未練
「完全破壊!」
「二丁拳銃!」
「冷獣砲!」
「……キリがない……いつまで魔物は現れるんだ!?」
《夏郷。聞こえているか》
「? エミル、俺を呼んだかい?」
「いや。話し掛ける余裕などない」
《夏郷……わたし、ナーデだ》
(ナーデ? 本当にナーデかい!?)
ナーデの声とは違う声に夏郷は半信半疑になる。
《ごめんなさい。脅威の生まれた原因……わたしだった》
(え? なんだって)
《突然、記憶が整理された。わたしが本当の元凶だった》
(……心当たり……ある?)
《ない。ないが、記憶にある以上、真実なのだろう。驚いている。わたしは死んでいたのだ》
(死んでいた?)
《その世界を創ったのは、わたしではなかった。わたしは、その世界で生まれ、その世界で死んだ人間だった……》
(この世界の人間だったんだね)
《しかし、その世界に未練があった。人間としての転生を拒み、神という存在として世界を見ることを望んだ》
(それが今のナーデなんだね)
《月日は流れ、いつの間にか、人間だった頃の記憶を忘れていたようだ。神であることに馴染んでいた。だが、神になっても欲は出来るようだ。人間だった頃の記憶を忘れていたわたしは、見続けていた世界に行きたいと望むようになっていた。いつしかそれは嫉妬へと変わってしまった》
(皮肉だね。この世界で生まれた筈なのに)
《……何故、人間としての転生を拒んだのか……。きっと辛いことがあったからだろう。けれど世界そのものと離れるのには抵抗があった。未練があったということは、きっと死を受け入れられなかったからだろう。転生を拒んだくせに、世界と離れるのも拒むなんて……わがままの極みだ》
(神になったのに人間よりも人間らしくなった、か)
《脅威……魔物はわたしの人間への嫉妬が生み出した存在だった。神のくせに人間に嫉妬するとは……わたしは、わたしが憎くて仕方ない》
(……今もしてるの? 嫉妬)
《分からない。これが嫉妬なのか分からないんだよ。現に魔物は現れ続けている》
(こっちに来れないのかい?)
《無理だ。神が行った途端、世界の概念が壊れる。行きたくて仕方のない世界を破壊してしまう》
(人間にはなれないの?)
《わたしは神を選んだ。己で選択したんだ。そう都合よく人間にはなれない》
(俺達はどうすればいい? どうしたら国を……世界を……貴女を救える)
《……わたしが消えれば……消滅することが可能性としてある。だが、神は自害ができない。神が選んだ者のみが、神を消滅させることができる》
(俺達に貴女を殺せ、と?)
《わたしに、神に生死の概念はない。消滅だ》
(ナーデ)
《夏郷達をわたしの元に呼び戻す。世界を、わたしを救いたいのなら……頼む。わたしの最期のわがままを聞いてほしい》
「ガント、身体が!?」
「へ?」
リリに言われ雁斗が自分の身体を見ると、身体が光っていた。
「どうなってる!?」
「ムロ、雁斗ち、夏郷さん。皆の身体が光ってるぜ!?」
《来たれ、変革者よ!》
「「!?」」
夏郷、ムロ、緋、雁斗はナーデの元へと飛ばされた。




