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Regret 

お題:疲れた墓   制限時間:30分

 峠に差し掛かって暫くすると小さな展望台に出た。

 この場所に来るのは一年ぶりだ。あいつの好きな場所だった。

 バイクを止めヘルメットを外す。頬にかかる風が心地いい。


『晴れた日にだけ見える、あの奥の山が好きなんだ。ほら、霞んだブルー』


 俺がバイクに乗り始めた頃から設置してある、端が錆びたマイナーな自動販売機。あいつはそこで売っている胡散臭いクリームソーダの缶ジュースをよく買った。


『こういう、ちょっとアヤシイ系って一口飲んでみたくならない?』


 実際、一口二口口に含むと、『いらねー。やる』と言って俺に回されてきたものだ。

 俺は久しぶりに胡散臭いクリームソーダを買ってみた。プルタブを開けた瞬間から後悔しそうな、キツイ香料が鼻にくる。甘いものは苦手だが、それでも捨てるには忍びなく俺は今までと同じく鼻を摘まんで一気に飲み干した。

 最後の一口ぶんだけ飲み残すと、それを藤棚の下にあるコンクリートのテーブルの上にことりと置く。

「ほら、田島。お前も飲めよ」


 俺の恋人の田島が死んだのは、このすぐ傍の峠だった。



 田島と俺は元々服が好きだった。セレクトショップのスタッフをしている頃に知り合い、互いにバイクが好きだと知り(もっとも、田島はスポーツバイク、俺はアメリカンを好んだが)、話すうちに意気投合し、誘い合ってツーリングに行くようになった。何度目かのツーリングの際、この場所で田島に告白された。俺も田島が内心気になっていたから驚いた。

 服好きでバイクが好きでおまけに同性愛者だなんて、俺達運命の恋人かもなって、よくじゃれながら冗談を言い合ったものだ。


 数年して金を貯め、二人で小さなアパレルショップをオープンさせた。

 意気揚々と臨んだ開業だったが、現実は厳しかった。裏路地の小さなセレクトショップなんて、そうそう儲かるわけがない。

 起業時に国金に借りていた借金の支払いもかさみ、俺らはどんどん追いつめられていった。

 毎日今月の支払いの事ばかりが頭にあり、思うように売り上げが伸びない事にイライラが募っていった。

「休憩するから」と言って外に出て、バイクで河原まで出てぼーっと水の流れを見ていたりもした。

 ツーリング中に横をトラックが通ると、

(あー、このまま跳ね飛ばされて死なねーかな)

 とそんな事ばかり考えるようになった。


 田島が峠で事故に遭ったのは一年前の事だった。

 店を出して11か月と27日、「もうすぐ一周年だな」と話していた矢先だった。


 俺は田島を責められない。

 俺と同じことを、きっと田島も考えていただろうから。

 田島は保険に入っていた。

 結婚の代わりに養子縁組をしたばかりの俺には、店の借金を補てんするだけの金が入ってきた。



 家に帰り黒いクローゼットを開ける。

 田島の来ていたライダースーツ、服、帽子、メット……。

 田島の付けていた香水の匂いを鼻に吸い込みながら、俺はごみ袋にそれらを詰め込んでいった。


 田島。

 お前がいなくなって気付いたんだよ。

 金なんてちっぽけなことだったんだ。

 

 俺も行こうとしていたから分かる。

 けど、お前、行っちゃだめだったんだよ。


 田島。

 

 田島……!

 


 詰め込んだそれらをまとめながら、おれは縋り付いて泣いた。

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