先は先は長いってのに」
「すいません、一応我慢できる程度なので大丈夫だと思います…。少し横になっています」
横になって目を閉じておけば少しはマシになるだろうと思い寝ようとしたら、アリサが隣へ移動して来る
「でしたら、私の膝お貸ししますよ。」
そう言いながらアリサがアピールするように膝を差し出してくる。
「え、いやいや、そこまでしてもらわなくても…」
「でも、そのまま寝るとしても余計に気持ち悪くなるだけですよ。ほらどうぞ」
強引に体を倒され、膝枕をさせてもらう態勢になった。
人生初めての膝枕。アリサの体温が直に伝わる、なんだか気持ちいい。
いやいやいや。
まだ彼女の真澄にもしてもらっていないことだから、何か申し訳なく感じる。
「これはジョージさんが来たことの感謝の気持ちということで受け取ってください」
「感謝って…。俺が感謝する立場なんですけどね」
「今まで、すごく離れた年長者の人しか話せなくて気を遣っていたのですが、ジョージさんみたいに年の近い人と気軽に話せるようになって嬉しかったです。」
まぁクヒド村には中年かお年寄りしかいないからな。アリサみたいな若者にはつまらないだろう。
といっても俺もそこまで年齢は若くはないのだが、外見で若く見えたんだろう。
「ですから、友達の印として受け取って下さい。」
友達か、そこまで言われてしまったら素直に受け取ろう。
「いいねぇ~青春だね~。だけどまだ娘は渡さんからな!」
「お父さん!そういうのじゃないから!」
何か二人が言い争ってる気がするが、なんだか眠くなってきた…。
そうして、譲治は眠りに落ちていった。
「おやすみなさい。ジョージさん」
・・・
・・・
馬車を走らせること10時間ぐらいは経っただろう。
辺りはもう暗くなり始めて、オルターが野宿できる場所を探しながら馬を走らしている。
俺たちは外が暗くなる前に灯りの準備を始める。
積み荷からあるものを探す。すると蛍光灯みたいなものを見つけたのでそれを取り出し、
この赤い石<魔導石>という電池の役割をしたものをはめ込み、起動させる。
すると照明のように辺りが明るくなり周囲を見渡せやすくなった。
こういった魔導石を用いた装置を魔道具と呼ばれているらしく、この世界での電化製品みたいな感じだ。
しばらくして、オルターが野営できる良い場所を見つけたので、そこへ馬車を止めた。
馬車から降り俺たちは野営の準備に取り掛かる。
オルターが馬車に取り付けてあった、幻獣の避けのお香を中心に置く。
以前見せてくれたのと同じもので、幻獣を近寄せない魔道具の一つだ。
馬車に乗っている間、幻獣に遭遇しなかったのはこれのおかげだ。
「あんまりここから離れすぎないようにな。とりあえず火を起こせそうな適当なものをかき集めてくれ」
オルターが馬車を繋ぎとめている間、俺とアリサは燃えそうなもの探し始めた。
そこらに落ちている枝や枯れ葉などをかき集めて、どこか適当な所へ一か所にして置く。
ある程度かき集めたら、オルターが火打ち石のようなものを使い火を起こし始める。
俺たちがかき集めた枝や枯れ葉などが燃え始め、学生時代にやったキャンプファイヤーを思い出す光景になってきた。
「ひと段落したことだし、そろそろ明日に向けて休もうじゃないか。長時間、馬車を走らせるのは流石に堪えるぜ」
オルターが一日中、馬を引いてくれていたから疲れるのもしょうがない。
「でしたら、見張りは俺に任せてください。昼間は俺一人だけ寝ていたわけですし、夜は平気だと思います。」
「確かにアリサの膝で寝ていたんだ、代償として見張りはお前さんに任せるのを当然だろう」
「はは…みっともない所を見させてすいません…」
昼間はアリサに膝枕させてもらって、気持ちよく寝ていたらしい。
社会人として色々と恥ずかしいな…。
「それじゃあ、俺は休むとするぜ。何かあったら無理矢理でも叩き起こしても構わないからな」
そう言ってオルターが布の毛布を被って寝込み始めた。
オルターが寝たことだし、焚火にでもあたるかと思い焚火のほうへ近づく。
すると積み荷の確認をしていたアリサがこちらへやって来る。
「ジョージさん、見張り私も付き合いますよ」
「大丈夫ですよ一人で、そそれに女性が夜遅く起きているのは体に悪いですよ」
「少しだけでも付き合わせてください。ジョージさんと少しお話したいですし」
アリサが一緒になって温まるように俺の隣へ座りこんだ。
「ジョージさんはいつかは帰ってしまわれるのですか、自分の国へ。」
「・・・」
アリサからの突然な問いかけに対し、考え込んでしまった。
「いえ、ジョージさんが一人で思い更けているのを見た時、寂しそうな顔が見えたので」
確かに帰りたく感じたことがあるが、どうやって帰るか見当つかないし、帰りずらい気持ちがある。
だけど彼女に会いたくなることもある。
「いつかはここを出ていくかもしれない、だけど何時かは分からない。それに帰る方法が思いつかないしね」
「そうですか…。まだジョージさんが来て数日しか経っていませんが、楽しい日々が送れて私は嬉しかったです。いなくなることを考えると少し寂しいです」
この世界へ来て1週間ぐらいだけど、今までの苦痛の日々しかない日常とは比べられないぐらいほど楽しい日々ばかりだった。
そう考えると此処で一生暮らしていきたいなと思うことがあるが、彼女の真澄のこともあるから何時しかは戻る時が来るかもしれない。
「なんか眠くなってきちゃいました…。私もそろそろ寝ようかな」
アリサがうとうとし始めて、今にも眠りに落ちそうな顔だ。
朝が弱いのだし、そろそろ寝かせないとなと思い、毛布を持ってきてあげる。
「あっ、ありがとうございます」
アリサに毛布を手渡し、近くの木陰へ一緒に付き添う。そして木陰へ寄りかかり毛布を被り寝る態勢へ入る。
「これからも私たちは友だちですよね?」
「あぁ、友だちだね」
俺の返答に安心したのか、アリサは可愛らしい微笑みを浮かべる。
「そうですよね。良かったです。それではお休みなさいジョージさん」
そう言いアリサは眠りに落ちていった。
異世界へ来て、初めて出来た友達が美少女だとは変な話だが、
本当は見も知らずの俺に好意的に接してくれるアリサとオルターに出会えた分、運が良かったのかもしれない。
そして暗い夜の中、譲治は一人で朝を迎えるのを待っていくのであった。
2/23 改稿・修正