dreamlike dream
『書き出し.me』https://kakidashi.me/novelsより、
「例えばこの世界が、誰かの夢だったとしたら」の書き出しお題です。
「例えばこの世界が、誰かの夢だったとしたら……みたいな妄想、一度はやったことあるよな?」
「いや、しないから普通」
バニラクリームフラペチーノにシナモンをかけ続ける指先は、バニラクリームフラペチーノみたいに真っ白でつやりとしていて、ささくれ一つ見当たらない。
「かけすぎだって、それ」
シナモンは舌が痺れてしてしまうから、オレはあんまり好きじゃない。
「どうせ舌マヒってくんじゃん、フラペチーノ。このくらいで丁度いいし」
言いながら尚もふりかけようとした腕を、思わずはっしと掴んで止める。
「何」
「あー……、えっと」
怪訝そうにこちらを見ている切れ長の一重。睫毛を下向きに整えてるせいで目尻に影ができている。隙間から覗く瞳孔は押し倒せばルームライトが差し込んでべっ甲みたいな色になるのをオレだけが知っている。
「過剰摂取、良くない。だろ?」
「別にこのくらい普通じゃね? てかシナモンは美容にいいし。だいたいいつもやってんじゃんバニラクリームフラペチーノのチャイシロップ追加にシナモンパウダーがけとかさ~、何急にウザくなってんの? 意味分かんない」
右のこめかみから髪を掻き分けるのはイライラしだした時の癖だ。あーそういや右耳のピアスキャッチが何処に落ちたのか分からないって言ってたな。今頃ラブホのシーツの中でスヤスヤ眠っているのだろう。
「昨日……出した、だろ」
なか に。
声に出さずに伝えると、彼女がもの凄い顔でオレを睨んだ。
「だってこの間テレビでやってた!」
慌てて口を挟まれないうちに早口で説明する。
「シナモンって長期的に過剰摂取してると肝機能が悪くなるんだって!
子宮に強い刺激あるから出血や流産の危険あるって!」
「――ねえ。ちょっと、待って」
手のひらでストップされて押し黙ると、卵型の額を白い指が覆う。
「成長期終わってるし、妊娠もしてないんだけど」
「だって、昨日中出「黙れ」」
はー。大きく息をつくと、ことり、とシナモンの瓶が置かれた。
「――で?」
「?」
「まさかと思うけどさぁ……もう父親気取りなわけ? 一回のミスで?」
「……その、まさか、だとしたら?」
はあああぁっ。
もう一度盛大な溜息をつくと、長い髪が背を向けた。
「ばっっかじゃないの」
コツコツとヒール音がテーブルに向かうのを聞きながら、シナモンの終焉にホッとする。
一晩考えて、考えて、散々考えまくってから、答えが出せた。
――例えばこの世界が、誰かの夢だったとしたら。
子供の頃はどきどきしながら、思春期には現実逃避でそんなことを考えたりもした。
例えばこの世界が誰かの夢だったとしたら。
そいつが目覚めてしまったら、オレらはぱちんと消えるのだろう。
夢であってたまるか。




