駐在所の春
制限時間15分、お題は「愛すべき平和」でした。
■即興小説http://sokkyo-shosetsu.com/
「こんにちは、お巡りさん」
にこっと笑いかけながら少女が顔を覗かせる。
「はい、こんにちは」
ペンを走らせ答えながら、
(今日は遅かったな)
と思っている自分に、ああ、待ちわびていたのだと今更ながら気付く。
彼女と初めに出会ったのは「露出狂に遭った」と交番に飛び込んで来てからだった。
震える少女は目に涙をために俺の傍にずっといた。
華奢で化粧っけも全然無くて、なのについ目がいくほどに可愛らしくて。
今思えば、この時既に惹かれていたのかもしれない。
彼女はそれから毎日こうして帰りに交番へやってくる。
たまに、入口で雑談をすることもある。
ささやかな楽しみに出勤に意欲が沸くようになった。
「今日で最後なんです」
「えっ……」
「私、明日で卒業するから」
「ああ、もうこの道は通学路じゃなくなるのか」
「はい」
「そうか」
「あの、お巡りさん」
少女ははにかんだような顔で俺を見上げた。
「中学生になっても、時々ここに遊びに来てもいいですか」
赤いランドセルを背負い不安そうにぎゅっと持つ彼女の前に、俺は膝を付きにっこり笑った。
「勿論、いつでも遊びにおいで」
――これが、今の嫁との出会いです。