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エイ  作者: ごめん手
19/22

苦悩の確率

 あのエイの顔をした少女と、母親が目の前に背を向けて手をつないで立っている。

 そして、さっき脳内で会話してたと思わしき少女の顔をした少女が、人間の形をして座っている。

「あ・・・」声はでない。うーん、困った。  

 ああ、脳内会話をずっとしていたわけだから、脳内で話しかければいいんだ。

「ねえ、君。君というか、そちらにいる女性

 や、お嬢様でもいいんですが、何かきこえ

 たらお返事くださるでしょうか」

 無反応のようだ。

「たぶん、僕と同じで声が出ないのでしょう

 ね。ではリアクション・・・例えばそうで  

 すね。なんだっていいんですが、ああ、そ  

 うだ、左手をあげるとか左手が動かなかっ 

 たら右手でもかまいません。とにかく僕に

 わかるように、何かしらのリアクションを

 してくれないでしょうか。」

 無反応。呼吸はしているようだけど。ゲームのアイドル状態でももっと多彩な動きをしてくれるぞ。現代のゲームはすごいんだ。

「もしかして、肉体が動かないのではないで

 すか。僕もそうなんですよ。(今動こうと

 して気づいたんだけどね)いやあ、困りま

 したね。局部麻酔を打った箇所みたいな、

 なんというか、ゴムのような感覚に包まれ

 ているという感覚だけはあるんですが。と

 にかくどうしましょう。」

 僕が一人脳内会話を続けてしばらく経った。体感で2時間弱。

 視線の端を何かがよぎる。僕はそれを知っている。というか、心待ちにしていた。

 以前、僕であったものだ。あの9本指の何か。ああ、一つ目だったのか。どうりで見えにくかったわけか。いや、一つ目だから見えにくいってことはないのかな、そこらへんのところはよくわからない。僕はとっさに動いて、その物体を引き止めようとしたが、やっぱり移動できなかった。足が動いている感覚はあるのだが、前に進まない。あの近所のハムスター、何て名前だったっけ。ふとよぎった。

 しかしどうだろう。一つ目は僕のほうに歩いて、這ってくるではないか。足で上手くバランスをとりながら。その姿が哀れみの感情を引き起こさせる。地を這う身体欠損者。哀れみはとても自動的な感情だったのだ。スイッチを押すように簡単に発動してしまう。

一つ目は、僕を通り過ぎ、淡々と這っていく音だけが聞こえる。

 僕は、なぜか想像で殺した女性のことを思い出していた。

 子どもが生きがいになるの。彼女は言っていた。つまらないのだろうなと思った。子どもが巣立ってしまったらとか想い合ってくれていないからとかそういうのではなく、子どもの感情は抜きにして・・・。

 個人の衝動とか・・・何かの苦しみ、希望とか・・・。

 ここだけ時間が静止して、つまらないことばかりが死ぬほど増えて、些細なことにとらわれて、そしていずれ死ぬ。

 それだけじゃないか。逆に言えば期待しすぎとも言えるこの感情はどうしたら良いのだろう。

 ラットが自分の脳に埋め込まれた電極を刺激し続けるように。報酬の予感を追い求めながら・・・ずっと満足は得られない・・・いや、辞めよう。そういうもんだ。

 うつ病の認知療法本にも書いていただろう?マイナスのストロークがどうのこうのって・・・ちゃんと読んだのに。

 とにかく予感はうんざりなんだ。うんざりだ。何しても!何しても!何しても虚しいのに変わらない。

 個人の自意識の問題なんてとっくに解決しておけと自分でも思うが、こればかりはなぜか考えてしまう。

 自分の現状を把握しろ?はあふざけるな。

それがなんだっていうんだ。それが、何。

 いやしかし、現代そういうシステムだったとしよう。承認を受けないと生きていけないとしよう。何か、創作、仕事で評価されたとする。あるいは友人に、恋人にあなたって面白いわ、いつまでも一緒にいたいって思われたとする。一時期にせよ、有名になったり、ちやほやされたとして、承認欲求がみたされたとしよう。それから先、僕はどうするだろう。一時期でも、生きるまでずっとでもいい。とにかくそれを維持しようとして、うけるものはどれか考えたり、他人のアイデアにすがったり、新しい挑戦を避けようとするかもしれない。

 もしくは、それがわかっていて、あえて新しいことをやったりとして、上手くつきあっていくかもしれない。

 ああ、なんだ、結局体験してみないとわからないのかもね。ただ、信じてるけど、信じないから、そういってるんだけなんだ。

 いい家具、いい環境に恵まれ、ありとあらゆるきっかけと義務と規律を与えて僕を縛ってくれる。

 走りだすことができる。頑張ることはとてもとても簡単なのだ。何もしないことよりもずっと簡単なんだ。

 でも、どこかで、僕はそれを軽蔑しているんだ。僕だけじゃない、皆もそうだろう?走り続けることの簡単さに、飽き飽きしているからこんなことを考え、言葉を紡いでいるんじゃないか。でも、いずれ皆負けていく。頑張らないことに負けていく。

 そしてがむしゃらに頑張る。皆に褒めてもらえる。そして、頑張れない日はいいようにごまかす。それも皆、信じてくれる。

「皆、僕をみて。ほら、こんなに頑張っているんだ。見返りがほしいな。誰か僕に気づいて。よしよし、つらかったんだね。セックスでもしましょう。ううん、これは愛の証。人はひとりじゃ生きられないからね。それでも苦しいんだよ、頑張っているんだこんなに、認めてくれないんだ。ううん、でもそんなことわかってる。人は理不尽なんだよね。そうよ、でも生きないとね。生きていればね、そんなことも悩めるんだ。それって素晴らしいことでしょう。え、中に出した。うふふ、子供・・・できちゃうね。ごめん、あまりに君が好きで、半ば意図的だったんだ。子供って私そんなに好きじゃないけれど、いいの?いいよ、僕は好きなんだから。」とかなんとか言ってわかっているふりした会話を続けて、死ぬまで生きるんだぜ。こんなのには耐えられないんだよ。

 意味がないと、生きられないんだ。わかるんだ。わかる。それでもなお、信じられないんだ。僕はもう何も信じられないんだ。

 何を考えても、何で慰められたとしても。そういうシステムだといいきかせても、何しても、僕はもう生きていられないんだ。

 生きていけないんだよ。いや、待てよ。そもそもなんで死ななきゃいけないんだろう。挫折すると、死ぬって・・・生きていけないから死ぬっておかしいよね。生きる死ぬも、一かゼロなんかじゃ決してないんだから。僕はもう寿命的には約半分死んでいて、それが急速になるか、どうかで。しかも、僕が今飛び降りたり、首をつっても、死ねるって限らないんだよ。すぐに発見されたり、打ち所が良かったり、ロープがきれちゃったりするかもしれない。じゃあ、確率の低いところ、確実に死ねそうなところに行けばいいじゃんっていわれると「はあ、結局交通事故と同じで確率の問題なんだ。死とか神秘的なものじゃないんじゃん」と、がっかりしまくってしまう。曖昧なものなんだ、はっきりしたものは何もないんだって。そしたら、急に自殺衝動がとてもチープなものに思われて、ああ、まあ、生きるとか死ぬとかどうでもいいのか。終わるときは終わるし終わりが続きだったってときもあるし、そんなものなのだ。ってごく自然に納得できる。決意なく納得するのはとてもいいことだと思っている。体感は秩序をもたらしてくれるから、素晴らしいんだ。

 僕は、秩序がほしい。安易でもいい。何もなくてもいい。

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