第十夢:狂気目覚メル
エッジ「えー、皆様。遂に最終回目前となってしまった今日この頃。どうなることかと思いましたがようやくオワリが見えてきたといったところですよ〜」
イヴ「今日はコーナーないの?」
エッジ「そろそろコーナーも打ち切りで、ここで本当に前説することになったの」
イヴ「へぇ〜・・・最初からそうしとけばいいのにね」
エッジ「うん・・・それは反省してるとカンペにかいてありますね」
イヴ「・・・」
エッジ「それでは本編のほうをどうかお楽しみくださいませ〜」
イヴ・エッジ「しーゆー」
夢を見ている。
自分の夢じゃないことがはっきりと分かる夢だ。
異常なほど鮮明な夢。
それでも夢だと分かる、ソンナ夢。
「―――さん、どうかしたんですか?」
自分の名前ではない。
だけど俺は自然に反応してしまう。
「いや、何でもない。少しぼうっとしていたよ」
俺は気取られない様にそんな当たり障りの無いことを言ってしまった。
「そうですか。酷いお顔・・・そんな顔をして何でもないなんて、信じられると思いますか?」
俺はこの女性を知っている。本当に綺麗な女性だ。
和服が良く似合っている。本当・・・の俺もこの人を知っているかもしれない。
今はそれは分からないが、ただこの人は今の俺の恋人だ。
「君は心配性だな。本当に何でもないといっているだろう」
俺は微笑む。そして何時も?のように彼女の髪を指で梳くように触った。
彼女もそうされるのを喜ぶように微笑む。
彼女が俺のことを愛していることを知っている。
今の俺が彼女を愛していることも分かっている。
そしてこの後の結末さえもすでに分かっている。
自分のことじゃないが自分のことだ、だか、自分の意思ではないものがすでに決まりきっている道を辿らせようとしている。
まるで何度も何度も見た映画を自分を主人公にして反芻するかのような気分だ。
焦燥感はある。
だが、それを誰かに伝える術は無い。
決められている台詞を決められた時に言うだけなのだ。
そこに俺の意思は存在しない。
どんどんと、結末に近づく。
終焉の幕が下ろされた後俺はどうなるのだろう?
ただ、それを思う。
悲しいとも切ないともやり切れないとも思う。
でも、それは俺の意思なのかは分からない。
遂に終焉の日が来る。
俺はこの日のことを知っている。
何故だかそれは知らない。
意識の中にあるのだ。
その日は冷たい雨が降っていた。そのことを知っているにも拘らず俺は傘を持つことは無く彼女の家へと急いでいる。
「貴方にだけは、こんな姿、見られたくありませんでした」
激しい雨の音に消されること無く彼女の言葉が耳にこびり付く。
薄暗い家屋の中、項垂れるように彼女は俺を上目に見ている。
着物の乱れた姿。美しい栗色の髪が流れるようにその着物の上を走る。
乱れた着物の隙間から覗くものはその女性には似つかわしくない、禍々しく隆起した赤黒い肌。首筋の下辺りから左肩までがその化け物じみた肌に犯されていた。
「嗚呼。何が、何があったんだ・・・」
サッド・・・。
俺が呼ぶ名。それは彼女の名前だ。
「私のことは、もう。忘れてくださいまし」
何を言っているんだろうか?そう思う。俺にとって一番辛い言葉なのだろう。胸の奥が激しい痛みに苛まれている。
俺は言葉すらも通じていないのかと思う程困惑した顔で彼女を見つめてしまう。
これが夢であればいいと幾度願ったことでせう・・・。
俯いた彼女の口から漏れる嗚咽を含んだうめき声。発声すらきちんとしていないというのにも拘らず、俺の耳にこびり付くかのように鮮明に刻まれる言葉。
「私は。闇に囚われました。最早私は長くはありません」
いずれは人ではなくなり、人を喰らうものへと変わり果てませう・・・。
嗚呼。嗚呼。俺は嘆く。己の招いた惨事が彼女に絶望を招いてしまったのだと。
「マスター・・・」
この少女のことを俺は知っている。今の俺も元の俺も知っているのだろう。
俺の背中にか細い声がかかる。振り向いた俺の瞳は酷く憎しみを孕んだものだった。全て台本どおりに行われる映画の1シーンのような、そんな異質な感情。
一瞬全てを白く染めるかのように雷光が迸り、落雷音が酷く大きく響く。
その後静まりかえる暗がりの中、俺は静かに口を開いた。
「お前のせいだ」
魘されていたらしく、剣示は酷く寝汗を掻いていた。
「う・・・。頭いてぇ・・・」
軽く頭を振りながら身体を起こす。
どうやら風邪を引いたらしい。
何か変な夢を見ていた気もするが、剣示にはそれを思い出すことは出来なかった。
激しい頭痛にせりあがって来る吐き気が考え事をするという意識を失せさせる。
「剣ちゃん。大丈夫?」
部屋のドアを控えめに開けて剣示の母が少し顔を出す。
「ああ、母さん。大丈夫、でも今日は大学休むわ。流石にこの状態で授業受けられるとは思えんしなぁ・・・」
「そうなさい。あとでお粥と薬もって来るわね」
「ああ。ありがと」
剣示の言葉に微笑んで部屋のドアがカチャリと閉まった。
剣示は憔悴しきったイヴの様子も見に行かなくてはと思いながらも溜息を吐いてはベッドから動こうとはしなかった。
何故か今はイヴに会いたいと思えないのだ。
魘されていたときに見た夢のせいなのか、それとも・・・いや、今は分からない。
そう、剣示は今は一人で居たかったのだ。
エッジ・・・。
心に木霊する名が酷く苦痛を伴い胸を締め付ける。
私のことは、もう。忘れてくださいまし
消してください思い出を・・・私の最後のお願いです
ドクンと。剣示の鼓動は激しくなる。
重なる声が何かを思い出させる。
酷く気分が悪かった。
剣示は起こした身をゆっくり横たえ溜息とともに瞳を閉じた。
その日はイヴに会うことはなく、剣示は一日寝て過ごすこととなった。
次の日、剣示が目を覚ますとイヴはすでに学園へと登校しているとのことだった。
幾分気が楽なのか、剣示は少し遅めの朝食を済ませる。
「本当に大丈夫?昨日の今日よ?イヴちゃんも大丈夫っていいながら何か辛そうだったわ」
剣示の母が心配そうに剣示を見た。
剣示は笑って大丈夫だと言う。
身体のほうは本当に大丈夫になっていた。普通なら考えられないがあれほど辛かった身体も一日でほぼ完治していたのだ。
剣示は何時ものように駅まで歩き、それから自転車で大学に向った。
大学では少しだけ心の棘を忘れていた。
多くの人と会話する喧騒と授業に集中することで考え事をする暇を自分に与えなかった。
「やぁ。剣示くぅん。昨日はどうしたんだい?」
午後の授業も終了し、帰り支度を始めたころ、佐藤が剣示に声をかけた。
「ああ、ちっと風邪ひいてな。大事をとって休んだんだ」
「ふむぅ。大丈夫なのかい?」
「ああ、もう平気だ」
普通の会話のはずなのに剣示には何か違和感があるように思えて仕方なかった。
「佐藤?お前こそ・・・どうかしたのか?」
「?おかしなことを訊くね。どうかしていたのは君のほうでしょ?」
そうだ。
自分で言っていてオカシイと思う。
だが、決定的に何かがオカシイと気付いている自分もいた。
「そうだ、剣示くん。これから予定あるかい?」
「何だ?家に遊びに来いっていうんならお断るぞ」
「むぅ。まぁそれは今度でもいいよ。実は剣示くんに会わせたい人がいるんだよ」
佐藤は妙な笑いを浮かべた。
あまり気乗りはしなかったが、剣示はどうしても気になっていたので誘いに乗ることにした。
駅前を抜け、狭い路地を通り入り組んだ道をひたすら歩く。
何時もなら面白おかしく話しかけてくるはずなのだが、今日に至ってはそれはない。
佐藤は言葉すら忘れたかのように黙々と歩き続けている。
やがて人里離れた一軒の屋敷を指差して言う。
「あそこに会わせたい人がいるんだ」
「へぇ、結構な豪邸じゃねぇかよ。誰なんだそいつは」
佐藤は会って見れば分かるとそれだけ言い、屋敷へと歩を進めた。
屋敷の玄関を開けるとそこは最早家というにはあまりにも在り得ないつくりをしていた。
そこは空洞だった。馬鹿に広い広間のほかには何も無い。
ただ、その広間には数十人もの人数が狂宴を行っている。
おぞましい熱気が広がっている。
唖然としている剣示を他所に佐藤はその輪に加わるように入っていく。
「お、おい!佐藤!?」
佐藤の肩を掴む寸前で剣示の首筋に冷たい殺意が押し当てられた。
「動くな。相島 剣示!」
「っ・・・お前・・・は」
「ふん。覚えているか?炸羅だ。貴様に受けた屈辱忘れたことはない」
炸羅にナイフを押し当てられ、身動きを取れない剣示の視界が広間の中央を見据えた。
広間の中央には黒いコートを羽織った男と、着物を着た女性サッド、そしてその隣には黒髪の少女、凛が歩いてこちらのほうに近づいているところが見て取れた。
「これはこれは、上客が来たようだね。待っていたよ剣示君」
「お前は・・・”名無し”!何の真似だよこれは」
「この惨状のことかな?これはね、餌付けだよ。ご褒美ってやつさ」
自慢げとでもいいたげに”名無し”は手を広げて周りを見渡す。
男は数人がかりで一人の女性を犯し、女は女同士や、一人の男を数人で囲んだりし、異質な雰囲気で酒池肉林の宴を繰り広げていた。
「動くな。動けば貴様の頚動脈を断つ」
炸羅が剣示が詰め寄ろうとするのを制する。
「まぁ、炸羅。剣示君を傷つけるのはやめてくれたまえ」
「・・・はっ」
炸羅は”名無し”の言葉に少しだけ押し当てていたナイフの力を緩めた。
「いい気味ね剣示!」
凛が嬉しそうに笑う。
「・・・なんだ?何を企んでいる・・・お前は何を」
「私の企み?そんなことを知りたいと思っていたのかい?それなら最初から分かりきっていると思うのだが?君だよ私の目的は。君が欲しいのさ」
そっちの趣味は・・・などと頭を掠めたが剣示はあえて言うことはせず、シリアス雰囲気を保つことにした。
「俺の・・・俺の力が欲しいってことかよ?つまりイヴが欲しいってことだろう」
「いいや。イーヴァルズグラァックスは只の力の入れ物にすぎない。入れ物から出す鍵を持たねば何の意味もない無用なものさ」
ニヤリと口元を歪めて剣示を見やる。
「実は君にプレゼントと思ってね。用意していたんだが、少々汚してしまった。見てくれるかい?」
”名無し”が指を指す方向をゆっくりと追う。
数人の男に陵辱されている女性が見て取れる。
それは。
俺が。
知っている。
「け、んじ・・・さ・・・んぁ、んっあん」
俺の。
愛した人。
「どうした?怒りで思考が止まったかい?」
ドクン。ああ。
ドクン。ああ、もう。
ドクン。ああ、もう、この男は。
ドクン!!コロス!!!!!
「動くな!相島!」
再び炸羅のナイフが首筋に強く押し当てられる。剣示の思考は最早、真っ白に染まっていく。
瞳が紅く燈る。視界は真っ赤に染まる。
真っ黒な感情がとぐろを巻いて肥大していく。
「もう少ししたら奴らも飽きるだろうから。もう少し待ってくれるかい?動けば君が血に染まることになってしまう。それは私としても良いことではない」
嘲う。
動けば俺が血に染まる?
何を言っているんだ?
剣示はせせら笑う。そしてゆっくりとした口調で言い放つ。
「こいつのナイフが俺の皮膚を裂く間に」
「俺はお前の」
「心臓を抉る!!」
剣示「ちわっ!皆さん!遂に残り2話となりました」
エッジ「へぇ〜後2話なんですかぁ」
剣示「適当なストーリだが、まとまったのかまとまっていないのか今は微妙だ」
リペア「微妙どころかまとまっていないと思いますが?」
剣示「あ。それ言っちゃだめな。あったかい目でみろよ」
リペア「何があったかい目なのかサッパリ」
剣示「まぁいいや。じゃあ次回お楽しみに〜」
エッジ「皆さんまたね〜」
リペア「しーゆー」