表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/40

海の塔

「へえ。なかなかに綺麗な星じゃないか」


 食事を済ませた夏郷は、夜空に輝く星を眺めていた。


「失礼します。お布団をお持ちしました」


 民宿の女性がやって来た。


「ありがとうございます。お陰さまで休めてますよ」


「そうですか。そう言ってもらえると、こちらも励みになります」


 女性は、布団を敷きながら答える。


「それにこの星空。眺めているだけで心が洗われます」


「人が平等に、分け隔てなく見れるのが星空の利点です。心が鎮まります」


「何かあったんですか?」


「お客さん、鋭いですね。わたし、婚約をしているんですけど、相手方の親御さんが反対なさっていて」


「心当たりは?」


「わたしは、民宿を営む娘。婚約者の職業はドゥンの運転手。釣り合いがないんですよ」


「この世界は、トレードで成り立っているんですよね? なら、格差なんか無いんじゃ」


「ドゥンの運転を任されることは、とても光栄なことなのです。民宿など幾つも在ります。そのことがネックなのでしょう」


「でも好きなんでしょ? 婚約者のこと」


「当然です! わたしは、彼を尊敬し、愛しています」


「その想いを相手の親御さんにぶつけてみたら? 人を好きになることは、そう簡単なことじゃない。結婚なんて尚更ね」


「お客さん……どうしてそこまで?」


「俺も婚約してるんだ。両家ともうまくいってるから心配はないんだけど。だからかな、後押ししたくなっちゃったんです」


「そうだったんですか。なんか余計なご心配をお掛けしました。でも、心が楽になりました」


 女性に笑みが浮かぶ。


「その笑顔が、この民宿の名物じゃないかな。俺、この民宿に来て良かったですよ」


「ありがとうございます。励みになります」


 女性は、礼を述べると部屋を出た。


「婚約者、か。心配してるよなあ」


 夏郷は、圏外になっているケータイを見た。


※ ※ ※


 翌日。


「毎度ありがとうございました。またのご利用を心からお待ちしております」


「こちらこそ。ゆっくりできてよかったです」


「お客さん、海の塔に行かれるのですよね。気を付けてくださいね。あそこは危険との噂です」


「そうなんですか? まあ、多少の危険には慣れっこですから平気ですよ」


「ご武運を祈っております」


 女性が夏郷の手を包んだ。


「行ってきます」


 夏郷は、歩き出した。


「危険との噂か。老朽化なのか? 塔から飛び降りて死者が出てるとか?」


 そうこうしてるうちに海の塔に着いた。


※ ※ ※


「見た限り危険な感じはしないけど」


 夏郷が塔に入っていく。階段が上へと続いてるだけの質素な造りだ。


「上るか」


 夏郷が歩くごとに階段が軋んでいく。


「やっぱり老朽化かな」


 夏郷は、階段を上りきると辺りを見渡す。


「何にも無いな。老朽化で決まりだ」


 夏郷が降りようとする。


「待ちやがれ」


「はい?」


 斧やら金棒やら物騒な物を持った集団が夏郷を囲む。


「身ぐるみ剥いでから出ていけ。ワイ達の縄張りに足を踏み込んだ罰だ」


「縄張り? この塔は皆のものだろう」


「誰も寄り付きやしねえ。皆、なんて方便だ」


「……おたくら知らない? 世界の脅威のこと」


「何のことか? それよりも今の自分の脅威を気にするんだな! 野郎共、掛かれ!」


 夏郷を囲んだ集団が攻めこんでくる。


「危険なのは、アンタ達だったか」


 夏郷が刀を引き抜いた。


「構うな! やれい!」


 振り下ろされた斧を避け、突き出された小刀を払い、夏郷は刀で峰打ちをした。


「周りは片付けた。どうする?」


何者なにもんだ!?」


「ただの刀使いだ」


「悪い冗談だ。妙に手慣れていやがる」


「まあね。で、どうする? 掛かってくる?」


「こんな手練れだとは思わなかったぜ」


「いい判断だよ」


 夏郷が刀を鞘に納めた。


「……さっき妙なことを訊いてきたが、何が目的だ?」


「世界を脅かすほどの存在を捜してるんだけど知らない?」


「もしかして……イードのことか」


「イード?」


「色々と騒ぎを作り出す集団だ。何を仕出かすか分かったもんじゃねえ! 世界を脅かすかどうかは知らんが、厄介な存在なら奴等さ」


「イード。覚えた。貴重な情報どうも」


 夏郷は、階段を下りていく。


「待て、名前を聞かせろ!」


「夏郷だ」


 夏郷が塔を出た。


※ ※ ※


「……イード……。また集団か」


 夏郷は、地図を広げる。


「脅威は、少なくともこの街には居ない。ナーデが飛ばす場所を間違えたのか? どのみち都会に出る必要があるようだ」


 夏郷はドゥンに乗る為、駅に向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ