蜜柑姫の逃亡
これは、小さな小さな世界の、小さな小さな王国のお話。
海の見える丘の上に、王宮は建っている。空を悠々と飛ぶ青い鳥は、澄んだエメラルドグリーンの海の色に同化して見え隠れしている。そんな海の色に似せた城の壁面は、人工的で何処かくすんでいる。
「楽しくなーい……。楽しくなーい……」
ある少女が丘の上で空を見上げながらポツリと呟く。
少女の星の映る独特な瞳が映すのは、青い青い空に今にも消えそうな虹。儚いその姿は涙を誘う。
「……楽しくない」
ふいに少女は立ち上がり、ポケットから手鏡を取り出す。
少女は手鏡で全身を見る。きれいなブロンドの髪は一部だけが長く、長い部分の毛先は少しだけカールしている。
「姫!!ここですか!!」
ふと少女の背後から、少女を呼ぶ声が聞こえた。
少女が振り向くと、そこには両方の横髪を三つ編みにし、残りを横できれいに結んだ赤髪の少女が居た。
「蜜柑姫、見合いは本日のはずですが」
その少女が「姫」と呼ぶのは、ブロンドの髪の少女なのだが、少女はすごく嫌そうな顔をする。
「にじゅうまる。私は見合いなんて頼んでないわ。私は結婚する相手は自分で決めるし、今は結婚なんてする気もないの。政略結婚なんで全力でお断りよ」
姫、と呼ばれた少女が凛々しい口調で赤髪の少女に言う。
その姫の返事ににじゅうまる、と言われた少女は少し声を強める。
「蜜柑・ツイント・リフティリア姫。あなたは姫なのですよ。この国の。もう少し自覚してください。いくら姫が可愛くて成人女性なのに少女にしか見えないからって、結婚しなくていい理由にはなりません!!」
「私は結婚しない理由にそんなこと言った覚えはないわ」
さらさらと、心地よい風がこの空間を包む。
「い、いいですか姫。とにかく、これは国王様が決めた見合いです。姫に拒否権はありませんよ」
にじゅうまるはそういい残して立ち去ろうとする。
「にじゅうまる」
「は、はい!?何ですか姫!!」
「私この城から逃亡しようと思う」
「はい!?」