消滅契約書
制限時間30分、お題は「最強の本」、+必須要素は「バッドエンド」でした。
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「死ねよバイキン」
便器の中に顔を突っ込まれ、ゴボォと息を吐いて水を飲むまで押さえつけられた。
「あーあ、お前来ると空気クッセーんだわ」
「うぜーんだよ、消えろ」
くるぶしや膝裏を何度も蹴られてから、彼等は去っていった。
僕はゲホゲホと臭う水を吐き出しながら顔を拭った。最初に便座に顔を掴まれ叩きつけられた時、鼻を打ち付けたせいで鼻から流れる水は血の味がした。
虐められるようになってひと月が経つ。
校舎裏で複数人で虐めてられていた子を助けたのが最初だった。
「正義厨は死ね」という言葉と共に、今度は僕がターゲットになった。
特進クラスの奴等は外面がいい。
担任教師に相談しても関わりたくなさそうなのが見え見えで、彼がやったのはHRで注意喚起をしたくらいだった。
勿論、たいした効果など無い。
ぽたぽたと雫を滴らせ、よろけながら踏み潰された教科書をかき集めて鞄に入れる。
最後に摘まみ上げた本は教科書でも無ければノートの類でも無かった。
の ろ え
表に書かれていたのはその一言だけ。中は真っ白で、ただページ数が書かれていた。
僕は手洗い場に映る自分の顔を見た。
わかめのように濡れた黒髪を顔に貼り付けた、鼻から血を流す死神のような顔。
唇が歪む。笑いがこみ上げてくる。
僕は人差し指で鼻血を救うと、本のページに『しね』と書いた。
しねしねしねしね
一ページ全てをそれで埋めると、今度は次のページにいじめた奴等の名前を書いていった。
○○木○太
柚○諒○
○元○道
……
……
鼻血が足りなくなったので、僕はいつか使おうと思って忍ばせていたカッターナイフで自分の指先を切り、溢れ出した血で名前を書き続けた。
しねしねしね
きえろきえろ
人差指から出る血が少なくなると、今度は別の指を切った。
ジンジンと痺れる痛み、白いノートに埋め尽くされる血文字。
夢中になって書き続け、気付けば最後のページになっていた。
僕はため息を付いて本を持ち上げ、鞄の中に仕舞った。
ノートに書いた名前の奴らが書いた順に次々に消えだしたのは、それから間もなくだった。
一人は交通事故でトラックに跳ねられた。
一人は肝試しに行った先で行方不明になった。
一人は電車に飛び込んだ。
一人は……
気分がいい。
実に清々しい。
この本は本物の呪いの本だったのだろう。
ただ一つ残念なのは、最終ページに自分の名を署名してしまった事だ。
あと一人で、番が来る。