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8/2



 Tシャツに汗が張り付いていて、気持ち悪い。カーテンから突き刺す光が目に刺さる。


「っつー……勝手にクーラー切んなよ……」


 夜中の俺に文句垂れつつ、のろのろと身を起こす。なんでこんなに暑いんだよ、地球の空調ブッ壊れてんぞ。

 リビングのエアコンを起動させてからの水シャワー。フェイスタオルで適当に拭ってフルチンのまま移動する。男子バスケ部は休み、両親は不在、どうせ夜まで誰もいない。

 冷蔵庫から強炭酸水のボトルを出すと、俺はテレビのリモコンを取った。


『おはようございます、8月2日金曜日、午前9時55分。ブランチ☆ブレイク、スタートです!』


 寝過ごした。貴重な一日休みが。

 いそいそとボクサーパンツを履きながら、女子アナ三人の掛け合いを聞く。この中で選ぶとすれば右端だな、おっぱいのデカいタレ目はいい。


『ところでミナミさん、今日が何の日かご存じですか?』

『今日ですか? 8月2日……あ、ハニー? ハチミツ!』

『ブー。ハチミツの日は明日で~す。ヨシノさん、正解は~?』

『ジャン!パンツの日でーす!』

『え~っ』


 8(パン)

 2(ツ)


 笑い声と共に、スタッフが描いたであろう手書きのフィリップが登場する。


『ミナミさんは下着を選ぶ時のポイントって、何かありますか?』

『まずはデザインですね~、かわいいとテンション上がりますし。それから、お腹の肉をしっかり抑える引き締め効果! 絶対です』

『ミナミさん全然お腹出てないじゃないですかぁ』

『ヤバイんですよ~、出てるんですよ~、最近食べ過ぎてて』

『はいっ、というわけで今日最初の特集は? ここまで進化した! バイヤーオススメ高機能下着best5です!』


 拍手音と共に画面が切り替わり、ファッションビルの中継になった。白マネキンに着せられたブラジャーだのパンツだのを眺めていると、インターフォンが二度鳴った。不在を決め込み無視しても、ピンポンピンポン何度もしつこい。モニターを見れば、幼馴染のシロ子が映っていた。


「お前かよ」

『ねえ今って、あんた一人? 男バスも練習休みよね? 入れて』

「断る」

『入れてってば! 相談したいことがあるの。ねっ、お願い』


 手をあわせたシロ子の眉が、へにょんと情けなく垂れ下がる。俺は何だかんだで『おねがい』に弱い。渋々玄関を開けてやれば、「おじゃましまーす」と元気に入ってきやがった。ダメージ加工のショートデニムパンツに袖がひらっとしている白Tシャツ、揺れるポニーテールにはいつもの黒い髪ゴムじゃなく白いリボンがついている。


「はぁ? なんでアンタ裸なの!? サイッテー!」


 真っ赤な顔でシロ子が叫ぶ。んなこと言ってるわりには、ガン見してんのな。


「お前が勝手に入り込んできたんだろ。自分ちでどんな格好しようが勝手だ。つーか、そもそも裸じゃねーかんな、ほら」


 ボクサーパンツを引っ張ってみせると、いいから服着て! 目が腐る! と早口でまくしたてられた。勝手に押しかけてきたくせに、失礼なヤツだ。

 適当に服を着てリビングに戻ると、シロ子はソファでテレビを観ていた。


「アンタ、この右側の子タイプでしょ」

「いいよな。おっぱいのでかいタレ目おねーさん」

「わっかりやす」


 ふん、と鼻を鳴らすと、シロ子は俺を頭のてっぺんからつま先まで観察した。


「んだよ。ちゃんと服着ただろうが」


 不貞腐れながらペットボトルを手に取り、キャップを外す。


「ねえ。今日って予定ある?」

「別に」

「じゃ、デートして」


 口に含んでいた炭酸水を力いっぱい吹き散らしてしまった。


「がはっ、がはっ……入っただろ、鼻に!」

「ねえ、するの? デート。しないの?」

「しない」


 差し出されたティッシュでごしごしと顔を拭き、


「こともない」


 続けてから、俺は思いっきり鼻をかんだ。


「どーせアレだろ? 今度はタピオカでも賭けてんだろ? 前もあったよな、そういうの」



 去年の2月14日の放課後、俺は体育館裏にシロ子から呼び出された。小学校までは30円の黒い稲妻チョコ、中学に入ってからはチョココーティングのプロテインバーしか貰ってこなかった俺のバレンタイン遍歴に(ちなみに全部シロ子からだ)、いきなり手作りのチョコが加わったのだ。夏にパンツを貰っていた俺は、ついにきた! とニヤついた。


 ──もうこれ、どう考えても本命じゃね? その気があるとしか思えなくね?


 そんな浮つきに水をぶっかけたのは、シロ子の所属する女子バスケ部の女共だった。


『ね~ね~、昨日どうだった~?』


 ニヤニヤしながら尋ねられ、俺とアイツのバレンタインにキャラメルフラペチーノが賭けられていたのだと知った。



「んで、今度は何企んでんだ」


 肺の空気を吐ききりそうな溜め息の後、シロ子は俺に顔を向けた。


「部活のさあ、後輩にさあ、お願いされちゃって、さ」

「ふーん」

「ダブルデート、してほしいんだって。告られた相手と初デートだけど、一人じゃ緊張するから、って」

「ほーん」

「て、わけで。ほらっ、出かけるよ!」

「は? どこに」

「遊園地! 早くしないと電車に間に合わなくなる」


 目を丸くした俺に向かって、シロ子は上目づかいで手を合わせ、『おねがい』を繰り出してきた。




 ギラギラした日差しの圧を遊園地のカラフルなアスファルトが照り返す。うだるような暑さの中で、思い出作りの学生達がぞろぞろ並び歩いている。


「あんった……なに本気で回してんのよ……」


 コーヒーカップからよろよろと降り、シロ子が口元を押さえて呻く。


「そう言うなって、お前だって同じくらい回してただろ……うぶ」


 せり上がってきた吐き気に、俺も慌てて口を塞ぐ。


「先輩、大丈夫ですか?」


 後から降りてきたショートヘアの後輩が、シロ子の背中をさすろうとする。


「へーき、先行ってて。なんか飲みたいし、休憩してく」

「お水とお茶とスポドリ、どれがいいですか? 買ってきます!」

「いーから。二人で回っておいで。回復したら連絡する」

「でも……」

「俺が、見とくから」


 ぼそっと告げれば、ほっとしたように後ろの男が頭を下げた。


「そうそ。こーんな人の言う事なんて信用できないけどさ、責任とらせて奢らせたるわ」

「たこ焼きでええか~」

「アホ!」


 似非関西弁でのしょうもないやり取りに、くすっと後輩が笑みを漏らす。しっしっ、とシロ子の追い払う真似に、二人はお辞儀をして去っていった。


「……何だアレは」

「何だって、何が」

「完っ璧デキてるじゃねーかよ。チラッチラチラッチラ見つめあって、ベタ惚れだろ互いに。俺らがいる意味全然ねえじゃん。つーか、男バス一年アイツが相手とか、言えよ先に」

「あれ? 言ってなかったっけ」


 ケロッとした顔で立ち上がると、「んじゃ、さっそくだけど買ってきて」とシロ子は俺に命令した。


「あ~……スポドリでいいか」

「さっき自分で言ったじゃん、たこ焼きって。あ、あと今日は何の日か知ってる?」

「パンツの日。なあ、お前今年もくれんの?」

「ばっ……!! カレーうどんの日でしょ!! さっき通ったフードコーナーにあったらから、早く!」

「はいはい……んだよ、全然酔ってねぇじゃん」


 ブツブツ言いながら歩き出した俺は、シロ子がもじもじしていたなんて全然気付けていなかった。






パンツの日用に投稿予定だったSSを今更に。『道にパンツが落ちていた』の二人です。


・SPICE5は「人の言う事なんて信用できない」「そう言うなって」「何だアレは」というセリフを入れた話をRTされたら書いてください。

https://shindanmaker.com/225407


・遊園地のコーヒーカップを本気で回しまくるSPICE5

 https://shindanmaker.com/687454


を掛け合わせました。

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