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顔面クレーター

「即興小説」http://webken.info/live_writing/top.php

■テーマは「スキンケア」

■制限時間は30分

 昔から肌が綺麗だと言われてきた。


 色白でもち肌だと褒められ、スキンケアには何を使っているのかとよく尋ねられた。

「今はこれ」

 と言うと、尋ねてきた人は結構な割合でその商品を買ったと報告してくる。

「綺麗だよね」

 と付き合う男に言われるたび、私は自身の肌の美しさに感謝した。

 色白は七難隠す、というではないか。

 髪型に気を使い落ち着いたフェミニンな格好をしていれはとりあえずは『美人』と言われる部類に入る。相手にそう思わせておけば、生きていく上では何かと楽で都合が良い。

 恋もおしゃれも楽しい。

 楽しい。


 楽しかった。



 私の肌が突然変わりだしたのは、一年程前からの事だ。

 最初は、ぽつん、と顎にできたニキビだった。

 珍しいと思いつつも、前の晩にカラオケのオールで不摂生をしたせいだと思った。

 次の日は、鼻の上にぽつん、とできていた。

 その次の日は、鼻の下。

 その次の人は、こめかみ。

 額の生え際。

 顎下。


 ひと月もすると、私の顔面はぼこぼこのクレーターのようになっていた。


「どうして、どうして」

 泣きながら、毎晩ニキビの芯を爪で押し潰す。

 よく落ちると評判のクレンジングオイルを買ってきて、風呂の中で一時間以上指先で顔を擦り続けた。

 ニキビケアコスメの小瓶を買い、三日経って効果がなければ次のメーカーに買い換えた。

 痛い。顔がヒリヒリする。

 二ヶ月も経たないうちに、私の顔面は加えて熟れきった林檎のようになっていた。

 皮膚科の病院に行ってビタミン剤を貰って飲んでも、一向に効く気配が無い。

 毎晩寝ていると顔がじりじりと熱を持ち始め、新しいニキビができているのがはっきりと分かる。


 死にたい。

 こんな醜い顔で生きるくらいなら、消えてしまいたい。


 そう思った所でそんな事で実際に死ねる訳がなく、私は毎日フレームの派手な伊達眼鏡と大きなマスクで顔を覆って会社に向かった。

 それらが顔の全てをカバーしてくれるわけもなく、私のあまりの顔面の変わりように、会社では腫れ物扱いをされていた。

 あれほど毎日のように聞いていた肌への賛美が、ぱたりと無くなり、誰一人顔について触れようとはしない。そのくせ、仕事をしているとちらちらと遠慮がちな視線を感じる。

 私は俯いて過ごすようになり、勤務時間が終わるとすぐに帰宅して引きこもっていた。

 付き合っていた男とも別れた。

 

 一年間、毎日野菜と豆だけを食べ、オイルで顔をこすり、ぺたぺたとアクネコスメをつけ続けた。

 それでも、肌は何一つ改善しなかった。


「姉ちゃんに会わせたい人がいる」

 弟が紹介してくれたその男は、私の肌を見ても顔を変えなかった。

 けれど、初めてのデートのドライブ中、

「化粧薄い方が似合うよ」

 と言った。

 瞬間、私は号泣した。

 何層にも塗りたくったファンデーションは溝を作り、ぼこぼこしたクレーターに赤肌の筋を作った。

「どうして泣くの」

 彼は驚いて車を止め、ずっと背中をさすって慰めてくれたたが、私は恥ずかしさと悲しさで何も話せなかった。

 けれど、何処かでほんの少しだけホッとしているのも確かだった。


 私はスキンケアをやめた。

 好きなものを食べるようになった。 


 それが、先月の事だ。 


 今はニキビが半分になった。


 元の肌に戻るかは分からない。

 どうして治ってきたのかもよく分からない。


 生きれていばそんな事もあるんだと思う。

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