イヴ:時から外れた者
君の”名”は・・・
イヴ・・・
あれから全ては”白き闇”を取り除いた事象から時を刻んでいた。
全ての人、全ての世界。
それらは”白き闇”の存在を消し去った。
そして、全ては一からのやり直しを迎える。
魔法書物との出会い。
アカシッククロニクレスの創設、フォースの創設。
次々と繰り返される世界の中・・・剣示とイヴ、魔法書イーヴァルズグラックスだけは時から外れた異質な存在と成り果てていた。
「我らフォース、そしてアカシッククロニクレスは新たな脅威を発見した。いや、脅威になりうる存在を発見したとでもいうべきか」
数々の人々が壇上で演説をするシェイドの姿を熱い瞳で見つめていた。
これから始まる壮絶な戦闘でも期待するかのように。
演説する壇上の後ろに座った人物がフォースとアカシッククロニクレス最高責任者のクロウ。
そしてその隣に微笑んで佇む女性はクロウの妻、サッドである。
「魔法書と思わしき力を持つ人物とその主たる人物。それの捕縛を我ら二つの組織は慣行する!いいか!油断はするな、どのような力を持っているかも今はまだ把握できていない!努々油断するな!?解散!!」
シェイドが壇上を降りると共に人々から雄叫びのような声が迸った。
「お疲れ様でした。シェイド様」
「お、エッジか。どうだ、フォースの特務隊長にはもう慣れたか?」
シェイドを迎えたエッジにシェイドは微笑む。
シェイドの質問にはにかむように答えるエッジ。
「いえ・・・私みたいな若輩者にはまだ荷が重いであります」
「ふ、そうでもなかろう。お前の隊にはお前のファンが多いそうだぞ」
からかう様なシェイドにエッジは頬を染める。
「か、からかわないでくださいよぅ・・・」
「ふ、それからな、エッジ今回の任務の先陣はお前が取ることになった。しっかりやれよ?」
シェイドは去り際にエッジの肩を一度叩いた。
「は!力の限り任務を遂行します!」
「マスターマスター!」
「何だ?」
「あの屋台のものが食べたい」
「ぇー・・・さっき昼食べたばっかだろうが・・・」
ウンザリした表情で横目でイヴを見やる剣示を他所にイヴは頬を膨らまして呟く。
「ぶぅ・・・デザートは・・・別腹なんだもん」
「ぷ!あはははは。はいはい、お姫様。仰せのままに」
可愛らしい表情を浮かべるイヴに恭しく傅きながら剣示は答えた。
春の日差しが心地良い陽光の中、二人はベンチに座って先ほど買ったチョコバナナクレープを頬張る。
「む、このチョコとバナナのコラボレーションは絶品だ!」
「おいしーねマスター」
イヴは剣示にぴったりと寄り添いながら満足げに平らげた。
「いい、陽気だなぁ・・・こんな日は日向ぼっこで昼寝だな」
「はい」
「ん?何だ?」
イヴは自分の膝をぽんぽんと叩きながら何かを促している様子だった。
「膝枕してあげるよ。マスター」
「いや、それじゃイヴが疲れるだろ」
それより何より公共の場でそのような行為が恥ずかしいので断りたい。
「だめー。するの。膝枕」
「へいへい。お姫様の仰せのままに」
薄く笑いながら剣示はイヴの膝に頭を乗せた。
瞳を開けるとじっとこちらを見つめ微笑むイヴの笑顔が見える。
本当に・・・いい陽気だなぁ・・・
剣示は心地良い日差しと風に眠りへと誘われる。
はずだったのだが、仰々しい声にそれを阻まれる。
「魔法書とその主だな!!」
聞き覚えのある声に薄く目を開く。
そこには白いコートを纏ったエッジとその後ろに控えているフォースの隊員らしき者達が剣示達を囲むように立っていた。
「へぇ・・・フォース。やっぱ創立されたわけだ」
「そうみたいだね、マスター」
にやりと笑ってイヴの膝から起き上がった。
立ち上がり、黒のコートをばさりと翻し、剣示は口を開いた。
「少しは退屈しないで済みそうだ」
「どうするの?マスター?」
イヴも久しぶりの力の行使にうずうずしている様子で笑顔でそう訊いてくる。
「数百年ぶりの知人なんだ。丁重にご相手しようじゃないか」
「あは、マスターほんと楽しそう」
「さぁ。フォース。かかって来な、手加減してやるから。楽しませてくれよ?」
―fin―