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紅蓮の面の男

 夏郷とムロは、闘技会場に辿り着いた。


「案外大きい建物だな」


 ムロが目を皿にして見上げる。


「ドームか。こういうの見ると思い出すよ」


「ん?」


「この間、野球観戦をしたんだ。やっぱり生の臨場感は流石だったよ! 応援してたチームは負けちゃったけどね」


「ということは……夏郷、ベースボール派なんだ」


「ムロは?」


「オレは、断然サッカー派!」


「そうなのか。どちらにしても生が凄い迫力なのには変わりないけど」


「そいつは同感だ……っと、夏郷、早く受付済まさないと!」


「そうだった!」


 二人は急いで受付を済ますと、ドームに入った。


「……あそこの舞台上で試合をするんだ……」


「夏郷、出場者は待合室だってさ」


「本格的だね。そういえば、ルールを聞いてないけど」


「受付で渡された紙が全てらしい」


 ムロが紙を裏返してみせた。


「そこは質素だね」


 歩きながらルールを読んでいく。


「……場外は負け、死なせたら負け……それだけ?」


 夏郷は何度も見返すが、書いてある内容はそれだけだった。


「要は勝ちゃあいいんだ。分かりやすくて助かるぜ」


「ムロ、あんまり熱くなっては駄目だ。俺達の目的はイードだということを忘れるなよ」


「その辺は弁えてるから安心しな」


 二人は待合室に着いた。


「なんかすげー人数だぞ!? オレ達入れない」


「……それならそれで好都合だ……。相手に悟られずに様子を伺える」


 夏郷が待合室の中を隙間から見ていく。

 見ただけで強そうな者達ばかりが目に映っていた。


「夏郷……あれなんか怪しいぜ」


「面を着けてるね。確かに怪しいけど、あからさまに怪しまれる格好をするとは思えないよ」


「いや。イードの奴かは別としても、あれはなんかヤバい気がする」


「ムロの勘は当たるかい?」


「五分五分ってとこだ」


【闘技会の出場者は、舞台上までお越しください】


 アナウンスに従い、出場者が舞台上に向かった。


「私が主催者のリックです。早速ですが、私とグーパーをしましょう。六十人程らしいですが、一気に十人ぐらいまで減らしたいので」


「マジかよ!? てか、グーパーってなんだ?」


「じゃんけんかな? 響き的に」


「グーパー……」


 主催者のコールが始まる。


(こんなんで負けたらシャレにならんて!)


 ムロの手が汗をかく。


「……パ!」


 主催者の手が開ききっている。


「あ……危なかった!」


「残るよね」


 夏郷は、涼しい顔をしている。


「夏郷、よくヘッチャラだな」


「チョキがない分、普通は負けないよ。普通ならね」


「えー、全然残ってるからもう一度」


 主催者の手がグーになった。


「よっしゃ!」


 ムロは、パーを出していた。


「えー、グーを勝ちとします」


「当然だね。そうでもしないと終わらない」


 夏郷は、グーを出していた。


「ああ! 負けちまった」


「主催者がわざわざグーを出す意味はない。あえてグーを出して主催者があいこを勝ちにするのは予測できた」


「パーだけ出しとけばいいと思ってたのに!」


「そんなに落ち込まないで。どうやら残ったのは俺と面の奴だけみたいだ」


「すまねえ。あと頼む」


「やるだけやってみるよ」


 夏郷と面の者が舞台上にいく。


「始めてください」


(よし!)


 夏郷が一気に間合いを詰める。


「……驚いた……よ!」


 刀の先が面を裂き、面の者の素顔が露になった。


「バレちゃったぜ……流石は夏郷さん」


「俺の刀を寸前で避けるとはね。面だけで済ますあたり、並みじゃないな、あか!」


「それはどうも。でも勝負は勝負です。いくぜ、夏郷さん!」


 夏郷と緋の刀が交えた。

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