エッジ:永久の悠久
君の”名”は・・・
エッジ・・・
全ての超常的な組織は白紙に戻され、魔法書はその存在をまた伝説に帰化させることになった。
だが、剣示に与えられてしまった力は最早消え去ることはなかった。
雛形に与えられたエッジの魂は定着し、レギオンはエッジという存在になった。
二人は永遠をたゆたう。
本当の世界の終焉を見る存在になりうる存在だろう。
桜が舞い散る・・・月明かりに照らされてハラハラと・・・。
佐藤 真吾朗。それを襖をあけて眺める人物の名前だ。
89歳という年齢を生きたその人の肌はしわくちゃで年齢をその身に刻むようだ。
ハラハラと舞う桜・・・。
何と美しいことか・・・。
静かに舞う花びらを老人はそれと同じく静かに眺めている。
彼は自分の寿命がもうそろそろだろうと感じている。
だからこそこの美しい風景を目に焼き付けているのだろう。
「よう・・・佐藤」
不意に自分を呼ぶ声に視線をその人物に向けた。
その姿は紛うことない友の姿だった。
年月を重ねていない彼の姿は失踪した時のままだった。
老人はしわくちゃの顔をさらにしわくちゃにして笑った。
「剣示くんか・・・懐かしい。懐かしいなぁ・・・」
「そうだな・・・元気・・・だったか?」
数年会わなかっただけのような会話をする彼に老人はまた笑う。
「君はかわらないね・・・」
「ああ、お前は変ったな・・・じじいになった」
「ふふ、そりゃあそうさ。あれからもう70年以上過ぎ去ったからね」
「そう、だったな」
剣示はふっと切ない顔をした。
それで老人には剣示が何故今自分のもとに現れたのか悟った。
「いい、冥土の土産が出来たよ、剣示くん」
「・・・何度見ても慣れないもんだ・・・知人の死ってのは」
「そういうものだよ。君を知っている人はもう、わしだけかい?」
「ああ・・・”あの頃”を知っているのはもう、お前だけだよ」
会いに来てくれてありがとう。
老人は静かに呟いて自分の寝床についた。
もう老人が朝を迎えることはないだろう。
それは老人も知っていた。
「おかえりなさい、剣示さん・・・お別れ・・・済みましたか?」
「ああ、済んだ・・・」
ハラハラと舞う花びらが滲んでいた。
エッジはそっと剣示に寄り添い剣示の頬を撫でる。
「悪い・・・俺ばっか感傷にふけっちまって・・・」
「ううん、そんなことないよ・・・私ね、剣示さんのそういう優しいところが大好きよ」
剣示はエッジを優しく抱きしめてから囁くように言った。
「俺さ・・・あの時エッジに訊いたこと・・・後悔してるんだ・・・」
「あの時?」
キョトンとした表情でエッジは訊き返す。
「あの夢幻の空間で、君に俺と共に永遠を生きてくれるかって訊いたことだよ・・・」
「どうして?私とじゃ嫌だった・・・?」
「違う。君は・・・絶対に嫌だって言わないと知ってた・・・知っていてそう訊いていたのかもしれない・・・俺はずるい奴だと思う・・・なぁ、本当に後悔していないか?」
エッジは微笑んで剣示とキスを交した。
「ねぇ・・・知ってる?私は殺されない限り、あの世界では永遠に生きられる命だったの。それでね、剣示さん・・・貴方を愛してそして、私ね・・・貴方も不老不死になったら私とずっと一緒にいてくれるかなぁってそんな夢ばかり見てたわ・・・」
「・・・エッジ」
「貴方とならこの先の何十年何百年・・・そして何千年・・・月日を重ねても・・・共に生きていける・・・そう信じてる」
剣示は真摯に語るエッジを見て止まった涙腺がまた緩んだ。
静かに零れ落ちる雫をエッジが人差し指で掬うように撫でる。
「剣示さん・・・愛してる・・・」
月が淡い光を生み出し世界を照らす。その淡い光に照らされている照れくさそうに微笑むエッジは剣示にとって全てをなげうってでも守りたい人。
剣示はふぅっと息を吐いてエッジを抱きしめた。
「俺も・・・愛してる・・・」
剣示は永遠をたゆたう・・・
エッジという愛する人と共に・・・
永遠に・・・
―FIN―