刀と刀で語る者
「オレは、先を急ぐ。坊主、派手に立ち回りたまえ」
校長は、霧となって姿を消した。
「斬ってやる! はああ!」
夏郷が黒い霧を纏いながら刀を振るう。その様子を見て、シャームロの人々が逃げていく。
「逃がすか」
ニヤッと笑みを浮かべると、黒い霧を自分の手足のように操って、走り逃げていた女性を捕まえた。
「離してください!」
「斬られろ。ははは!」
夏郷の刀が霧を纏い、女性に振るわれる。
「やあああ!」
夏郷の刀が血を浴びて、女性の悲鳴が止んだ。
「斬らせろ……斬らせろおお!」
黒い霧は、夏郷の刀と同じ形状へと変化する。
そんな霧が、夏郷の周辺で舞っている。
「斬らせろおおお!」
霧の刀は、逃げ惑う人々に襲い掛かる。
シャームロは、瞬く間に血の臭いが漂う街へと変わっていった。
「ふふひ……ひひ……。もっと、もっと斬らせろ。気の済むまで斬らせろおお!」
夏郷の狂ったような声が轟く。
「夏郷さん!」
緋が戻ってきた。
「……夏郷さん。この状況……夏郷さんの仕業ですか」
「ふふひ。いい気味だろう! 斬る度に、刀の切れ味が増している気がするよおお!」
「夏郷さん! 正気ですか? 正気なら正気じゃないですよ。人を斬って笑うなんて……刀ってのは斬る度に切れ味が落ちるもんです! 刀が泣きますよ!」
「人を斬らない刀ほど、宝の持ち腐れってのはない。斬ってやらなきゃ、それこそ刀が泣く」
刀に付いた血を払うと、その刀を舐めていく。
普段の夏郷からは想像もつかない姿に、流石の緋も身の毛がよだつ。
「斬らせろおお! もっと斬らせろ!」
「黒い霧、か。漢にとっちゃ災い以外の何ものでもない。漢の大事な人達を悉く泣かせやがって!」
緋は、インビンシブルモードに変身すると、完全治癒を使い、シャームロの人々の傷を癒していく。
「今の夏郷さんを止めるには、殺すしかないみたいです。仮面英雄伝みたいに、アンチウイルスとはいきません!」
(完全破壊が効かない以上、もうこれしかない。ムロが任せろって言ってたけど、本当は殺したくなんかない! 漢なら、あとで何されても構わない!)
緋は、ヘキサゴナルモードに変身すると、虹色のオーラを纏う。
「斬らせろおおお!……紅蓮緋あああ!」
霧の刀が緋に向かっていく。
(スカーレット・ローブ!)
羽織っていたローブを光の壁へと変換して攻撃を防ぐ。
(スカーレット・ドライブ!)
縦横無尽に動き、夏郷に動きを読み取られないように急速に近付いていく。
「緋あああ!」
黒い霧が夏郷の叫びに応えるかのように、緋の身体を縛り上げる。
「斬らせろおおお!」
身動きが取れない緋に向かって、夏郷が刀を振り向かってくる。
(紅蓮斬・乱舞!)
二刀流の技で黒い霧を斬り剥がし、向かってきた夏郷の刀を受け止め、更に受け止めた刀を振り落とすと、そのまま夏郷に二刀流の斬撃を食らわせた。
「ぐふあ!!」
夏郷は地面に倒れこむが、霧の刀は緋へと飛んでくる。
「魔物とは違うみたいだけど、害を及ぼす霧なら、跡形もなく晴らすまでだぜ!」
「……斬らせ、ろ」
「目を覚ましてくれ、夏郷さん! スカーレット・エクストリーム!!」
「いぎゃいあああ!!」
虹色の光線を受けて、夏郷に纏っていた黒い霧は消滅した。
「……」
「夏郷さん。ごめんなさい」
「……緋……」
「夏郷さん!? 生きていて?」
「ああ。ごめん、迷惑かけたよ」
「後輩として、先輩の道を正しただけだぜ」
「俺、いっぱい殺した」
「殺してなかったぜ? 重傷でしたけど、漢が全員治しました」
「そうか……先輩として情けないよね」
「夏郷さん、傷を」
緋は、インビンシブルモードになり夏郷の傷を癒すと、変身を解いた。
「そういえば、ムロ達は?」
「安全な場所で待ってるぜ。リリっちとセイララをほっとくわけにもいかないから」
「……雁斗君は!?」
「分かんないぜ」
「俺がどうかしたか?」
雁斗がザンロクを担いできた。
「雁斗君!」
「派手にやったみてえだな。血の臭いが残ってる」
「聞くかい?」
「言わなくていい。その分、こいつから訊くからよ」
雁斗は、気を失っているザンロクをポンと叩いた。




