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第三夢:安イ奇跡

剣示「うお。いきなり俺から始まるなんて今日は俺が自己紹介する番なのかね?」

リペア「あー剣示さんいたんですねぇー」

剣示「おおぅ!?リペア・・・今回は人気でなさそうな自己紹介じゃないか!くそう・・・なんでイヴじゃないんだ・・・」

リペア「しっ失礼ですよー!!私は夢よこのヒロインなんですよ!!」

剣示「うそ!?まじかよ!!お前ヒロインだったの!?」

リペア「!?なんですかその嘘だろみたいな顔は!!」

イヴ「今日は二人が馬鹿やったから自己紹介スペースがとれないみたい。しーゆーみんな」

リペア・剣示「っておい!?」

ミーンミンミンミンミン・・・

蝉時雨の中、男性と女性のキスが交わされている。


「トキコさん・・・」

「セイジさん・・・」


ピ。という音と共に老人の前に二人の若者が印籠を掲げて叫びだす場面が映し出された。


「ええい!控え控え!このお方をどなたと心得る!?」


「ちょっと何でチャンネル変えるの?」

「うるさいですねー。なんでこんな真冬に夏のラブストーリーの再放送なんかみなきゃならないのよー・・・」

「この時代の情報収集してたのに・・・大体年中季節感の無い時代劇再放送を見る必要性が感じられないよ」

「なにいってんですよ?これこそ日本の文化を知るに一番必要性在りなイワバ濃縮日本文化ですよー!」


「この紋所が目に入らぬかー!?」


ピ。


「私、もうセイジさんしか目に入らないわ」

「僕も・・・トキコさんしか目に映らないよ・・・」


ピ。


「この仲の良い御両人。認めてあげてはどうですかな?タダキチ殿?」

「はっ、ご、御老公様・・・わかりました・・・」


ピ。


「保険料があがらない〜入るなら今ですよー」


ピ。


「よーくかんがえよーお金は大事だよー」


ピ。


「ちょっとー!?何なのよー!?」

「そっちこそ何なの?」

お互い譲らない二人がリモコンを取り合いだし、二人の手からリモコンが離れ宙を舞う。

ガツッ・・・ゴトン。

「あ」

「あ」

宙を舞ったリモコンが当たった先は不法侵入者だった。

その不法侵入者はにっこりと微笑んで言う。

「お邪魔してます。お久しぶりですね、皆さん」

「あー・・・と。えっと?」

「だれ・・・?」

あまり顔合わせしていないイヴはともかくリペアが頭を押さえながら考え込んでいる。

「待って!今思い出すから。顔は覚えてる、うん覚えてる」

「サッドです。よろしくお願いしますねイヴさん」

「・・・よろしく」

警戒しつつも握手を求められそれに応じるイヴをにこやかに見ながらサッドは用件を切り出す。

「さて、ここに来たのには用件があってのことです」

「そう。何の用?」

「貴方の主である、剣示さんの居場所についてです」

その言葉を聞いたイヴの顔色が変わった。

訝しい顔と嬉しそうな顔が入り混じった複雑な表情をしつつ、次の言葉を待つ。だが、

「超無視されてる?私・・・」

次の言葉はリペアだった。






―真夏ノ雪―

ミーンミンミンミン・・・ジーワジーワ・・・。

蝉の声に薄っすらと額に滲んだ汗を拭いながら微笑むエッジ。

「ねぇ、剣示さん。蝉の声ってなんかいいよね」

「そうか?うるさくってたまらんがなぁ・・・」

外の気温は凄まじいが、二人は木陰の中で本を読んでいる。久しぶりに図書館へ行ってからの帰り道、エッジが木陰で涼もうとの申し出に快く快諾したことを少し後悔している剣示でだった。猛暑なのだ。こんな日は家でクーラーをつけてのんびりとしたい現代人としてはこの行為はあからさまにキツイ。

「ねぇ?エッジ・・・?お、お腹空かない?そこらのファミレスでもいかねぇ?」

「え?大丈夫だよ。それにまだ朝ごはん食べてから1時間くらいしか経ってないよ」

うん。さり気無い、暑いからどこか行こうという申し出は却下だそうだ。まいったね・・・

剣示はガックリと読んでいる本に目を落とす。

だが、少しするとジリジリと暑さが身に沁みてくる。

よし、ストレート勝負で行こう。大体――もストレートじゃなきゃ通じないじゃないか・・・

――?・・・え?ま、まあいいや。よし言うか。

「なぁエッジ。暑いから涼みにどっか入ろうか?」

「だめ」

あまりに短い返事に剣示は聞き違いかと思い訊きなおす。

「えっと、どっか涼みにいこうか」

「だから・・・ダメっていってるでしょ?だって剣示さん暑い暑いっていっていつもクーラー効かせた部屋から出ようとしないじゃない。たまにはこういうのも健康的なの!」

どうやらダメらしい・・。残念だが、読書に没頭して暑いのを少しでも忘れるしかないな・・・。

覚悟を決めて持っていた本に目を落とした。


うむ。ちゃんと読むぞ!

この話は悲恋物の小説だ。

内容はこうだ。余命が半年と冬の初めに告げられる少女。これが始まりだ。

少女は雪がとても好きだった。その少女が病院で元気な少年に出会う。その少年は足を怪我して入院してくるのだ。その少年は最初どこにも動けないから退屈で我侭を言いつつ過ごしていた。少女はその少年の我侭に付き合ってあげ始めた。

「あの中庭の花が見てみたい」そう言えば少女はその花を摘んできてあげた。

「屋上からの空が見たい」そう言えば屋上の空を絵に描いてあげた。

動けない少年に代わって少女はいろんな所に行ってあげた。

・・・・・・・・。

む・・・読んでいる俺は読んでいるぞ・・・

それから少女は具合が悪くなっていき、今度は少女もベッドからあまり動けない状況に陥っていく。少年は足が治り、今度は少女の我侭を聞いてあげることにした。

だが、少女は「貴方の姿を見てるととても楽しい」とそう言うだけで我侭を言わない。

だから少年は少女に毎日会いに来てあげた。そして毎日少女に話をしてあげた。

今日あったこと、母親のこと、友達のこと、父親のこと、病院の近くの隠れ家のこと・・・。

・・・・・。

む・・・眠くない。眠くなんて無いぞ・・・

そんなある日、少年が少女を訪ねると少女は面会謝絶の部屋に移されていた。

それでも少年は毎日少女のために手紙を書いて少女の母に手渡した。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・。

・・・あ。寝てない寝てないからね?

えーと・・・。なんだっけ・・・。

どっからだっけな・・・。

まぁ、それから色々あったんだろうけど、少女に最後に会った少年は少女に最後に我侭を言って欲しいと言う。どんな我侭も1つだけ叶えてあげると言った。

「ふふ。じゃあ私は・・・雪が見たい・・・私、雪がとても好きなの・・・」

だが、季節は夏だ。少年は毎日神社やお寺などを回り神様に雪を降らせて欲しいと願った。

そして少年は寝る暇も惜しんで色々な所へと神頼みにいくのだ。

夏休みということもあって自分の自転車で遠く遠くへと行く。

そして疲れ果てた少年は最後に着いた神社で言う。

「僕は死んでも構わないから最後に彼女に雪をみせてください」と。

そして奇跡は起きる。

真夏の夜に真っ白な粉雪が降り注ぐ。

その雪を見ながら少女はこの雪は少年の見せてくれたものだと思い、とても幸せな表情で息を引き取ってしまう。

それから・・・・・・・。

えっとね・・・・。

・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。




ジーワジーワ・・・。

蝉の声が少しだけ心地良く聞こえてきた夕暮れ時・・・。

剣示は周りの色にハッとして目を覚ました。

オレンジ色に染まった景色に周りを見渡すとエッジが微笑んでいるのが目に止まった。

「暑いのによく寝てたね?」

「あ、ああ。ごめんなエッジ・・・せっかくの休日だったのに」

「ううん。いいのよ剣示さんの寝顔が可愛かったから許してあげる」

可愛くなかったら許してもらえなかったのだろうかという疑問は打ち消しつつ、剣示は照れくさそうに笑った。

でもさ、急に寒くなったっつぅか・・・なんだこれ?寝てたからか?

剣示が不思議に思ってエッジに疑問をぶつけてみた。

「何か寒くないか?気のせいかな?」

「うん?そうだね?夕暮れ時だからかな?」

それにしても寒いな・・・。

雪でも・・・降るんじゃないかと思えるほど・・・?

「え!?」

剣示が急に上を向くのでエッジも驚いてそれに習うかのように上を見上げた。

そこにはオレンジ色にそまった雪がちらちらと舞い落ちてくる姿が映し出されていた。

「わぁ・・・・・雪・・・?・・・素敵ね・・・奇跡みたい」

「え?まじかよ・・・」

自分が読んだ物語の出来事が現実に起こったような奇妙な感覚に剣示は驚きつつ、その奇跡に二人で暫らく感動を共有した。


奇跡は・・・そんなに安く起こるもの?


誰かの声が聞こえた気がした・・・。


リン・・・


遥か遠くで鈴の音が聞こえた気がする。

でも、その音はとても切なく、悲しげな音に聞こえるのだった。

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