シャームロのアイドル
「きょうのお月はどんな月? 三日月! 半月! 満月!♪」
夜の街を灯りが静かに照らしている。
そんな街中で、フリフリな格好で歌っている女子がいた。
「どんなお月も明るいよ♪ 夜空に輝く神秘の光♪」
彼女の周りには、それはそれは大勢の男性が集まっていた。ラームで光るライトを懸命に振っている。
「だ・け・ど、一番明るく神秘的なのは……あ・た・し♪」
「「うおおおお!!」」
つぶらな瞳のウインクを見せつけられた男性達が、割れんばかりの歓声を上げた。
「何だか凄え歓声だ。おまけにむさ苦しい集まりだし」
「どうやら、アイドルのファンが集まっているみたいだね。これだけのファンが付くってことは、それだけ魅力があるという証拠だよ。雁斗君は、好きなアイドルとかいるかい?」
「アイドルそのものに興味無え。最近流行りのグループの曲とかを聴いても、全然興味が湧かねえんだ」
「意外だね。雁斗君ぐらいの年頃が1番ハマりそうなのに」
「営業スマイル振り撒いて夢を与えている人間より、恐怖の雄叫び吠えあげて絶望を与えている獣に夢中だったから」
「あはは……ご、ごめん」
「みんなー! みんなのアイドル、セイララだよー! あたしの歌どうだった?」
「「サイコー!!」」
「きょうもすっかり夜だけど……あたしが笑顔で明るくしてあ・げ・る!」
「「セイララちゃーん、可愛いー!!」」
「ピンクでフリルのツインテ。マジでいたのかあんな奴……」
ムロが目を見開いて見ている。
「んー。漢、アイドルには用ないぜ。確かに可愛いけど、惹かれないぜ」
「ムロも緋も興味ないのか~。まあ、俺もそこまで興味ないけどね」
「ちょーっと! そこの男子達!」
セイララが夏郷達を指差す。
「さっきから、興味ないって言葉が胸を突き刺してくるのだけど! アイドルを目の前にして失礼じゃない!?」
そう言いながらセイララが近付いてきた。
「どう? こんな至近距離でアイドルを見れるなんてラッキーよ」
「……えーと……正直、反応に困るよ」
「えー!? あたしを見て困る人なんて初めて見たよ」
「そうなんだ? 何だかごめんね」
「あたしに困り顔で謝るなんて……よし! 特別に歌ってあげる! これでメロメロにしちゃうんだから」
セイララはノリノリで踊り始める。
「あたしはー、アイドル♪ みんなのー、アイドル♪ だけどやっぱり一人の女の子。恋のひとつもしてみたい♪」
セイララのピンクのツインテールが、光に照らされて、アクセサリーのように彼女の魅力を引き出している。
「今夜きみと一緒に手を繋いで歩きたい♪ 乙女なアイドルの密かなこ・こ・ろ♪ ラブ! ラブ! アイ・ラブ! いつかはあげたい乙女の恋心♪」
ウインクにピースサインで見事に決めて、セイララは笑顔を振り撒いた。
「凄い凄い! プロ意識を見せてもらったよ」
夏郷が精一杯拍手をした。
「でしょでしょ! あたしの虜になっちゃったでしょ?」
「悪い。確かにアイドルの魅力を見せてもらったけど、虜になったまではいかねえ」
「なんですってー!? どうしたらあたしの虜になってくれるのかな?」
セイララが雁斗に詰め寄る。
「無理だ。そもそも俺のタイプじゃねえ」
「はああああ!?」
夜のシャームロで、セイララが大声を上げた。




