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02 出逢い


ニャミ視点。





 ふわりと大きな綿が溢れて空に浮かんでいく。

手を伸ばして触れてみれば、砂のように砕け落ちた。綿が撒き散らす金箔を被った黒い髪の少女は、幻想的なそれに心を弾ませて笑顔になる。

綿が消えていくと、そこに少年が現れた。

金髪を靡かせて、ペリドットの瞳でにっこりと笑う。


「オレはルーベル」

「あたしっニャミっ!」

「ニャミがオレの運命のヒト?」

「うんめい?」

「赤い糸で結ばれてる特別なヒト!」


 大きなガウンを着た少年は名乗る。

言葉を覚えたての少女は自分の名前をちゃんと発音できなかったが、少年はそのまま彼女の名前だと認識した。

 運命のヒト。少女にはよくわからなかったが、笑いかけられて笑い返す。


「オレは魔法使い!」

「わー、ほんと?」

「うん! 今からオレの世界で遊びにいこうぜ!」

「うん! あそぶ!」


 出逢ったばかりの二人は、何の警戒心も抱かずに手を繋いだ。


「ママとパパは?」

「ママはおしごとなの。パパはいない」

「いない?」

「あたしだけ、いないの」

「……」

「パパ、どこにもいないの」


 首を左右に振って少女が答えると、少年は笑みをなくした。

それが悲しいことだとまだ知らない少女は首を傾げる。

勘づかれないように少年は笑みを作った。


「オレには、ママもパパもいない。……でも、ニャミがいる! ハートが繋がっているパートナーだ! ずっとずっと一緒だ!」

「ずっとずっと?」

「うん、ずっとずっと! オレには君だけ、君にはオレだけ! 特別なヒトから!」


 その言葉が、魔法をかけた。

魔力ではなく運命の愛が、二人を強い強い絆で結び付ける。

ただこの二人だけを。


「ルベル、ずっといっしょ!」


 少女はにっこりと笑いかける。

少年は少女の手を引いた。


「ニャミの世界はアクーラスって言うんだ。他にはインフェルディノっていう世界と、オレが生まれたミラディオコロって世界の三つ! 三つも世界があるし必ず同じ時代に生まれるとは限らない! だから運命のヒトと出逢える確率は……そう、奇跡なんだ! オレは魔法を使って叶えたんだ、大変だったんだぜ。この魔法書に書いてある材料を集めるの。魔法書を盗むのは簡単だったんだけどな! ちょー悪い奴らからこっそり盗るの、楽しかったぜ!」


 古びた大きな本を出して少年は語る。それを少女が理解できなくとも、お喋りがしたくて話した。


「インフェルディノは、危険なんだ。でもアクーラスよりは簡単に行ける。そうだ、インフェルディノの花は美味しいんだぜ、食べにいく?」

「お花がおいしいの?」

「そう! アメみたいなやつ!」

「たべるー!」

「よし、行こう!」


 夢見心地の少女を少年は異世界へと誘う。

古い本を置き去りに、金箔を撒き散らす無数の大きな綿に包まれて消えていった。

 二人が現れたのは、無限に緑が広がっているように感じるほど地平線の果てまで森が生い茂る世界。

足場の悪い場所に着地をしたせいで滑り落ちたが少年は少女を背中で支えて転ばないように踏みとどまった。


「わぁ、まほうまほう!」

「いひひひっ!」


 少女の喜んだ様子に、少年はご満悦。爛々とダークブラウンの目を輝かせる少女に、少年ははにかんで笑う。

ただ一緒にいるだけで、少年は楽しかった。

 はぐれないように、手をしっかり握り締めて森を進めば、小さなお花畑に辿り着く。

白とピンクに赤の色のガーベラに似た花が一面に咲き誇っていた。


「ほら、ニャミ。あーん」

「あーん」


 少年が一輪を摘まみ、花びらを一つ少女の口に運んだ。

少女は疑うことなく口を大きく開けた。

花びらが舌に触れた瞬間、少女は目を見開いて口元を緩ませる。


「あまーいっ! お花のおかしだぁ!」

「いひひ! ほらいっぱい摘んでいこうぜ! あんま長居してると魔物にみつかっちまう」


 甘い甘いお花を、少女は気に入った。少年は長居は出来ないと自分のガウンを広げて摘んだ花をそこに積み上げる。少女も味わいながら手伝った。

 たった二人しかいない森の中。

微かな物音に反応して少年は睨む。ガウンと少女をしっかり握って構えた。

ガサガサガサ、と音は近付いてくる。


「へびしゃん?」

「うん、蛇。でっかいでっかい、蛇しゃん」

「おばけっ!!」


 花畑を囲う大きな大きな蛇が現れる。小さな二人を見下ろす大蛇は影を落として、狙いを定めた。大きく長い胴で捕まえて丸飲み。

その前に少年は逃走に成功した。


「ここはオレの世界! ミラディオコロだ!」


 また違う世界。

ブラウンの瓦の屋根に着地。そこから見えるのは、茶色系に統一された煉瓦の建物が並ぶ街だった。

ところどころ、煙突から煙を立たせている。

うっすら霞む遠くの方には、立派な白い城があった。


「おしろだー! おひめさまがいるの?」

「んー、いない。お妃様ならいる」


 大蛇のことなど完全に吹き飛んだ少女は満面の笑みとなる。興味が沸いたようだ。

少年がお城に連れていこうかと思えば、下から声をかけられた。


「おい、ルーベル! そこにいたのか!」

「あ、ラロファ」

「ルベルのともだち?」

「まーね」


 少年は紹介しようと少女を背中にくっ付けたまま屋根から飛び降りる。

地面につく直前にまるで柔らかいクッションを踏んだように落下速度がなくなり、庭に静かに着地した。


「だれだ、その子」

「オレの運命のヒト。ニャミ」

「ナミ、です!」

「どっちだ」


 少年を呼んでいたのは、背が高く少し年上の白銀髪の少年だった。

目付きの悪い白銀の少年は顔をしかめて、少女を見る。


「あっ!! お前、あの禁断の書の魔法を使ったな!? 使うなって言ったろ!」

「成功した。ニャミはアクーラスにいたんだぜ」


 怒鳴る白銀の少年なんて放っておいて、少年は鼻を高くする。

少女は白銀の少年の後ろにいる二人の子どもを見た。

 プラチナゴールドのふわふわしたツインテールでドレスを着た少女と、その少女の後ろに引っ付いた可愛い顔立ちの少年。


「あたしドールのリィリィー」

「ニャミですっ」

「この子はシュアン、恥ずかしいんだって」


 ツインテールの少女は微笑みを浮かべて、長髪の少年のことも紹介した。

それからもう一人。


「あたしのお兄ちゃんです」

「……よろしく」


 ツインテールの少女の後ろにそれは立つ。

少女が見上げることが辛くなるくらい大きな大きな案山子がいた。

にっこりと笑顔を書いたパプキンが顔の案山子は、何も言わないが動いて少女を見下ろす。呆気に取られる少女は、とりあえず挨拶をしてみた。


「使っちゃ危険だから禁断の書に書いてあるんだぞバカ! しかもお前、ちゃんと理解してないのにアクーラスから拉致しただろ! 返せよ、ご両親のとこに!」

「嫌だっ! ニャミはオレの運命のヒトだ! ニャミも帰りたくないよな? なっ?」


 まだ口論していた二人は、少女を振り返る。

話を半分以上理解していない少女は首を傾げた。


「えー。かえる。だってきょうあたしのおたんじょうびだもん」


 帰ることだけを伝える。

その瞬間、一同は沈黙して固まった。


「それを早く言え!! おめでとうニャミ!」

「お前が言わせなかったんだろ! おめでとう!」

「じゃあバースデーパーティーしましょ、おめでとうニャミちゃん」


 少年と白銀の少年は声を上げて動き出す。

急遽、少女の誕生日会が行われる。

ツインテールの少女に渡された白いドレスを着て、ケーキ作り。

 それから花火を作る手伝いをした。少年の家にはたくさんの薬草があり、それを混ぜ込むだけで花火が完成。

 庭には案山子と白銀の少年がテーブルと椅子をセットした。

ケーキは仕上げに摘んできた花を飾り付けた。

 花火の元を詰め込んだクラッカーを手に、また一同は声を揃えて少女の誕生日を祝う。

クラッカーが鳴らされれば、空中で花火が弾けて躍り回った。

星や丸が駆け巡るように、色鮮やかな火花を散らす。

それは延々と続き、なかなか消えなかった。

少女は満面の笑みになる。


「たくさんのおともだちとおたんじょうびかいは、はじめてー」


 その言葉は少年に向けられた。

少女の笑みに、嬉しくなり満足する少年も笑う。

それから甘い甘いケーキを花びらと一緒に、少女に食べさせた。

 花火は空中で咲き続ける。賑やかで笑い声が響いた。

楽しい楽しい夢のような時間は、あっという間に過ぎた。

少女が帰ることを望んだため、少年は送った。

また迎えに来ると約束したが、少年は大事な本をなくしてしまい、すぐには二人は再会できなかった。





 ――――…まるで楽しいけれど最後は悲しい結末の映画を見た気分だ。

何故私は忘れてしまったのだろう。

寝ている間に見た夢だと思い込み、忘れ去ったのだろうか。

それとももう会えないから、思い出したら悲しいから、忘却してしまったのだろうか。

 瞼を開くと、大きく成長した魔法使いの寝顔がある。

映像を見せる魔術にかけられて私が寝てしまったから、ベッドに運んだのだろう。

そのまま自分も横たわって眠るなんて、中身は成長していなさそうだ。

 遅くなったけれど、約束をちゃんと果たしてくれた。

髪とお揃いの金髪の長い睫毛。健やかな寝顔を見つめながら、起きたらちゃんと話を聞こうと決める。

昔はなにも理解してあげられなかった。

"運命のヒト"とは、なんなのか。

ちゃんと聞いてあげよう。

私は眠くてまた瞼を閉じる。

 心地よいそれは私のベッドではなくルーベルのベッドで、そこは私の生まれ育った世界ではなくルーベルの世界だと気付かぬまま眠りに落ちた。







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