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CUORA  作者: 三月べに@『執筆配信』Vtuberべに猫


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13/36

13 短き花火ー1


今後は苦手な三人称中心で頑張って書いてみます!


少しおさらい!


【クオラ】

ルーベルがとある組織から盗んだ本に記されていた禁じられた魔法。

心が結び付く真の運命の相手に出逢う。


【アクーラス】

地球。ニャミの出身世界。


【インフェルディノ】

魔界。主に魔界者と呼ばれた魔物が住み着く世界。


【ミラディオコロ】

ルーベルの出身世界。

中世時代風。






 昔、少年は禁断の魔法書を盗み、運命の相手と出逢う魔法を使って、少女と出逢った。

そして十六年の時を経て、再会の約束を果たしました





 オレンジの香りを吸い込んで、眠りから覚めたばかりのルーベルは微笑みを溢す。

手作りのシャンプーなどに美容液としていれたオレンジと花の香りはお揃いだが、隣で眠るニャミから香ると一段と甘く感じる。

朝陽で起きたいニャミのために、カーテンは締め切らず陽射しがベッドの上を照らす。

白いベッドの上にいるニャミは眩しくてまだ目に出来ない。

だからルーベルは目を閉じて、ニャミに寄り添い抱き締める。

とても柔らかい感触。頬をや首筋に頬杖をすれば、熱いくらいの温もり。

幸福を感じて、ルーベルは息をつく。


「ニャミ……おはよう」


 眠りから覚めたが同じく瞼を開こうとしないニャミの左耳に囁いた。

ニャミがたじろく。


「んぅ…………ルベル、左耳に、囁かないでよ……ゾクゾクするから……」


 吐息まじりのその声を耳にして、ルーベルは目を見開いた。

目の前にはオレンジ色に艶めく髪に包まれたニャミの寝顔。

 なんだ、ゾクゾクって。

どういう意味だ。そういう意味か?

 寝惚けていて自制が効いていないニャミの本音に、ルーベルはどぎまぎした。

互いに成人は迎えているわけで、ニャミはもう幼い少女ではないわけで、というかもうニャミは可愛さも残っているが妖艶である。

朝陽を浴びたニャミは、可愛いではなくルーベルが息を飲むほどの妖艶。

深紅と赤のネグジェのせいだけではないはずだ。

 昨日漸く互いが好き合っていると確認ができた。

この前は断れたが、今誘ったらいい返事が来るのではないか。

胸を高鳴らせつつ、ルーベルはニャミの左耳に囁こうとした。

 その時、ニャミが目を見開いてルーベルと顔を合わせる。

珈琲のようなダークブラウンの瞳との距離は、僅かな十五センチ。


「おはよう、ルベル」


 ニャミはただ眠たそうに、甘く囁く。

それが唇に触れるが、ルーベルの唇にニャミの唇は触れない。

肩を押し退けられて、ニャミは起き上がると一人洗面所に向かった。

 ガクリ、とルーベルは枕に顔を埋める。

流石に早すぎるか、と残念がった。

性欲に関する以心伝心があればいいのに、と残念がる。


「ルベル」

「ん?」

「今日は、私が朝御飯作るね」

「……うん」


 バスルームから顔を出すニャミに言われてルーベルは頷く。

やっぱり幸福で満たされていた。

 朝食を済ませたあとは、コーヒーを淹れて食後の余韻に浸る。

会話はあまりない。

ルーベルはニャミを横目で見ながら、会話を探した。

今後の関係について訊きたい。

だが、急かしては嫌われてしまうのが嫌でルーベルは慎重になる。


「ルベル、結局国王への薬は?」

「え、ああ……うん、まだ。今日やる」

「上の空ね。どうしたの?」


 ニャミは首を傾げつつ、インフェルディノの花を摘まみ食べる。

ガーベラに似た細長い形の赤い花びらを挟む唇に、ルーベルは目がいってしまう。


「んー……」

「なに?」

「…………キス、したいなぁって、思って」


 胸を高鳴らせながらも、ルーベルは口にする。

今求めていること。

 ニャミは頬杖をついたままルーベルを横目で見る。驚いた反応はしていない。嫌がるような反応もない。

 花びらを挟むその唇から出される本音は何か。

ルーベルは待った。

 しかしニャミは、口を開かない。

椅子から立ち上がったかと思えば、身体をそちらに向けていたルーベルの上に跨がった。

 ルーベルは、目を見開く。自分の膝の上に向き合う形でニャミが座ったのだ。

少々肉つきのいい太股をしているため、少し重いが気にする点はそこではない。

体型がよくわかるYシャツは、いつものようにはまだボタンを締め切っていないため、胸元が見えている。

ニャミの両腕がルーベルの肩に置かれるため、その胸元がルーベルの顔の目の前にあった。


「初めては、ロマンチックにやるんじゃなかったっけ?」


 胸元に気をとられてはいけない。ルーベルはその上にあるニャミの顔を見上げる。


「仲直りのあとに、ファーストキスは……ロマンチックじゃない?」


 一段と妖艶なニャミにドクドクと胸を高鳴らせながらも、ルーベルは承諾を待つ。

微笑むニャミは、ルーベルの頬を撫でた。

 嗚呼、なんて幸せなんだ。

十六年の努力が報われた。

艶かしいニャミと念願のファーストキス。

 瞼を閉じて顔を近付けてくるニャミを恍惚と見つめてルーベルは唇が触れるのを待った。

オレンジと花の甘い香りを吸い込みながら。


「ルーベル!!」


 大事な瞬間をぶち壊す声が轟いた。

ニャミは顔をあげてしまい、ルーベルがガクリと後ろに頭を垂らす。

ルーベルの椅子からでは、玄関は死角で見えない。

しかし声の主は、玄関からこちらに向かってくる。


「昨日暴れたと城まで噂が届いたぞ!? どういうことだ! 何かあったらすぐに連絡しろとあれほど言っただろ! 陛下は例の薬はまだかとっ」


 腹の底から出しているような低い声が轟かせた人物が、リビングに入った。

銀色の長い髪を青いリボンで結んだ装飾性の高い背広姿の青年。腰には剣。

ルーベルが見知らぬ女を膝に乗せて密着している姿を見るなり、固まった。

数秒の沈黙。


「し、失礼した!!」


 起動した青年は、すぐにリビングを出て廊下を引き返した。

 ルーベルは見なかったことにして忘却して、続きに戻る。しかしニャミに口を塞がれてしまう。

ニャミは自分が恥じらいを抱かないことに少々驚きつつも、足音が戻ってきたため顔を向けた。


「か、確認だ! もしも違っても、深い意味はない! ……その……君は、ニャミか?」


 もう一度顔を出した青年が、問う。

ルーベルの膝の上にいる女は、ニャミかもしれない可能性を確認する。

 万が一違うなら修羅場になりかねないが、青年は問わずにはいられなかった。

ルーベルの一途さを誰よりも見てきたからだ。

 蜂蜜を垂らしたような艶やかな水色を放つ銀の髪。

目付きの悪い瞳は青。

ルーベルより長身で、王子様のようなコスチュームを着ていても細いと言う印象を抱く。

多分騎士の制服だろう、とニャミは眺めた。

うっすら、銀色の少年の面影がある。


「久し振り、ラロファ」


 ニャミは、騎士の青年――――ラロファに肯定を意味する挨拶をした。


「……お、おぉ…………久し振りだな」


 これでもかと目を見開いて、唖然としつつもラロファは挨拶を返す。

当然の反応だ。

異世界で十六年行方不明だったニャミが、ある日突然幼馴染みの膝の上にいたのだから。


「昨日、来たのか?」

「いえ、約一週間前」

「はぁ!? なんで連絡しない!? しろよ、ルーベル!!」

「うるせーし、お前まじ邪魔だから帰れよ」


 大事な瞬間を邪魔されて、ルーベルは不機嫌だ。

早くラロファを追い返したかったが、ニャミが完全に身体の向きを変えてしまっている。


「ラロファ、昔も身長高かったけどすごい伸びたね。目付きも更に鋭くなっちゃって……職業は強盗?」

「……え? 顔で判断するな! 格好で判断しろ! こんな洒落た強盗がいるかよ!!」

「アクーラス出身の私に格好で判断なんてハードル高いよ。あ、確かルベルが騎士だって言ってたね、悪徳騎士?」

「結局顔で判断してるじゃねーか!! 誰が悪徳騎士だっ! 違うわっ! 正真正銘陛下に仕える正義の騎士だ!」


 ニャミは平然と思ったことを口にした。

強盗でも悪徳騎士でもない。

ラロファは全力で訂正した。


「ニャミすげーな。心の底からラロファをいじってる」

「なに感心してるんだ、ルーベル!」

「出てけ、ラロファ」

「ルベル、冷たいね」

「オレはいつもこうだから」


 "正直者"のニャミのいじりに感心していると、ラロファに怒鳴られルーベルは冷たく切り返す。


「いつも?」

「いつもだな」


 ニャミが首を傾げるとラロファが認めた。

これがルーベルの通常運転。


「知らないのか? ルーベルが終始愛想よくする相手はお前以外にいないぞ」

「そうなの?」


 ラロファに言われて目を丸めたが、考えてみれば確かにルーベルが自分以外に笑いかけたシーンが記憶にないことを思い出して納得した。


「だから接客がお粗末なんだ」

「自分を棚に上げるなよ」

「似た者同士だな……おい」


 愛想が悪い接客をするニャミとルーベル。ラロファは呆れる。

 ニャミが膝の上から下りたため、ルーベルはショックを受ける。

 キスは!?


「ほら、ルベル。仕事しなさい。私はもてなすから」


 しっしっ。追い払うように手を振るニャミに、ルーベルは仕事を急かされた。

完全にお預けだ。

 邪魔をしたラロファを、ルーベルは恨めしく睨み付けた。

ラロファはギョッとする。

最後まで睨みながら、ルーベルは頼まれていた薬を作りに二階へと上がった。

 ニャミはラロファのためにコーヒーを淹れて置く。

椅子に座り、ラロファはいただくことにした。


「インフェルディノの花はいる?」

「遠慮する」

「そう」


 椿の花に似たインフェルディノの花を取り出して、ニャミは差し出すがラロファは断る。

気にせずニャミはラロファの向かい側に座ると一人で花びらを摘まんで食べた。

 そんなニャミを、ラロファは観察する。

この世界では珍しい格好と昔とは違う髪色に驚いたが、肌色と目の色は同じだ。

他は随分と変わってしまったように思える。


「なに? ラロファもイメージ違う?」


 視線に気付いていたニャミは目を合わせることなく淡々と問う。


「あ、えーと……すまない、じろじろ見て。オレはもう少し……こう憂いを帯びた外見に成長してると思った。お前の心が伝わる度、ルーベルが落ち込んでいたから」

「んーまぁ、一時期はそうだったかな。暗い雰囲気まとっても意味ないし、外見を明るくすれば気分も明くるくなるから」


 黙って観察していたことを謝罪してラロファは正直に答えた。ニャミは気分を害した様子がなかったため、胸を撫で下ろす。


「ああ、そうだ。ラロファには、お礼を言わないと。私のせいで病んだルーベルを立ち直らせてくださり、どうもありがとうございました」


 花を置いて、頭を下げた。

いきなり礼儀正しく感謝を伝えられて、少々驚きラロファは目を丸める。


「い、いや……こっちかそ、礼を言うべきだ。ルーベルのそばにいてくれることにしてくれたみたいだな」

「真の運命の相手だから、一緒にいないとだめでしょ」


 これもまた予想外の展開で、ラロファは驚き落ち尽きなく頬を掻く。

ルーベルが苦しんだ様子からして、ニャミはなんらかのトラウマにより卑屈な人間に変わったとばかり思い込んでいた。

再会しても上手くいくか、心配していた。


「……恨んで、ないのか?」

「え?」


 ラロファの妙な質問に、今度はニャミが驚いて目を合わせる。

ラロファは片手に持っていたコーヒーカップを置いた。


「……オレは、再会した時、ルーベルに八つ当たりすることを恐れてた。ルーベルはお前が本当に好きで……"出会わなければよかった"だとか"ルーベルのせい"だとか、お前にそれを言われたら、ルーベルが傷付いて立ち直れなくなる……」


 眉間にシワを寄せて、その目付きの悪いという評判の瞳で"言うな"と伝える。

 出会わなければ、ニャミとルーベルは心が繋がることもなかった。

異世界にいた二人は、出会うはずがなかった。

しかしルーベルが、魔法使って会ったため、真の運命の相手である二人の心が結び付いた。

 結び付いていなければ、孤独に苦しまなかったはず。

恨んで、いないのか。

恨んでいても、八つ当たりしないでほしい。


「……」


 ニャミは静かに瞬きをして、ラロファを眺めた。

ふと、胸の中にある違和感に気付く。

 ルーベルの感情だ。

怯えている。

どうやら、話を聞いているみたいだ。

 ちょうどいい。二人に聞かせよう。


「ルベルに会わなければ、私はもっと悲惨だった。だって会わなくても会っても、私の母親は結婚して私は継父に愛をお預けされて一人ぼっちにさせられてたもの。ルベルと繋がっていたから私は生きているんだと思う。ルベルを恨んでないよ。逆に会いに来てくれたことを本当に感謝してるんだ」


 ニャミの根本的な不幸は、継父に家庭の居場所を奪われたからだ。

無条件で受け入れられるはずの家に居場所がなく、それを他所で相談しても誰が解決してくれるとは思えずただ笑うと選択をして、孤独に溺れていただろう。

 もしかしたら上手くやっていたかもしれない。

友だちに打ち明けて、孤独に救われていたかもしれない。


「今、ルベルといたい、ルベルのそばにいたい。それが私の本音」


 それでもニャミは、ルーベルを恨んだりしない。

今はルーベルといたい。それが本心。

 階段に腰を下ろして聞いていたルーベルは、ほっとした。

正直、恨まれることは怖かった。ニャミに出逢ったことを否定されては、ルーベルは立ち直れなくなっていただろう。

 ルーベルが勝手に魔法を使って出逢い心を結びつけた。

ニャミが孤独で苦しんだのは、ルーベルのせいだと言われる可能性はあったのだ。

 ニャミがはっきり言ってくれてよかった。

心から安堵したルーベルは、胸の中に温かさを覚える。

 そこに聴こえてきたのは、訪問者を知らせるノック音を耳にした。


「ルベルと魔法商売をしながら生活するの、楽しいんだぁ」


 ぱっ、とニャミは笑顔になって訪問者を出迎えに向かう。

それを見送るラロファは呆然とした。

 笑顔は、昔と変わらない。

ルーベルの好きな笑顔だ。

ルーベルのことも恨んではいないと知り、一先ずラロファは胸を撫で下ろす。

 これで幼馴染みの十六年の努力が報われるのだ。ラロファは笑みを漏らした。


「はーい。魔法使いリヴェスの家です」


 ニャミが扉を開くと、そこにいたのは優しげな微笑みを浮かべた老年の女性が立っていた。

白髪混じりの白金髪を揺っていて森のような深い緑色のドレスに身を包んでいる。


「……いらっしゃいませ」


 女性に対して心から愛想よくできるニャミは、微笑み返した。




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