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チューニング (「君とドラゴン」企画作品)
ぼくの母さんは、ラジオを持っている。
古くって、赤くって、でっかいやつだ。
夜、布団にもぐって目を閉じると、伸縮アンテナをするすると伸ばし、母さんがラジオのチューニングを始める。
音楽・落語・お便りを読む声が、チュイィンと悲鳴を上げながら次々と後ろに飛んでいく。
じりじりとつまみを慎重に回し、砂嵐の海を母さんは進む。
やがてとまった一点で、息を殺して待っていると、ザー……ザー……という音に混じって、グルル……と低い声が聞こえてくる。
ライオンや虎よりも、ずっとずっと大きな猛獣がうなっている、地響きみたいな低い声。
それを聞いているうちに、だんだんとぼくの頭はホットケーキに乗っかったバターみたいになっていく。
手探りでかたいうろこをなでてから、角につかまり丸くなる。
ゆっくりと上下に動く、少しだけしめった頭の上が、ぼくの夜の特等席。
大人になったら母さんみたいに、いつでも会いに行けるんだって。
今は電波で重なるだけの、大好きな、ぼくのお父さん。
オカザキレオ様主催の「君とドラゴン」企画に参加させていただきました。




