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CUORA  作者: 三月べに@『執筆配信』Vtuberべに猫


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14 短き花火-2



ちょっぴりおさらい!

『ファベナス』

材料を混ぜて作った薬などの魔法を中心に使う平穏で豊かな国。

妖精が住む。

ルーベルの出身。

『ヴィローマン』

魔物が繁殖する大陸に囲まれているため被害が多く、対抗する戦闘の魔術を中心に使う国。

現在勇者が魔物討伐の旅をしている。





「ええ? インフェルディノに肝試しになんかしたこともあるのですか?」

「若気の至りよ。この国では若者皆の洗礼儀式みたいなものだから、仲間外れが嫌だったのよ。私達は皆、運良く魔界者に会わずに済んだの」


 なんだこの光景。

ファベナス国の城で働く騎士、ラロファ・アルミリエレはキッチンを見て立ち尽くした。

さっきまで無表情でいたニャミがにこにことご婦人に笑いかけながらお菓子作りをしている。

 ことのきっかけは、依頼に来たこのご婦人にインフェルディノの花をニャミがお茶のお菓子として出そうとした時だ。

ご婦人が好きだと言ったため、ニャミがたくさんあると教えた。

「ラズベリーに似た花を凍らせて、氷菓子作ろうと思ってたんです。今、作るので食べてみますか?」と愛想良くニャミが提案すれば、「まぁ、なら手伝うわ」とご婦人までキッチンに立った。

 凍らせていた赤い椿に似たインフェルディノの花の花びらを擂り鉢で少し砕いたあとに、ボールの中で練り込んだ。

 ジェラート風になったそれを見ていたルーベルが、指で掬い摘まみ食い。

ニャミが怒りルーベルの頭を叩けば、ご婦人が笑った。

 まるで祖母と孫の戯れシーン。

仕事はどうした。そんな接客でいいのか。

 言いたかったがラロファは空気を読んで黙っていた。


「んー! 美味しい! 好き好き!」

「私もこれ好きだわ、いいわね」

「んー、美味いな」


 カップによそってスプーンで掬って食べてみれば好評。

ジェラートよりガムのように粘りが強く、ラズベリーに似た濃厚な甘酸っぱさが溶けて広がる。

ニャミもルーベルも満足げだ。

 ラロファにもご婦人が差し出したものだから、有り難く受け取った。


「あの……ご依頼があって来たのではないのですか?」

「……あら、まぁ」

「あ」


 ついでにラロファがその件に触れれば、ご婦人もニャミも思い出したように目を丸める。

忘れていたようだ。

 改めて、応接室で座り直して仕事に戻った。

魔法使いリヴェスに用があってご婦人は訪ねてきたのだ。

その用件を訊いた。


「私、病でもう命が長くないのです」


 白髪混じりの白金髪の老年のご婦人は、ティフィ・チャールドと名乗りそう切り出した。


「病を治す薬をお求めで?」


 黙って最後まで聞くべきだが、"正直者"のニャミは浮かんだ疑問を口に出してしまう。

ルーベルは怪我や病を治す魔法の薬も作り売る。

しかしティフィは首を左右に振った。


「私の病は薬ではもう手遅れですので、今日は他のものを買いに来たのです。私は夫に先立たれ、娘と婿にも事故で先立たれてしまって、孫息子しかいないのです。ずっと私が一人で育ててきました。その孫の誕生日があるの、明日。きっと私が祝ってあげられる最後の誕生日。だから盛大に祝ってあげたくて、花火を買いに来たのです」


 余命僅かなティフィは、一人で育てた孫の誕生日を盛大に祝うために花火を買いに来た。

 それを聞いたニャミは、コーヒーを一口飲み込む。

そんなニャミを、ルーベルは横目で見張る。

感傷的なニャミが、何を思いどんな反応するか。


「私の誕生日も花火上げたよね、ルベル。あれって確か、火石使ったよね。昨日ルベルが暴れる時に使った石」

「あ、やべ。火石、在庫ねーや」


 口を開いたニャミは、昔作った花火について思い出して指摘した。

ピクリ、と廊下で待たされていたラロファが反応するが、それは誰も見ていない。

 ルーベルは昨日暴れた際に使い切ってしまったことを思い出す。

家の前を火石(ひせき)ことファダアンと呼ばれる火の元がなければ、花火は作れない。

アクーラスで言う火薬だ。

因みに破壊したものは全て陣の魔術で直した。


火石(ファダアン)が切れてるから、時間がかかるけどそれでもオレに頼む? 他所の方が早いんじゃね?」

「国王陛下様のお墨付きもありますし、素敵な恋人もいるリヴェスさんに是非ともお願いしたいですわ。明日までに用意ができれば大丈夫なので」


 ルーベルは火石を取りに行くことが面倒で、ティフィを追い返そうとした。

しかしティフィは国王陛下も腕を買うルーベルに頼む。

 素敵な恋人、にルーベルは食い付く。

言うまでもない。ニャミのことだ。

まだニャミからちゃんと恋人同士だと肯定してもらっていなく自信がなかったが、端から見ればしっかり恋人同士に見える。

ルーベルは喜んだ。


「しっかたねぇな。そこまで言うなら、飛びっきりの花火を作ってやるよ」


 ルーベルは態度が悪くとも、嬉しさが顔に出ていた。

ニマニマしている。

わかりやすいな、本当。

ニャミは隣で密かに笑いつつも「ご依頼お引き受けいたします。出来次第お宅にお届けしますね。こちらに住所をご記入してください」とティフィの家に届けるために住所を紙に書いてもらうことにした。


「よかったら、ニャミさん達も、参加してくださらないかしら」

「誕生日パーティーにですか? 知人でもないのに参加してもお孫さんは嬉しくないでしょう」

「うふふ、実はねお目当てはインフェルディノの花の。孫はいい子で肝試しやってないから、その花食べたことなくて。だから手土産に欲しかったのよ」

「ああ、なら花火と一緒にお届けしますね。お裾分け」

「あらあら、ありがとう。本当に素敵な恋人ね」

「どういたしまして」


 住所を書きながら、ティフィは微笑む。ニャミも愛嬌ある対応をする。

"正直者"のニャミは、心からティフィに良くしていた。

 ルーベルは横目で見てから、廊下の向こうに顔を向ける。


「おい、ラロファ。留守番してくれよ」

「はぁ!? なんでオレが!? オレは薬を受け取って城に戻らなきゃ」

「ニャミを一人置いておけるかよ、一緒に店番してろ」

「ぐっ…………ルー……リヴェス、貴様もう少し頼み方ってもんがあるだろ」


 無理矢理留守番を押し付けるルーベルに、ラロファが完全に断れなかった。

女性を一人きりにすることは、ラロファも出来ない。

だがもう少し丁寧に頼むべきだ。親しい仲にも礼儀あり。

 ニャミはラロファがルーベルの名前を言い直したことに気付く。

何故今、わざわざリヴェスと呼んだのだろうか。

 それよりも、とニャミは直ぐに意識を変える。


「ちょっとルベル。私を置いて何処行く気よ?」

「は? 何処って、火石(ファダアン)だよ、ファダアンを採りに行ってくる。ヴィローマン寄りで魔物も出る大陸にある山にあるんだ。ニャミは、危険だからお留守番」

「そばにいるって言った矢先に離れるの……?」

「えっ」


 隣の国ヴィローマンは魔物が繁殖する大陸に囲まれている。

その中の山で火石は採れるのだ。

危険だから当然ニャミの留守番は決定事項だとルーベルが言うと、ニャミは悲しげに立ち上がったルーベルを見上げた。

ギクリ、とするルーベル。


「いや、これは、仕事だし……」

「仕事仕事……そんな言い訳するのね」

「男って、皆そうよね……」


 俯くニャミ。

ティフィが自分の頬に手を当てて、そんなニャミを同情した。

ルーベルは強張る。


「いや、すぐ終わるからっ。三時間で戻るからっ」

「絶対にそばにいるって……ずっとそばにいるって、昨日言ってくれたばかりなのに……」

「約束を破る男は……嫌よね」


 またもや俯くニャミに、ティフィが同情した。


「魔物に出会すかもしれないのに、ニャミを連れてけないからっ」

「弱い女は家にいろって……? ルベルもそんな男だったんだ……」

「そのうち"オレが養ってるんだ、オレの言うことを聞け"って言い出すわ……男って嫌よね」


 そしてまた俯くニャミにティフィが同情する。

ルーベルはわなわな震えた。

そんな幼馴染みの背中を見ているラロファは哀れんだ。

女性二人に、攻撃されていた。罪悪感を膨れ上がらせる攻撃をチクチク食らってしまっている。


「だ、だって……ニャミが怪我したら……」

「ルベル」


 顔を上げたニャミがギロリと冷たい眼差しで見上げてきたため、ルーベルも後ろにいたラロファも震え上がった。


「勇者に勝てるくらい強いんじゃなかったっけ? 私のこと、魔物から守る自信もないの? ふぅーん、ルベルって」


 トン、と軽い音を立ててブーツで床の上に立ったニャミは、強張っているルーベルの元まで歩み寄る。

ずいっと、ルーベルに顔を近付けてきた。

ニャミの美人な顔が、十センチの距離にある。


「――――…私を守れないくらい、よわぁいんだぁ?」


 ルーベルの耳に艶かしく囁かれたのは、すごくすごく冷たい声だ。

くるり、と背を向けてニャミがソファーに戻れる。

 十六年前から、ルーベルはニャミを守ってきた。守ってあげたい願望は尽きない。

ルーベルは天才だと自負しているし、周りにも天才と持て囃された。

血が滲む努力も積み重ねてきたのだから、ルーベルはニャミを守る強さがあるという自信があったのだ。

 それをニャミに"弱い"と言われた。

弱い、と認識されてしまった。

プライドが、踏み潰された。


「一緒に行くぞ!! ニャミは、オレが守る!」

「わーい! ルベルとお出掛け、しゅっぱーつ!」


 ルーベルが強さを証明するために、連れていくことを決める。

間入れずにニャミは、クルリと回り手放しで喜んだ。

 それを傍観していたラロファは顔を引きつらせた。

ここにいる女性二人は、男を尻に敷くタイプだ。

ルーベルのそばにそんなニャミがいることが、心配になってきたラロファは、心配性である。




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