第五夢:夢ハ終ワリヲ告ゲ
エッジ「やっほ〜エッジでーす。何故かしらないですけど今回からここの枠を私がもらうことになりました〜って・・・次回から私あんまり本編でないみたいなんで・・・」
イヴ「残念ですね」
エッジ「まぁ、仕方ないですけど・・・で、ここの枠をどういうコーナーにしようか思案中なんですよ〜」
イヴ「考え無しですか?」
エッジ「うっ・・・だってどうしたらいいのか分かんないんですよ・・・私ってこの枠もらう際に何も伝えられてないんですもん」
イヴ「じゃあ、私そろそろ行きますね」
エッジ「!?まってイヴちゃん・・・一人にしないで・・・」
イヴ「そういわれても・・・こまったなぁ」
エッジ「と、とりあえず、ほら、あれやりましょ。あの終わりの挨拶!」
イヴ「え?もう終るの?何もしてないよ?」
エッジ「いいからいいから!いっせーので」
イヴ・エッジ「それじゃ皆さんしーゆー」
「ええ、明らかに異常な反応です。ええ、そうです。」
リペアは薄暗い自室から出て、居間のテレビに映し出された光景を直立で見つめている。
「いえ、今は次元跳躍をし、主の元へと向ったと思われます。・・・ええ。」
テレビの映像は荘厳な雰囲気の大聖堂。審問会さながらなものが映し出されている。中央を分断するかのような高級そうな赤い絨毯を挟み、両サイドにはローブを深く被った人影が十数人座っている。その絨毯の伸びた先、大聖堂のいわば中枢には一人の初老の老人が豪華な椅子に腰をかけ、リペアを見据えていた。
テレビの前で直立不動なリペア。テレビの中の絨毯の中央、それと同じくリペアは背筋をピンと伸ばして直立している。
「しかし!・・・・はい。分かっております。はい、随時ご報告を・・・はっ」
焦点の定まらない瞳でブツブツと呟いていたリペアの瞳に急速に光が戻る。それから時を同じくしてテレビの映像は消え、電源の入っていない黒い画面へと切り替わった。
「・・・私・・は・・・迷うな!自分の決めたことでしょう!!」
自分の頭を数回殴り、力が抜けたようにソファに座り込む。
オレンジ色の光が差し込む夕暮れにリペアは膝を抱えるように身を縮めた。
「さぁ、楽しもうじゃないか。最高の感覚を」
黒いコートの男は言う。さも楽しそうに笑いを含んだ声で。
体が熱い。精神が殺意で満たされていく。ああ、タノシイ。
剣示は口元を歪める。禍々しい笑みを浮かべ男を見据えた。
ああ。とイヴは思う。
快い気分・・・でも。
「そう。イーヴァルズグラァックスもこの感覚を望んでいる、そうだろう?」
違う、私はマスターがオカシクなるのを望んでいない!
只、繋がっていたいだけなのに!
それはだめなことなの?
いけないことなの?
「ハァ、ハァ、ハァハァハァハァハァハァハァハァハァ、ハッハッハッハッ」
剣示の呼吸はどんどん荒く激しく短くなっていく。
瞳は最早完全に深紅に染まって今にも全てを敵に回し暴れださんばかりである。
「コロス、コロス、コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス」
何て心地良い言葉なのだろうか?剣示は思う。その言葉繰り返すだけで気持ちは高揚し、力が奥底から湧き出てくるようなのだ。
剣示は右手に持った本を握り締める。すると本はバラバラとページごとに散らばり始め剣示の体の中へと消えていく。
その途端にありとあらゆるイヴの知識や力を知っている自分がいた。
イヴの知りえないイヴ自身の知識すら剣示には手に取るかのように知ることが出来た。
それが何故なのかそれは分からない、だが、剣示にはイヴ以上にイヴの力の使い方を知っていた。
「地獄の有力者にして筆頭に記されし、地獄の第一の王。バエル。我が呼ぶ汝が名、心せよ、我は汝の名を知るもの。汝の力を今我に顕現す!!右手に与えよ汝が牙を!左手に与えよ汝が爪を!顕現!不視の双剣!!」
一言一句間違えることもない。一度も口にしたことのない言葉さえ詰まることも無い。
剣示は知っているから。そう、知っているのだ。
剣示の両手には目に見えない透明な刀身が顕れているのだろう。それは剣示にしか視えず、長さも幅すらも誰にも知ることは出来ない。
「は・・・ハッ!!ハッハッハッ!!!やはりか!!!やはりお前がそうだったんだな!?これほど嬉しいことがあろうか!?見つけたぞ!やはりお前が――――!!!」
黒いコートの男は臆するでもなく狂喜に顔を歪め、今まで見たことの無い狂人の顔を見せた。
「待っていたぞ!!この瞬間を!待っていたぞ!!全ての苦痛を取り除く貴様を!!!!」
男は白い闇の剣を構え直し、剣示へと襲い掛かる。
剣示は無表情に右手を振り、男の腕を切り裂く。男が笑いながら血を撒き散らすのを見る暇もなく左手を振り、男の腹を切り裂いた。大量の血が床を穢していく。
剣示は止めない、男を切り刻む行為を。
ザクッ。刃を男に叩き込むと胸がすっとする心地良さが込み上げてくる。
ザクッ。何と心地良い感触なのだろうか?と思う。
ザクッ。ザクッ。ザクッザクッザクッ。
「ヒャハハハハ!!もっとだ!!そうだもっと切り刻め!!狂気に囚われろ!もっと狂え!!」
男は致死にも至るほどの傷のはずだろうに狂ったように笑い続けている。
「い、ヴ・・・切りなさい!っ・・・リンクを切りなさい!!!!」
気を失っていたエッジが呻くように起き上がり、叫ぶ。
「イーヴァルズグラァックス!!!リンクを切りなさい!!!!」
エッジの叫びと共に剣示の瞳孔が開き、深紅の色が急速に薄れていく。
力を失ったように剣示は気を失い床へと倒れこんだ。
それとともに剣示の体内へと消えていったページがハラハラと倒れた剣示の体から出て行き、一冊の本の形をとった。
「おんなぁ!!がっ・・・よくも・・・邪魔をおおおおおおおおおおおおお!」
動くこともままならないほどの傷のはずなのに男は機敏に起き上がり、剣をエッジへと振り上げた。
「わ、かるでしょう!もうこの世界は否定されたのよ!!だから!私は!!御出でなさい!!黒い魔剣ストームブリンガー!!」
エッジの手に収束していく黒き光。顕れる魔剣。エッジは限定解除をしていた。
エッジの体全体に奇妙に張りめぐる血管。瞳からは血液が涙腺から流れ落ちている。
オリジナルとほぼ変らない本物の魔剣と化したストームブリンガーを翳す。
「還りなさい!貴方の世界へと!!”名無し”!!!」
黒い霧が舞い嵐となって男を包む。男は断末魔にも似た声を発しながらその姿を消失させていった。
「はぁ・・・はぁ・・・くぅ・・・ぐっ・・・」
エッジは魔剣を手から落とし、血を吐きながら倒れ、気を失ってしまった。
リン・・・
またか・・・。
リン・・・
分かったよ・・・もう、分かったから・・・
リン・・・
イヴ・・・。
目を覚ました剣示の瞳に映ったのは心配そうな顔をしたイヴの顔だった。やわらかい感触がするのはイヴが剣示を膝枕しているせいだということが分かった。
「マスター・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」
「・・・イヴ・・・あ。俺は・・・思い出しちゃったんだなぁ。全部・・・」
「ええ、剣示さんはこの世界を否定したんです。イヴを呼ぶことによって・・・この世界が虚偽の世界だと認めてしまいました。・・・楽しかったですよ剣示さん。短い間でしたけど夢を見せてもらえて嬉しかったです」
剣示の言葉を引き継ぐ形でエッジが笑顔で話し出した。
悲しみに満ちた笑顔。相反する感情はこうまでも表情に出てしまうのかと思う。
二度と会えないかのような別れ際に見せる笑顔、エッジはそんな表情をしていた。
「まぁ、帰ったらさ。またいつでも会えるんだからそんな顔するなっての」
剣示は自分の中にある確信にも似た思いを押し潰しながら笑う。
「剣示さん・・・あのね」
言うな!!聞きたくない!!聞きたくないんだエッジ!!!
「剣示さんはイヴとリンクしていたからある意味、不死の属性を持っていたの。でも」
やめろ!言うな!!やめてくれ!!!
「私は・・・」
畜生!!!畜生!!!!
「もう死んでるの」
―――――――――!!!
まるで明日の予定でも言うかのように何でもない様子で自分のことを告げる。
目の前が真っ暗で眩暈さえ起こしそうな感覚。
知っていた?解っていた?だからこそ聞きたくなかった?
グルグルと思考が溶け始めていく。
「マスター・・・気分が悪いの?」
イヴの言葉すら剣示の耳に届かない。
急激なぶつける先の無い怒り。
何故エッジは俺と恋人を演じた?
死ンダ人間ガ自分ノ大切ナ人ニナッタノガ許セナイノカ?
違う!違う!!違う!!!
何モ違ワナイダロウ?ソノ女ハオマエノ心ヲ奪イ尚且ツ届カナイ存在ダト言ウ。許セルノカ?
俺は・・・俺は・・・エッジのことを・・・憎いと思っている?
アア。思ッテイルダロウ?
エッジが悪いんじゃない。
本当ニ?コノ女ガ甘イ夢ヲ望ンダノダトシテモ?
黙れ。もう、たくさんだ。お前は誰だっていうんだ。何がしたい!?
俺ハオマエダヨ。ズット前カラオマエト共ニ在ッタジャナイカ。忘レタノカ?
―――――――――――!!!
浅い溜息。それはエッジの口から吐き出された。閉じた瞳を薄っすら開けて言う。
「イヴ・・・剣示さんの記憶を消してほしいの・・・」
「エッジ、何を言ってるんだよ」
「イヴ、お願い。剣示さんの記憶を」
「エッジ!!!!!」
剣示はエッジの肩を思い切り掴み自分のほうに向かせた。エッジの瞳からはつぅっと雫が零れる。ハッとする顔をしてエッジは顔を背けたがすでに遅いことだった。
「エッジ・・・」
剣示は言葉を詰まらせる。どんな思いでそう言ったのだろうか?それさえも自分は理解出来ないことに嫌気がさす。
「ねぇ、お願い。イヴ・・・」
「マスター・・・どうするの?」
イヴはこの雰囲気を察したのかおずおずと訊く。剣示は何も言わない。否、言えないのだろう。
「剣示さん。存在しない人間の記憶なんて自らを苦しめるだけですよ・・・それが、甘いものだとしたら尚更です。剣示さん。私のこと愛していますか?」
「ああ。今でも・・・偽りと分かってもまだエッジが好きだよ」
剣示の言葉にエッジは微笑んだ。本当に嬉しそうに。
「だったら、消してください思い出を・・・私の最後のお願いです」
次に目を覚まし、現実という世界に戻ればもうエッジのことは思い出せないのだろう。
理解している。分かっている。仕方の無いことだと。
長い沈黙の後、剣示は小さく頷いた。
「さようなら。剣示さん・・・」
気が遠くなる感覚の中、剣示は囁くようなエッジの声を聞いたような気がした。
愛していると。そう聴こえた気がした・・・