ヨタ
お題:私が愛した14歳 制限時間:30分
一歳になった時に贈られたそのぬいぐるみは、当時の私と同じ大きさで砂糖菓子のような桃色をしていた。
ふわふわのもこもこで、頬ずりをするとうっとりするほど気持ち良くて、赤いタータンチェックのベストを着たクマだったと聞いている。
私が覚えている『ヨタ』は、汚れかかったサンドベージュの色に所々擦り切れた毛皮をしていて、片方の目はボタンだ。
ボタンは目玉が取れた時、応急処置として母が付けたものがそのままになっている。
私はヨタがいないと眠れない子供だった。べたべたの涎を受け止め、連れまわすうちについた汚れや匂いを落とすために洗濯し、ふわふわだったヨタはその名の通りまともに座らせることができなほどよたよたのくたくたになってしまった。
中学でできた友達を家に呼んだ。
友達はベッドの上のヨタを見て「うわあ」と言った。
それから、誰かを家に呼ぶ時はヨタを押し入れにしまうようになった。
バンドにハマり部屋をデザイングッズで統一した。
ヨタはいつも押し入れに入るようになった。
好きな人ができて、その事ばかり考えるようになった。
ヨタの事を思い出すこともなくなった。
高校に入り、ぬいぐるみがあったことなどすっかり忘れてしまった。
正月の親戚の集まりで、従姉の子供が可愛いうさぎのぬいぐるみを抱えていた。
とても大切に、愛おしそうに、どこへ行くにも抱っこして。
ふいに思い出した。
そうだ、私にも大好きなぬいぐるみがいた気がする。
ぼろぼろでちょっと匂いがする、大きなクマ。
まだどこかに眠っているだろうか。
帰宅してごそごそと押し入れを探してみたが、ぬいぐるみはどこにも見当たらなかった。
両親に尋ねても知らないと言う。
ないと分かると途端にどうしてもまた抱きしめたくなって、私は諦められず家中を探した。
その夜、久しぶりにぬいぐるみの夢を見た。
私が覚えているサンドベージュではなく、砂糖菓子のように桃色でふわふわした、両目とも綺麗なクマ。
「ヨタ」
呼びかけてから、ああそうだ、ヨタという名前だったと思い出した。
ヨタは私に手を振って、そのまま消えてしまった。
諦めきれずに探しているが、いまだヨタには再会できない。




