子ぎつねのおつかい
お題:来年の狐 制限時間:15分
「こんばんは、あぶらあげ3まいください」
子ぎつねが小さな手を差出し、豆腐屋のおじいさんにすすけた100円玉を見せました。
「おやまあ、かわいいお客が来たもんだ」
驚きながらも、おじいさんは100円玉を受け取りました。
この豆腐屋のおじいさんは少し前におばあさんを無くしたばかりでした。一人で寂しく仕事をしても足腰に力が入らず、もうお店をたたんでしまおうと考えておりました。
ですから、最後の最後になって、こんなに珍しいお客さんが来たことを少し嬉しく思いました。
油あげはお店で3枚100円で売っていましたが、おじいさんは売れ残っていた全ての油あげを袋に入れて渡してやりました。
子ぎつねは目をぱちくりさせて、
「ぼく、100えんぽっちしか、おかねもってません」
と言いました。
「今日で店終いだ、たんと持ってお帰り。お代は100円で結構」
おじいさんの言葉に、
「おみせ、おしまい?」
と子ぎつねは尋ねてきました。
「かあちゃん、ずっとびょうきなの。
おとうふやのあぶらあげがたべたいようっていってたから、ぼく、かいにきたの。
おみせ、おしまい?」
そう言われ、おじいさんは困ってしまいました。
「お前の母さんはうちの油あげを食ったことがあるのかい?」
「うん、かあちゃん、にんげんになってかいにきてたの。
おとうふやのおあげは、あまあくにふくめておそばにいれるとあじがいいって」
「……そうか」
「あんがとでした」
ぺこっとおじぎをして袋をくわえた子ぎつねに、
「またおいで」
とおじいさんは言いました。
「こんどは元気になったお母さんと買いにおいで。
来るまで店は止めないよ」
子ぎつねは嬉しそうにぴょん、と飛びました。
そうして、雪の降る大晦日の夜の道を走って帰っていったのでした。




