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第4夜:居候大作戦

「ずずぅ〜ひゃから、んぐ。言ってるじゃないですかー。ずるずる〜んぐ。ほのままおふぅたえひはら・・・んぐ。そのままお伝えしたらいいのではないですかと」

昼食は有無を言わすことなく、カップラーメンだった。剣示がその中でも一番食いたかった極上トンコツラーメンを啜りながらリペアはそう言った。

「ずず〜ずっ、んぐ。お前はあほか!この子は魔法の本で、俺が人間にしちゃったらリペアが図書館クビになったんでこの二人をこの家に住まわせることにしたって言うのかよ!」

「まぁ!完璧ですわ。剣示さん」

極上トンコツラーメンを取られた剣示は仕方なく、シーフードラーメンをイヴと啜っている。

「却下。遂に頭おかしくなったと思われて精神病院に通院することになりかねん」

「ふーふー・・・ずー。もぐもぐ。こく。じゃあマスター。私が意識操作して、交換留学のホームステイということにしようか?不本意だけど、姉妹ということにして」

その時、ラーメンを可愛く食べながら二人の話を聞いていたイヴが不意にそう提案した。

「え?ソンナンデキルンデスカ?」

「うん?うん出来るよ」

「承認!それで行こう!偉い偉い。イヴはどこぞの居候と違って賢くていい子だなー」

聞こえよがしに剣示はイヴを撫でながら、リペアを見やった。

「どこぞの居候って居候の知り合いが多いんですねぇー」

「お前だよっ!あとな、言っておくけど居候の分際で家主の子より高い品物食ってんじゃねぇよ。おかわり3杯目はそっと出す精神もってろや!」

「ケチ臭い人ですねぇー。そんなんだと女性にもてませんよ?」

「うーわ。イラっときましたよ?決めた。もー決めた」

剣示が一人でうんうんと頷きながらイヴに向き直る。

「さってと、イヴ。俺の隣に割と小奇麗にしてる衣類棚置いた部屋があるんだ」

「・・・?うん?」

「そこを整理したいんだけど、魔法の力でちょちょいっと出来る?」

「うん。出来るよマスター」

自分の力を必要とされると嬉しいらしく、イヴはにこにこと返事をする。

「そっかそっか、んでその部屋をイヴの部屋にしようと思うんだ。後でなんか必要なもんを買いに行こうな」

「うん。分かったよマスター」

「よかったですねぇーイヴさん。で?私の部屋はどこですか?」

リペアの言葉に剣示がにっこりと笑い案内する。

居間を出て、玄関先の階段下の扉を指し、言う。

「さぁ!ここがリペアの部屋だよ」

「狭っ!!!!!」

そこは完全な物置部屋だった。光も入らず、あるのは裸電球一つの薄暗い2畳半くらいの部屋である。

「私は囚人ですか!?酷い仕打ちですよー!横暴ですよー!!人でなしですよー!!大体こんなとこに人を閉じ込めるみたいなことは軟禁です!あれでしょう?こんな物置に女の子を隠すように置いておく・・・そして・・・きゃああああああ!あーれー、後生です!お戯れをー!」

顔を赤らめて悶えながら一人で喚いていたリペアがはっと我に返って周りを見ると、やはりそこには。

「誰もいないし!」



夢幻アーケード街。人口密度の少ない過疎化したこの町で唯一人通りの多いのがこのアーケード街だ。剣示とイヴは一人上手をしていたリペアを置き去りにこのアーケード街に来ていた。

「むげんあーけーどがい・・・?」

「そうだ。お店が密集してるっつうとこでな。まぁ、何でも揃うと思うぜ」

剣示の言葉に得心がいったという感じに頷いた。

「ここは王都の城下町なのですね」

「んー。イヴちゃん、所々知識がヘンだぞぅー・・・ま、この夢幻町ではその、王都の城下町並の所だと思う・・・かな」

と、シドロモドロしながら説明していた剣示を不思議そうに見つめていたイヴが、ふとショーウインドウに釘付けになった。

そこに居たのはペットショップの犬だった。ミニチュアダックスフントが嬉しそうに尻尾をふり愛想をまいていた。

「マスター・・・」

犬を欲しがる美少女という構図は初めてで、その可愛さにノックダウンしそうな剣示だったのだが、その後に続く言葉に別の意味でノックダウンしそうになる。

「人間は変わらないね。やはり、命をお金で売り買いしている。今も人間の命すらお金で買えるの?」

「いや、それは無いと思うが・・・まぁ、そうだなぁ・・・命の売り買いか・・・」

深い・・・深いなぁ。

剣示は少女の姿にまるで達観した淑女を見る。そう、この少女はただの少女じゃないのだ。魔法書物の具現化した姿。いつから存在していたのかも分からないほど気の遠くなる時間すら越えてきた存在なのだ。

「まぁ、今は日用雑貨やら、寝具やらを買いに来たわけだ。ペットショップはおいとこう」

「うん」

その後、日用雑貨店や、寝具店を回ったものの、イヴは何一つ注文をつけることなく剣示や店の人に勧められたものを何故か、いたく気に入るのだった。




痛み。絶望を伴い我が身を食む。

軋み。憎しみを伴い我が心を焦がす。

嘆き。恐怖を伴い我が全てを消し去る。


ああ。愛しいき我が御名よ。存在を顕す術よ。

渇望している。我が全てを肯定するその御名よ。


緩やかに穏やかに闇がとぐろを巻くかのようにその場所は深い、深い暗がりにある。

そこからいずれ這い出ることが出来ると確信している。

だからこそ、絶望を、憎しみを、恐怖を甘受した。

”彼”はゆっくりと瞳を開く。また彼の苦痛の時間が始まったのだ。




置いてけぼりをくらったリペアは焦点の無い瞳で虚空を見つめ、ぶつぶつと何事か呟いている。まるで誰かと会話をしているかのように・・・。

「はい・・・は、確かに・・・して・・・まだ、・・・をしていない・・・です」

玄関の開く音で急速に瞳に光が宿る。

ドタドタと玄関に走り、開口一番こう言った。

「お土産はっ!?」

「お前には居候としての自覚を持つことを勧めるぞ」

剣示はげんなりした顔で溜息をついて、手に提げていた紙袋を手渡した。

「わぁい。たいやきですねぇー。おいしそうー」

と言った瞬間にリペアはたいやきをかぶりついている。

「って早速かよ!手が早いにもほどがあるぞお前」

買ってきた荷物を玄関に置きながらつっこんでいたその時、後ろで玄関のドアが開いた。

「あら」

「む・・・」

3人は剣示の両親と思いっきり鉢合わせをしてしまった。

固まる剣示。もぐもぐと口を動かしているリペア。あわてることなく冷静なイヴ。

まさしく三者三様の表情をしている。

「あの、その、これはだなー。何というか・・・」

シドロモドロに冷や汗を掻きながら剣示がどうにもこうにもならないと思った矢先、両親から意味不明な言葉が放たれた。

「なんだ、お前”達”も出かけていたのか」

はい?・・・達って親父こいつらに会ったことあったか・・・?

「本当に”ホームステイに来て”日も浅いけど仲良しで助かるわ」

はっ?・・・何を言っているんだこの母親は・・・?

ぽかんと口を開いたままさらに固まる剣示を他所にリペアとイヴはにこっと笑って言う。

「剣示さんが色々と世話を焼いてくれるから助かりますよー」

おいおい何言っているリペア!世話なんか焼いてないだろっ

「お兄ちゃんが私の部屋に置くもの色々と買ってくれたの」

お兄ちゃんってナンデスカー!?

硬直が解けた剣示はこう叫ぶしかなかったのだった。



「前置きとか無しかいっ!!!!」



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