第七夢:夜桜
エッジ「ハオーこんにちわ〜みなさん!今回から始まりましたエッジの魔法専門用語解説コーナー♪」
イヴ「まともな始まりかたになったね」
エッジ「うんうん。イヴちゃんのおかげだよ〜ありがとうね」
イヴ「えへへ」
エッジ「では本日の一発目っ!『アカシッククロニクレス図書館』このアカシッククロニクレスはアカシックレコードという世界や人の思考など全てを集約し記憶したものからとっています、故にこのゆめよこでは魔法などを使用する場合、このアカシッククロニクレスに脳内でアクセスしなければ行使できない仕組みになっています。とても重要な箇所なのですね〜」
イヴ「もっと砕いた感じのほうが分かりやすくない?」
エッジ「そっか!えっと、『アカシッククロニクレス図書館』はリペアが勤めていた所です!」
イヴ「え・・・それって専門用語解説なのかな・・・」
エッジ・イヴ「それじゃ皆さん。しーゆー」
『────それでは次のニュースです。春も中頃を迎え、桜の花がピークを迎えています。』
ぼーっとテレビを見ていたリペアがふと気が付いたように振り返る。
「剣示さん剣示さん。花見ですよ花見!」
「おー・・・花見かぁー」
休日の早朝、相島家では相島家主以外起床していた。
事の発端は昨日のイヴの家庭実習である。授業の一環で朝の食卓を作るというものが行われた。そこでありえないものを作成してしまったのである。
当然、名門学園教師は可愛い教え子の料理を味見した。
当然というか食中毒。可哀想にも入院。
そこで昨日、相島家に電話がかかってきた。
内容はこうである。イヴさんの調理には多大な問題があり、家族のほうで少し、料理の勉強をさせて欲しいとのことであった。
「イヴちゃん、それは一サジ、ううん。オタマで一サジじゃないわ・・・それは塩じゃなくて砂糖よ?」
などとキッチンから聞こえる。毒見、というか味見人として起こされた剣示は気が気ではない。
「花見・・・生きていたら行きたかったなぁ・・・」
「大げさですねぇ〜。死にはしないですって・・・多分」
死刑執行を待つ囚人の気持ちが分かりそうな気もしていた。だから剣示は看守との会話をしてみた。
「看守さん・・・おれぁ、最後にあんころ餅くいてぇなぁ・・・」
とその言葉にリペアが反応し、続ける。
「そうか、ほら。玉露も用意しておいたぞ」
「うめぇ、うめぇよ。看守さんお世話になりましたぁ・・・」
「何やってるのあんた達・・・?」
本物の涙を流しつつ演技している剣示とリペアを、剣示の母が怪訝そうに見つめながら訊いた。
「あ、・・・えっと?何やってるんですか?剣示さん」
「うむ。死刑執行を待つ囚人と看守の寸劇だな」
呆れたという顔をして、剣示の母はソファに腰掛けた。
「教師を病院送りにしたイヴの面倒みてなくっていいんですか?」
「ヤメロ。そのヤンキーな子みたいな言い方は・・・」
剣示の母は笑いながら新聞のテレビ欄を見ながらチャンネルを朝ドラに変えた。
「大丈夫みたいよ?後は一人でやりたいって」
「リーサルウェポンを野放しにしないでくれ。おふくろ・・・」
「剣示さんも十分酷い言い方してますよ?」
朝ドラに見入っている母とリペアを尻目に剣示はそーっとキッチンを覗いてみた。
剣示の視線に気付いたらしく、イヴはにこっと微笑む。
「もう少しで出来るよ。お兄ちゃん」
「あ、ああ・・・分かった・・・」
あんな顔されたら逃げるなんて出来ないわぁ・・・。
剣示は泣く泣く元の位置に戻り、恐怖に立ち向かおうと誓った。
物体の色が紫色とか緑とかなら逃げようとも誓った。
というかまともなものが奇跡のように出てくれることを神に祈った。
テーブルに並んだ品々はどれもこれも言うことがないほどまともなものだった。といっても姿形だけの話だが。オムレツにコンソメスープ。サラダに、量を少なめにしたバジルパスタ。それにオニオントースト。いわゆる洋風朝食だ。
ハッキリ言って美味しそうなのだが、あの炭を作り、そして教師を病院送りにしたイヴだ。
何が隠されているか分かったものではないと内心冷や汗をだらだらと掻きながら剣示は言った。
「う、うまそうだな。すごいじゃないかイヴ」
「えへへ」
剣示に褒められ、イヴはにかみながら微笑む。
覚悟を決めろ俺!
よし。食うぞ・・・
食うんだ俺!
「おふくろ、リペア、く、食わないのか?」
「あんたのためにイヴちゃん一生懸命作ったんだから早く食べなさい」
「私も剣示さんのために作ったものまで食べるほど意地汚くないですよー」
オーケーテンキューベイベー。あんたらは興味津々と俺が毒見をする瞬間が見たいわけだ。
ごくっと喉を鳴らしながら、オムレツに手を出した。
口の中に入れ、2,3回確かめるように味を確認する。
「あ」
「え!?どうなんですか剣示さん!」
身を乗り出しながら喜々として質問してくるリペアに剣示はそのまま口に出した。
「美味い・・・うまっ!!」
「そうですかぁ!じゃあ私も味見をば!」
といいつつさっき自分が言ったことすら忘れたようにリペアはオムレツを一口ほおばった。
「イヴちゃん。ちゃんと教えれば教えたことはちゃんと覚えるんだから美味しいのは当たり前よ」
と剣示の母は言う。なら、それ早く言えよと思いながらも剣示はイヴの頭を撫でながら美味しいと言ってやる。何とも嬉しそうな笑顔に剣示も笑顔になった。
イヴの作った朝食はどれも絶品で文句のつけようはなかった。
少し量が多いとも思ったが難なく剣示の胃袋に収まってしまった。
「いやぁ、うまかったぁ・・・ごっそさん!」
「えへへ」
全部食べてくれたことが余程嬉しかったのだろう、イヴは満面の笑みを浮かべながら片付けを始めた。
満腹に満たされた様子で剣示が外を見ると何ともいい天気だった。そこで剣示は提案した。
「イヴ〜。花見にでもいくかぁ〜?」
キッチンから顔を出したイヴはキョトンとした表情だったが剣示の笑顔につられたのか笑顔で頷いた。
その後、剣示の父が起床し、父の提案で夜桜にしようということになった。
剣示も異存はなく、そうすることにした。
ということで、天気がいいので花見の買出しに自ら行くことになった剣示は外に出て深呼吸をする。たったそれだけだがとても気分がよくなった。
一緒に行くと言ったイヴとリペアを待ちながら春の景色を満喫している。
舞阪市は人口こそ多くないが、その分近場に自然が豊富にあるのだ。
特に夢幻町はこの時期桜で彩られる。知る人ぞ知る名所なのだ。
「お待たせしましたー!」
「お待たせマスター」
「おう。いくかぁ」
三人が歩き出すと、桜の花びらがひらひらと風に舞う情景が目に入る。
「お、いいねぇ」
剣示は思わず頬を緩めて花びらをしばし見つめる。
イヴもリペアも舞う花びらを感嘆するかのように見つめていた。
三人がやって来たのはやはりここ。夢幻町きっての何でも揃う商店街、夢幻町アーケード街だった。しかし、ここはいつもと違う光景が広がっていた。向かい合う店と店の中央に屋台が並び、賑わいを増している。
「わぁ。何かすごいことになってますねぇー」
「ああ。夜店の準備だろうな」
剣示の言葉にリペアが残念そうに聞き返す。
「準備ってことは今はやってないんですかぁ・・・」
「んー。どうだろ?やってる店もあるんじゃないかな・・・イヴ。ちょっと屋台見ていくか?」
剣示はじぃっと屋台の列を見ていたイヴに笑いながら話しかけた。
「いいの?いいの?お兄ちゃん」
驚いたように訊き返すイヴに思わず噴出してしまう。
「ぷっ。ははは、いいさ。じゃあ行こうぜ」
リペアははしゃぎながらあちらこちらと屋台を見ていっている。ゆっくりとイヴと剣示は屋台を見ていきながら剣示はふと疑問を口に出す。
「でもさ、イヴはよくお兄ちゃんとマスターってのを使い分けてるなぁ・・・口滑らせて人前でマスターって言ったことねぇしさ」
「範囲内で会話を聞かれる可能性がある場合はお兄ちゃんって言うようにしてるから」
別段大したことではないという口調で言うが、剣示にとってはすごいことだった。
「ほぉ・・・すげぇなぁ」
「そかな?」
「うむ」
会話をしていた最中にイヴの視線が止まる。剣示がその視線を追うと二対の可愛いくまのキーホルダーだった。剣示は欲しいかと尋ねたらきっとイヴは否定するだろうと思う。本当にそういう子だと知っているからこそ、剣示は屋台の主に言う。
「これください」
「お、お兄ちゃん?」
「おう!可愛い妹さんだな!マケとくぜ!500円のとこを400円だ!」
恰幅のよいオジサンがイヴに商品を差し出しながら言った。
剣示は代金を支払い、イヴを見た。
二つのキーホルダーをにこにこと微笑んで見ているイヴを見るとやはり欲しかったのだなと確信出来た。
「何か買ったんですかぁー?何々?何買ったの?」
終点まで見てきたのだろう、リペアが興味津々とこちらに走ってきた。
走ってきたリペアにキーホルダーの1つを差し出し、イヴは笑って言う。
「これ、リペアの分」
「おろ?私の分・・・?ですか?」
「だってさ。受け取っとけリペア」
剣示は本当に仲の良い姉妹を見ている気分になって、自然に笑いがこぼれてしまう。
「んで、終点まで見てきたんだろ?なんかあったか?」
「ええ!向こうに!!人形焼きがやってました!!」
リペアが一大事だと言わんばかりに叫ぶのを見て剣示とイヴは顔を見合わせ笑う。
「うっし、今日は気分がいいからな。奢っちゃるぞ!」
「うひゃぁ!剣示さん太っ腹〜!い、いきましょいきましょ早くいきましょー!」
その後、あれだこれだと奢らされるが、剣示は終始楽しい気分で過ごせた。
ちょっとした買出しのつもりが、帰りには黄昏時となり、かなりの時間を遊んで過ごしたことを物語っていた。
「イーヴァルズグラァックスの主を殺すつもりかい?」
「それが私の任務だ」
自室で装備を整えている所に背後を取られたということに多少驚きはしたが、その顔が見知ったものだということで驚きを隠しながらシェイドは答えた。
「この前といい、今といい、何のつもりだシャイン」
シャインは答えない。無言でシェイドを見据え、手を翳した。
「・・・なるほど。お前か」
「分かってもらえて光栄だね。闇の剣」
シェイドはゆっくりと間合いを取りながら腰に備え付けたナイフに手をやった。
「”名無し”お前が行動するとは意外だな」
「君には少し休暇が必要だろう?病院のベッドっていうのはどうだい?」
「ほざけ!!」
シェイドはナイフを”名無し”の額に投げつけながらもう一方の手を翳しながら神具を具現化する。
「御出でなさい!レーヴァテイン!」
漆黒と紅の光がシェイドの手に収束し、禍々しい剣の姿を形取る。
それを合図に”名無し”は翳した手に刃を顕現する。
「闇より闇に属する力。さぁ、来い。ナッシング」
「お前相手に手加減する積もりはない。最初から全力でいかせてもらうぞ!」
「光栄だね。だが、抗いは無駄だ」
シェイドはレーヴァテインを一振りし、左手を翳す。瞬間、光が収束する。
「ライトニングボルト!」
シェイドの左手から雷光と衝撃が”名無し”に向って放たれる。刹那、シェイドはレーヴァテインを”名無し”に向かって振りかぶる。
”名無し”はそれらを跳躍して避け、天井を蹴り、シェイドに斬りかかる。
「ちっ!イグドレードバーニング!」
他方向に広がる炎が天井を焦がすが”名無し”の姿は最早そこには無く、シェイドは瞬時に後方にレーヴァテインを振り抜く。
その瞬間、シェイドの口からゴポリと血液が吐き出される。
「だから。言っただろう?抗いは無駄だと」
”名無し”の言葉と共に膝から崩れ折れるが、シェイドには外傷は見当たらない。
「初めから・・・この部屋に・・・魔術を張ったな・・・ぐっ」
握り締めていたレーヴァテインも光の粒子に変り、空中へと霧散していく。
「君の魔力は頂いたよ。実に美味だ。回復するのにも相当な時間を有するだろう?それともここで殺しておこうか?どうする?そうだ、君が命乞いするのならば・・・その命助けてやっても構わないぞ?くっくっく・・・」
シェイドは歯を食いしばりながらやっとのことで口を開く。
「ほ、ざ・・・けっ」
「興ざめだ・・・最後の言葉にしては聊か面白みに欠ける」
白い闇の剣をシェイドの首元に当てる。
「DEL・・CLO・・・ZED・・・フェンリルっ」
シェイドの叫びと共にシェイドの周りから無数の氷の剣が具現化し、”名無し”を貫いた。
「くっくっく・・・やはり、使ったな・・・それでかなりの時間お前・・・は力を蓄えねばなるまいて・・・はっはっはっは」
笑い声が途切れ、”名無し”はドロドロとその姿を闇へと変え消えていった。
「くっ・・・最、初から・・・狙い、は、私の無力化、か・・・くそっ!」
月明かりと電灯に照らされ、神秘的に光り輝いている夜の桜。
舞い散る花びらも淡く輝き夜の風に舞い遊ぶ。
「わぁ・・・綺麗です・・・ねぇ・・・」
誰しもが絶句するほどの光景。
夜の桜。
「いやぁ。まじでいいなぁ花見は」
一呼吸おいて剣示は溜息と一緒に話し出す。
「うん。綺麗」
「うむ、やはりいいものだろう?」
剣示の父はビールを飲みながら桜を見上げている。
イヴは興味津々と舞う花びらを見つめていた。
「本当、たまにはいいものね・・・」
用意してきた弁当やおつまみを広げつつ、剣示の母はにこやかに言う。
角度によって白く輝いたり、ピンクに輝いたりする花びらを眺めつつ皆往々に桜を堪能していた。
花見で賑わうその場所も風が吹けば誰しもが見とれ、声を失う。
それほどに美しい光景が広がる。
会話は少ないがどこか心が繋がる感覚を体感しながら剣示達、”家族”の夜は更けていった。
《次回予告》
リペア「うおっついに後書きまで利用しちゃったよ・・・この人」
剣示「ひでぇなこりゃ・・・あほだわ」
リペア「まぁカンペありますんで読みましょうかね」
剣示「よんだれよんだれ」
リペア「では!次回予告スタート!ってこれだけ!?」
「あの者の限定解除を執行する」
「アカシッククロニクレスの老人どもがイーヴァルズグラァックスの破棄を決定したか・・・」
分かっていたと言わんばかりに大した驚きも無くシェイドは報告を聞いた。
「これが夢であればと思います」
なびく髪をそのままに微笑む。
「私は私の意志で殺したくない!!!」
次回「現世は夢、夜の夢こそ真」