セーブポイントはすごく前に
僕はぶつぶつとそう言っていた。次第に早足になっていく。
僕はそう、秩序が欲しかったんだ。意味では強度が薄い。圧倒的な体積、肉の集まり、存在感、彼女がいるってこと、空間を侵して彼女は僕に物理的に接近する、そんな絶対のものがほしかったんだ。
この子を連れてこれば、次第にこの子中心の生活になるだろう。
恵理子ももう必要じゃなくなる。エイの顔ようなこの子が、僕をしばってくれる。
僕の子供になってくれる。そう、彼女は僕の子供になることができるんだ。ぞっとするほど、生活が変わる。
しかも、勝手に着いてきたんだと自分に言い聞かせれば、何も罪悪感も持たない。
僕は偶然に身を任せて、これをいつも待っていたんだ。そう、彼女が僕にとっての全てを開く鍵なんだ。誰かの歌詞だっただろうか忘れてしまった。
でもとっさに思ったんだ。
「この子を返さなければならない」って。なぜだろう。
本当はわかっている。
逃げれないんだ。いつだって、これ、ここから逃げられない。
後回しにしてもいつかやってくるなんて、そんなことはないだろけれど、自分自体が決まりみたいなものだから、同じことは繰り返しやってくると言ってもおかしくはないのかもしれない。僕はもう、使い古された像でも建てるのが難しくなっているんだ。
気力がないから、もうインスタントのものでしか、代用できなくなっているんだ。
横断歩道のない、細い路地の反対側に行こうとしたとき、ふと思った。
「どこに行けばいいんだ。」
そしてここがどこか分からないことに気づいた。家の最寄り駅で降りたはずなのに。大通りに出ればすぐわかると思って、普段と違う道を選んだのが悪かったのか。さてどうしよう。わけもわからずイライラする。すると また、頭の中で声がした。
「ランドセルのないこ、探しにいこうよ」
僕は何がなんだかわからず、耳を塞いだ。
もうやめてくれ。何度も何度もそう叫ぶ。
僕は今まで通りの生活がしたいんだ。つまらないし、こう言った後で、また後悔するかもしれない。けど、現状を維持したい。そこまでして変えるのはもうたくさんだよ。そんな小説があったら読み続けられるわけはないね。意味ありそうでなさそうでよくわからない断片の物語なんか、誰も必要としていないんだ。お姫様をお城から救い出すそんなファンタジー小説のほうが千倍ましだ。
僕は安心したいんだよ。もううんざりなんだよ。疲れているんだよ。
ああ、格好悪いさ。僕は何もしたいってわけじゃないんだ。ちょっとしたメタ視点を道具に使って、ただ生きているだけさ。
珍しい話じゃない。こんなの誰も一緒さ。僕はそんな人間じゃないんだよ。行動なんかおこせるわけはない。
何だって、頭の中の話さ。何だってね。ついでに言うと、恵理子をオカズにしたが、射精する直前は、好きなAV女優の顔を思い浮かべているんだ。
醜女の恵理子なんかじゃなくね。はは、何でって。そりゃ、死んでんだから、気持ち悪いじゃないか、おまけに罰が当たりそうだしそういうのって少しは気にするよね、ね。そうなんだよ僕は。びびってるんだよ、今の現状にさ。単に。だから僕は、そんなホラーとかさ、そういう大きいことして欲しくないんだよ。あなたが僕以外の人にそういうことするのは別にいいんだよ。でもさ、僕はやめておいたほうがいいと思うな。そんなことしたとしてもさ、今現代、誰も動いちゃくれないよ?せいぜいSNSのネタにされるのがオチ。分かってる?
僕はね、さっきのさっきまで、あの少女誘拐のね、あの妄想のね、少女を抱きかかえるところまでは、何かできるかもって、すっごく、すっごく思ってたよ。でも、実際問題それで、自分の生活が一変するってきいたらさまあ普通に考えてさ、びびるよね。で、もういいやってなるよね。いやもちろんさ、それが普通とか言わないよ?さっきの話と矛盾してるかもしれないけどさ、まあ、確率を考えれば、生活が変わるって思ってそれを喜ぶ人だっているはずだよ。人はほんとうに多種多様だからね。だからさ、もうさ、いいじゃないか。僕は言うのも疲れたし、なんだか眠いんだよ。
もうやめてくれ・・・。そう言って目を開けた。
いやだなもう。あの肉壁の部屋。ランドセルの中にいた。




