まるまる。
制限時間15分、お題は「神の虫」でした。
■即興小説http://sokkyo-shosetsu.com/
「どうぞ」
ぽん、と渡された飲みかけのボトルに入っているのはスポーツドリンク。
あたしが「のど渇いたー」と喚いていたら後輩がカバンから出してくれた。
「うえー、それ、ぬるいのあんま好きじゃなーい」
と言いつつも、顔がニマニマしてしまうのが悔しくてあたしは頬に手をあてながら誤魔化す。
弓道部の3年と1年。うん、「好き」なんて伝えても迷惑なことくらい分かってる。第一、身長だってあたしの方がずっと高い。
キャップを開けてドキドキしながら口を付ける。
あーあ、コイツ、あたしがどんだけ緊張してるかなんて分かってないんだろうな。ほら、今もああして道端にしゃがみこんでゴソゴソしているし。
ボトルの残り1/3を一気に飲んでしまう。そうしてそのまま空になったボトルを自分のバッグに戻そうとすると――。
「あ、先輩、それ貸して下さい」
「えっ、いや、ほら、あたしが持って帰って捨ててあげるから!」
慌てて誤魔化そうとしたけど(だって曲がりなりにも間接キスじゃん!)、後輩は許してくれなかった。
ん、というように手を出したままだったので、あたしは渋々ボトルを渡す。
ころん。
後輩がキャップ部分から手にした何かを落とす。
小さな丸いそれは黒っぽいビーズのようだった。が、もぞもぞと動き出したのを見て、
「あ、ダンゴムシ!」
とあたしは思わず声を上げていた。
「わーわー、なつかしー。これ、小学校の時よくたくさん捕まえて家に持って帰ったりしてたんだよねー。でさ、お母さんに怒られて公園に戻しに行ったりして。
わー何年ぶりだろ、ちゃんと見たの」
「……先輩、虫、怖くないんですか?」
「うん、別に」
「よかった」
後輩はにっこり笑った。
「じゃ、良かったら家で飼うんで、今度この子見に来ません?」
「!う、うん!」
この日から、あたしはダンゴムシが大好きになった。




