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始まりの涙

「……ナーデ」


「ウダホ、今なんて!?」


「ナーデと言った。ガディラで見たときは思い出せなかったが、間違いない。あの霧はナーデだ」


「何なんです? ナーデとは」


「イード設立のきっかけ。そして、イードの目的のきっかけ」


「イードの目的。国を変えるという目的のかい?」


「そうだ。この国の治安は悪化の一途を辿っている。物の価値は人が決める世界。しかし、その世界の秩序によって理不尽な等価交換を強いられている人達がいる。それはもう等価交換ではない」


「一国の問題じゃないよね。イードだけでは不可能な変革だよ?」


「途方もないな。イードの目的を方便に、変えるべき国の民を襲い、力を示して主張する身内が現れてしまっている。イードそのものが纏まっていないのに、一国を……世界を変えるなど途方もない」


「ウダホ。貴方が変えるんです。先ずはイードから」


「貴公……」


「隊長! 立ち話はあとにしてください。来ます」


「かあああ!!」


 校長の黒い霧が大きく膨れ上がり一同を包む。


「皆、気をつけて! この霧は危険だよ」


(また暴走して迷惑を掛ける訳にはいかない!)


「変身! ……完全破壊!」


 緋は、黒い霧を打ち消そうとするが消すことはできない。


「うおおお!」


 ムロは、武装石を惑い校長に反撃する。しかし、黒い霧が視界を阻み、上手く決定打を与えられない。


「どうした? そんなことでは倒せんぞ」


「ちょこまか動きやがって!」


 ムロが高速移動とテレポートを組み合わせ、校長を翻弄する。


「無駄な足掻きを」


 校長は霧を飲み込むと、一気に圧縮して放った。


「……あっぶ!? 黒い霧の玉なんて撃ってくんのか」


「全員纏めて黒い霧に呑み込まれろ」


「そんな気なんか塵分もない! 光で晴らしてやら! 神聖な判決ホーリージャッジメント!」


 ムロの光線が霧を晴らす。しかし、校長は大量の霧を吸い込んでいた。


「特大の闇に呑み込まれてしまえ!」


「あんな巨大な玉をぶつけられたら流石にキツイぜ!?」


「ムロ、緋! こうなりゃあ全開の攻撃を放つしかねえ。いけるか?」


「雁斗ち。それを訊くのは野暮ってもんだぜ?」


 緋は、ヘキサゴナルモードへと変わると、エネルギーを溜める。


「ぶっかましてやるぞ!」


 ムロもエネルギーを溜める。


「んじゃ……やろうじゃねえか」


 雁斗の両眼が金色に変わり、身体を獣の毛皮が覆う。


「くたばれー!!」


 校長が黒い霧の玉を放った。


神聖な判決ホーリージャッジメント!!」


「スカーレット・エクストリーム!!」


自由の剣(フリーダムセイバー)!!」


 ムロ、緋、雁斗の光線が黒い霧の玉と激しくぶつかる。


※ ※ ※


「……アアア……!?」


 ナーデの様子がおかしくなっている。


「ナンダ!? ……イッタイ、ワタシ ノ キオク……」


 ナーデは混乱していた。急に頭の中が混乱し、記憶が甦ってきたからだ。


「ワタシ ノ……キオク、ナノカ?」


 何もかもが解らない状況で涙を流している自分に、ナーデは恐怖さえ覚える。


「ワタシ……ワタシハ!?」


 ナーデの身体が光を放つ。人間とは違う姿をしていた自分の姿。流した涙が鏡のように姿を映す。そこには、涙で頬を濡らす少女の姿があった。


「脅威を生んだのは、わたしなのか!?」


 少女の姿のナーデは、座り込んだまま立ち上がれずにいた。


※ ※※


「ウダホ、これは?」


「こんなに大量のナーデは初めてだ」


 一同を囲むように魔物が現れた。


「私が動きを封じよう。その隙に、貴公とエミルで退治してくれ!」


「分かったよ。頼んだよ、ウダホ」


「手短に済ませます、隊長」


 夏郷の刀とエミルの鞭が魔物を消していく。


「な、なんだと!?」


 校長の身体をムロの剣が貫いていた。


「魔物の集団、か。さっさと片付ける!」


「いくぜ!」


 雁斗と緋も魔物を倒しに掛かった。

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