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エイ  作者: ごめん手
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軟体生物あかりん登場☆

日枝明里は軟体生物だ。

 そして魔法使いあかりんだ。

 彼女はそっと靴を脱ぎ、おぼつかない手で丁寧に靴を揃えて、端に置いた。

 テレビの音が漏れている。申し訳ない程度ってレベルではない。まるで玄関にテレビがおかれていると錯覚するほどだ。

 格子戸を音がしないように開ける。台所兼居間が見える。その奥で、座った年老いた老婆と、でっぷりと太った中年女性がテレビの前に座っている。

 あかるの母親と、母方の祖母だ。

 テレビを見ているようでもあり、そうでもない。目をこちらに向けようともしない。

 そりゃそうだ。耳が遠い老婆と一緒に生活し、彼女も耳が悪くなってしまったのだから。

 いや、細かく言えば違う。母は生まれてからずっと祖母と生活しており、祖母の耳が悪くなったのだ。

 そして彼女もそうなった。いたって自然の成り行きだ。その圧倒的な許容があかるには恐ろしくてたまらなかった。

 なぜ、テレビの音を制限しようとしない?母は祖母が二階で寝ていても音量を変えようとしなかった。

 私が少し下げてというと、「おばあちゃんが音量の変え方を知らないでしょ」と却下された。

 なぜ、教えようとしない?母親は最初から諦めきっているようだ。祖母のことだけではなく、あらゆることを諦めているし、許容している。

 諦めと許容は違うという。そうかもしれない。そして母もどちらでもないのかもしれない。

 彼女は起きたことすべてをすぐ自然の状態だと思えてしまうのだろう。客観的な意識が欠けている。

 あかるには学校で、チョコレートや、パンを少しずつ食べるクラスメイトくらい理解できなかった。

 彼らはなぜそんなに余裕があるのだろう。なぜひとかけらで満足できるのだろう。いつそのひとかけら分を体が欲しているのかと理解できるのか。考えても考えてもよくわからないのであった。

 居間兼リビングを抜け、きしむ階段をのぼる。物置権あかるの部屋に入る。物置と自分の部屋が一緒になっていることを彼女は知らない。母親も祖母も知らない。皆、都合良く解釈している好例だ。

 ランドセルを脱ぎ、学習机の上に置く。小綺麗に整頓された机だ。机の上に敷いているシートには知らないキャラクター三匹。一見悪趣味な色のねずみのようだが、タマネギのようなフォルムの頭が明里に安心感を与えてくれる。ピンク、青、黄色の同じ顔をしたそのキャラクターが足や手を前に出して元気よさをアピールしている。

 丁度、あかるが置いたランドセルがキャラクターの胴体部分を隠していて、真紅のランドセルの上からキャラクター三匹の笑顔が覗いている。

あかるの部屋の六畳のうち、二畳は服や布団を入れた箱が堆く積まれている。

 あかるのために新しく購入されたものはランドセルのにある教科書類、学習机の中の雑多な文房具類、布団で寝かせているぬいぐるみしかなかった。ランドセルや学習机は母親が祖母に買ってもらったもののお下がりだ。 母親が買おうとしなかったわけではなく、あかるが、そうした方がお母さんが喜ぶと思っての判断だった。

 あかるは本を読まないが、古書の埃っぽいにおいが大好きだったし、何よりおじいさんが死んだばかりで迷惑をかけたくなかった。

 今では買ってもらったほうが良かったと後悔している。母親が自然に受け止められる前にそうすればこんなことにはならなかったのに・・・。


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