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CUORA  作者: 三月べに@『執筆配信』Vtuberべに猫


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20 友と再会-2



 ぞろぞろと五人で街を歩く。ニャミはリィリィに手を引かれている。

それを後ろから見るルーベルは嫉妬して唇を尖らせた。

ラロファとシュアンは、そのルーベルを挟むようにして並んで歩く。

 ルーベルの嫉妬は、ニャミと手を繋いでいることからきてはいない。

あれほどドレスを嫌がっていたニャミが、リィリィにドレスを買いに行こうと誘われると少し考えて首を縦に振った。

ルーベルには絶対に着ないと言ったのに、リィリィにはあっさりと頷いたのだ。

 リィリィのやつめ。

ルーベルは嫉妬で燃える目を向けた。


「リヴェス、女性を睨むな」

「そうだよ、僕らがまるであの二人を路地に追い込んで変態なことをする犯罪者だと思われかねないよ」

「安心しろ、シュアン。その犯罪素質があるのはてめぇだけだ」

「ひどっ! 僕は違うから!」


 街の中を歩いているのだ。人目が集まる。

先頭のニャミは女性らしくない格好だ。

その後ろには、城に仕える騎士の格好のままのラロファ。隣には怖い顔をした有名な魔法使いリヴェス。

悪目立ちするメンバーだ。

 むっつりスケベのレッテルを貼られるシュアンは、自分を棚に上げて距離をあけて歩きたくなった。

 向かった先は仕立屋。

リィリィが言うには、婦人専門の仕立屋らしい。

中には数人の客がいた。

 出迎えたのは、逆三角形の眼鏡をかけた女性。キリッとした印象を抱く細長い顔と目付き。鮮やかなブルーのドレスだ。


「いらっしゃいませ。リィリィ様」

「こんにちは、ミセスシャーリー。こちら友人のニャミです。アクーラス出身なのですわ」


 ミセスシャーリーはリィリィに丁寧に挨拶して、隣のニャミを観察する。

この国では変わった女性のファッション。

アクーラス出身と聞き、ミセスシャーリーは目を丸めた。そして納得する。


「今日はニャミちゃんのドレスを仕立ててもらいに来ました。お願いします」

「畏まりました、こちらへ」


 ミセスシャーリーは奥へと案内した。

先ずは採寸。

採寸しながら色や布について相談していた。

部屋の外で椅子に座り待たされていたルーベルも口を挟む。

ルーベルの希望も、ニャミは飲むことにした。


「あの、シャーリーさんはなんでも聞いてくださるのですよね?」

「できる限りの要求に答えます」

「そうですか、じゃあ」


 ミセスシャーリーに問うとニャミはにっこりと笑う。そして要求することにした。

 待たされていたルーベル達は、ミセスシャーリーの戸惑った大声を耳にする。

ラロファが心配したが、ニャミは女性に対しては比較的優しいからという理由でルーベルが止めた。

 しかしその後、何度もミセスシャーリーの悲鳴や奇声が上がる。

事件に思えて、ラロファは顔を青くした。


「んまぁ!!」

「もう入っていいよールベル達」


 一時間が過ぎると、またミセスシャーリーの声が上がり、ラロファは震え上がる。

そこでニャミがルーベル達を中に招き入れた。

 ルーベルは椅子を引き摺り、中に入る。中を見ることを躊躇するラロファとシュアンも後から入った。

 床にミセスシャーリーが崩れ落ちている。

ニャミとリィリィは大きな鏡の前に立っているが、背を向けていた。しかしドレスを着ている。

 ニャミがドレス着てる。

ルーベルはミセスシャーリーより、ニャミのドレス姿に注目した。

振り向かないだろうかと、待つ。

 ラロファはミセスシャーリーを心配して、近付こうとした。


「かっ、革命だわっ……!!」

「!?」


 胸を押さえながら、ミセスシャーリーは声を上げる。だからラロファは驚き震えた。


「じゃーん!」


 ニャミとリィリィは振り返った。

ドレスのスカートを舞い上がらせたニャミとリィリィは勿論ドレス姿。

 しかし普通のドレスとは違う。夜会のドレスのように露出していた。

しかし露出している箇所が、普通ではない。足首に届くティアードレスは、パックリ切られている。前の方でスリットを入れていた。

だからニャミとリィリィの脚が丸見えだ。

 ニャミは黒のロングブーツで、リィリィは白いブーツ。

太股より上は切れていないため、それ以上の露出はない。

しかし脚が露出していることに変わりはない。

 ラロファは目を背けた。シュアンは身を乗り出してまじまじとその絶対領域を観賞する。

だからルーベルに首根を掴み、後ろに放り投げられた。


「ニャミ、綺麗」


 ルーベルは邪魔を排除すると、ニャミのドレス姿を褒める。そうすれば、ニャミは照れたように笑みを溢した。


「これは革命だわっ! このドレスは流行する! 貴女は革命者だわ!」

「革命者だなんて、そんな。私の世界にあるファッションの一つを要求しただけですよ」


 ミセスシャーリーはそのドレスを絶賛する。革命者だと讃えられてニャミは満更でもないように照れた。

 元々あったドレスにニャミが着てみたいと思ったデザインに要求して手を加えて貰っただけ。

奇声も悲鳴も興奮故だった。

ラロファは理解できないと額を押さえる。

「脚の露出なんて下品極まりないと思っていたけど、これにはエレガントな艶かしさがあるわ! これは夜会で確実に流行る! 流行るわ!」と息を荒くしながらミセスシャーリーは興奮する。


「楽しいねーリィリィちゃん。もっと作ってもらおうか」

「ブーツも欲しいよね、次は靴屋に行こうか」

「うん、ブーツも仕立ててもらおう!」


 ニャミはリィリィに笑いかける。リィリィも笑い返してブーツも提案した。

まだ続くらしい。ルーベルは椅子に座ることにした。

 するとそのルーベルの元に、ニャミがスカートを揺らして歩み寄る。

そのままルーベルの膝の上に、ニャミが座った。


「買ってくれる? ルベル」

「……毎日着るの?」

「えー、着ないよ。ズボンの方が動きやすいもん」

「じゃあなんで買うんだよ……」


 お金を出すのは勿論ルーベルだ。だからおねだり。

しかしニャミは普段着のために購入するつもりはないらしい。がっかりしつつ、ルーベルは買う理由を問う。


「気が向いたら着るよ。……ルベルの前だけ」


 頭を抱き締めるように腕を回しているニャミは、ルーベルの金髪を撫でながら艶かしく囁いた。

次はルーベルだけに見せる。

 妖艶な笑みを浮かべるニャミにときめき、ルーベルは恍惚としたまま頷く。


「ブーツもお願い。ありがとう、ルベル大好き」


 ちゅっ、とルーベルの唇にニャミはキスをした。

すぐにルーベルの膝から下りるとリィリィの元に戻る。

 ニャミからのキスに、大好きの言葉。

ルーベルは口元を緩ませた。

ニャミにメロメロだと、目に見えるほどわかる。


「……お前たぶらかされてるぞ」

「ちげーよ、愛されてんだよ」

「絶対に惚れた弱味につけ込まれてるぞ、気付けリヴェス」

「ちげーよ、ニャミに甘えられてんの」

「気付けよリヴェス!」


 ルーベルはニャミに言いように操られていることに気付いていない。

掌に乗せられて踊らされている。

気付かない幼馴染みに、ラロファは必死に伝えようとしたが、掌を振られてあしらわれた。


「リィリィは? リィリィは普段も着るの?」


 シュアンはリィリィに歩み寄ろうとしたが、破裂音が響く。

ニャミの手にはメジャー。

ビシン、とニャミは笑顔でメジャーを両手で引っ張る。

メジャーが鞭に見えた瞬間。


「近付いたらその可愛い顔以外を、叩くわよ?」


 露出した右足を踏み台に置いたニャミは、鞭代わりにメジャーを振り床を叩く。

 凛々しい。

エレガントなドレスを着ながらも強さのある姿に、ミセスシャーリーはまた絶賛した。

シュアンは戦慄を覚える。


「ニャミさん、ぜひ、ぜひそのファッションを広めさせてください! 貴女のお名前を教えてください!」

「……名前ですか」


 ニャミの手を掴み、ミセスシャーリーは名前を求めた。

この国に流行させるためにも、考案者のニャミの名前を知りたい。

 ニャミのオリジナルではないため、アクーラスのファッションということで伝えればいい。そう言おうとしたが、リィリィがニャミを引っ張りルーベル達の元に連れていった。


「ニャミの名前を考えようよ」

「ニャミは呼び名だし、今じゃもうニャミって名乗ってるだろ」

「オレのファミリーネームにしようぜ」

「それは結婚してからにしなよ」


 コソコソと、ニャミの名前決めを四人で考え始める。

ニャミの本名は木春奈美だ。

今ではニャミと名乗っているため、この世界で使う名前を決めることにした。

 すっかり自分が木春奈美だということを忘れていたニャミは、親しみを込められた名前に改名もいいかと笑みを溢す。


「ニャミアがいい。ニャミア・オズキャロナ」

「一人で決めた!?」


 スパッ、とニャミはファミリーネームまでもあっさりと決めた。


「オズキャロナか……じゃあ、この世界のニャミの名前は、ニャミア・オズキャロナってことで」


 ルーベルはすぐに賛成した。

オズキャロナは、クオラの魔法に必要な材料の一つ。金木犀の香りを放つ十年に一度しか咲かない、ルーベルとニャミを再会させた花だ。

笑いかけるルーベルに、ニャミは笑みを返す。

 早速ニャミはミセスシャーリーに今決めた名前を教えようとして、あることを思い出した。


「そう言えば、ルベルはなんでリヴェスって偽名を使ってるんだっけ?」


 その質問を聞いたラロファとリィリィとシュアンは目を見開く。


「まだ話してないのか!?」

「話してないの!?」

「話してなかったの!?」


 三方向から驚きと呆れた声を浴びたルーベルは、不機嫌な顔となった。

一人だけ知らないニャミは、ただきょとんとする。




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