たしかあのときっていう回想はだいたい後付け
白い、溶けかけのチーズのような、滑りのある体が光っていた。
哺乳類の体。クジラのような巨大なフォルムが、教室の天井近くにぽっかりと浮かんでいる。
いや、教室全体を覆っていると言ったほうが正確だろう。影はある。が、他のやつらは気づいてない。
窓から入る日差しを浴び、体の表面を幾重もの斜線が色彩を変えて光っている。
たった今水から出てきたかのようだ。よく見ると体中に古傷のような切れ目が入っている。
そして何よりも奇妙なのは、体の中央に記号的といっていいほど丸い穴が空いていた。
直径五メートルくらいだろうか。真っ黒で中に何も見えない。
ああ、一番後ろの席で良かった。全体が見渡せるなあ。
僕がこの光景を目にして思ったことを包み隠さず言おう。
見た瞬間「まただ」と思った。そしてそう思うと同時に僕は混乱した。
記憶が取り出されるのが遅い。曇った薄汚いガラスに古い血がこびりつき、何かの悲鳴を伝えているように・・もどかしい。
また・・・?そう・・・まただった。
・・・青い空。
人がいない。
昼休憩。
そう・・・そうだった。
前に見た時、あれは校舎の外にいた。前に見た時は屋上より三百メートルくらい離れていた場所にあったっけ。
とにかく猛暑だった。
彼女の半袖を見ていた。彼女?誰だっけ?
ああ・・・ああ・・・そうか、そうだったのか。
あれが僕を小学校に飛ばしたのか。
ーたしかあのとき