雪女
お題:熱い嫉妬 必須要素:ポエム 制限時間:30分
トン……トン……トン……。
吹雪の夜に叩くにしては、いやに控えめな音がする。しばらく寝たフリを決め込んでいたが、割れ板塞ぎのおんぼろ扉はいつまで経っても鳴り止まねえ。
仕方なしに起き上がり、「誰だい?」と呼びかけてみれば、か細い女の声がした。
「道に迷ってしまいました、どうか一晩泊めてください」
開けてみれば、見たことも無いような別嬪さんが、裸足のままでつっ立っていた。
一日、三日、一週間。十日、半月と日が流れ、気付けば冬の終わりが近い。
それにしても、今年はいつまで経っても灰空のままで、お天道さんも覗きやしねえ。
別嬪さんは相も変わらず俺の家に居座ったままで、いつまで経っても帰りゃしない。俺も特には何も言わない。
猟に出る際渡されるのは不格好な握り飯。帰ってくれば菜っ葉を混ぜた、温い鍋が掛かっている。
でっかい熊を仕留めた翌日、温まった懐でちょっとしたもんを買ってみた。
女が眠った後に起き、蛍のような火を灯す。
一晩、三晩、一週間。
十日目の夜に吹雪かれて命からがら帰ってみれば、空のまんまな鍋前で別嬪さんが座っていた。膝にどっさり重なっているのは、俺がこれまで書いてきた――。
「っ何勝手に読んでんだ!?」
慌てて駆け寄り取り上げれば、らんらんと燃える赤い目が俺を捕らえて立ち上がった。
「だからかああッ! 毎晩毎晩同じ布団に入ったところで寄りもせず、わらわが脚を巻き付ければ顔を逸らして背を向けおって! 好いたおなごがいるのなら、はよう言わんか! この馬鹿垂れがッ!」
ばっさぁと床に叩きつけられ、ごうごう部屋が吹雪きだす。
押し花入りの色梳き紙が、好いた惚れたを散らしながら、ばっさばっさと泳いでいる。
ああ、全部読んだのか。俺の手紙を。
全部、知られたか。お前への熱を。
「馬鹿垂れは……お前、だ……!」
打ち付ける雹や霰の嵐の中、腕を伸ばして捕まえる。
心底惚れちまったから、大切にしてえと思ったんだぞ。
慣れねえ恋文なんてもん、わざわざ練習したんだぞ。
ちゃんと清書を終えてから直接お前に手渡したかったが、バレちまっちゃあ仕方ねえ。
「仕方ねえ、よ……なあッ!?」
暴れてもがく冷たい身体を逃がすものかと抱き締めた。
「――どんだけ俺が我慢してきたか、今からしっかり教えてやる」
翌日はお天道さんが顔を出し、雪解け水がそこらに流れた。




