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第四夢:夢カラ覚メル夢

リペア「皆さんどーも〜元気っすかぁ〜?この前は本当に酷いイジメにあいました。くれぐれも皆さんはあんなイジメはしないでね・・・」

イヴ「あ。リペア自己紹介コーナー取り合えず一通り終わったからもうしなくていいらしいよ?」

リペア「じゃあ取り合えずだべるコーナーにしようよ」

イヴ「まぁ、いいからほら。行くよ。しーゆー皆」

リペア「嫌っ終らないもんね!!じゃあリペアの朝まで生ライブ〜まずはリペアの恋愛相談コーナー!どんどんぱふぱふ〜。まずは北海道からのお葉書です♪ペンネームリペアたん大好きさんから〜」

イヴ「えい」

リペア「ぐぁ!?」

イヴ「・・・じゃあね〜皆〜」


ある朝、イヴは目覚めると自分が喪失したものがあると思った。


「何でこんなに・・・空虚なの?」


それはとても大切で無くてはならないものだと思った。


「マスターといるとこんな気持ちにならなかったのに・・・」


だからイヴはそれが何であるか考えた。

たくさん考えた。

それでも答えは見つかることなくイヴの悩みは解消されることはなかった。


「この喪失感は・・・何?」


それでもイヴはそれを思い出すことは出来ない・・・。

それが自分のモノであることさえも思い出すことは出来ないのだった。

リン・・・

切ない鈴の音がネックレスから聴こえる。


リン・・・









「それで?剣示さんの居場所を貴方が知っているっていうの?」

リペアがサッドに質問をしている。

イヴは相変わらず黙って居間のソファに座ってサッドを見つめている。

「いえ。居場所を知っているわけではありません。只、剣示さんの世界への干渉を可能とする魔法書の存在を知っています」

「クゥアルバルタルの死文書・・・」

サッドの言葉を引き継ぐ形でイヴが呟く。

「ええ、そのクゥアルバルタルの死文書に書かれている法を使えば剣示さんの世界への干渉は可能になります」

リペアは興味を失ったかのようにテーブルに肘をつき溜息を吐いた。

「知っています。でもね、クゥアルバルタルの死文書は重要魔法書物としてアカシッククロニクレスでも最高峰のセキュリティシステムで守られているんですよ。そんなものをどうやって閲覧するっていうんです」

サッドはリペアの前の椅子に座り、微笑んで言う。

「貴方ならどうですか?貴方ならそのセキュリティシステムを無効化する方法もその魔法書物の在り処すら分かっているんではありませんか?」

「・・・ふざけないで。貴方・・・何を企んでいるの?貴方の行動はハッキリいって疑わしいのよ。胡散臭いったらありゃしないわね」

サッドをキツク睨み付けながらリペアはハッキリと言い放った。

それに対して何の物怖じもせず、サッドは相も変わらず微笑を絶やすことは無い。

ソファから立ち上がったイヴがサッドの横まで歩いて来て、サッドの首筋に手を当てて力を収束させる。

「何が狙いなの?言わなければ殺す」

「まぁ、怖い。狙いなどありませんよ?只、剣示さんには少しばかりの恩がありますし、それを返しておこうと思った・・・それでは納得できませんか?」

「納得できると思うわけ?」

鼻で笑うようにリペアが即答したのを合図にイヴは収束した力を刃に変えた。

薄っすらと首筋から赤い血が流れる。

それでも少しも顔色を変えずに言う。

「納得しようとしまいと構いませんよ。私は只、それを伝えに来ただけですし、行動を起こすのはそちらの自由でしょう?貴方方が何のデメリットも感じる必要は無いと思うのですが?」

言うだけ言った挙句、サッドはその存在を希薄させていく。

「私の言いたいこと、用件は済みました。では皆さん、御機嫌よう」

言い終わると共にサッドの姿はもうどこにもなくなっていた。






―剣示失踪から2週間―

「いたたたたたっ!」

アカシッククロニクレス図書館データバンク。そこでリペアはハッキングを行っている。

アカシッククロニクレスに精神だけ転送し、その中で目当てのデータを物色するのだ。

これぞ次世代ハッカー。まるでどこぞの未来映画さながらのハッキングである。

そしてリペアは今まさに絶叫を上げながらウィルスバスターやらファイアウォールなどに追い回されながら死闘を繰り広げている最中である。

「うわわわわー。たんまたんまっ!ちょっとたんまっ!」

相手は言葉の通じるモノではないのでたんまといっても無理な話である。

ウィルスバスターが馬鹿でかい包丁でリペアを一刀両断するべく物凄い勢いで襲い掛かってくる。

リペアはその斬撃を半身で避けつつ、合気道の要領でそのままの勢いを殺さず投げる。

「わー。物分りの悪い馬鹿どもめぇー・・・チェックザデータ。リペア特製ウィルス、ドクトル超栄発信!」

ネーミングセンスは最悪ではあるが、そのウィルスは凄まじいもので、物々しい数の騎兵隊が一瞬にして目の前に顕れるやいなや、ウィルスバスターを粉々に粉砕していく。

「おほほほー。さっすがっスね私〜」

(リペア。マスターの世界に介入する魔法書データはクゥアルバルタルの死文書だからね)

リペアの精神に直接響くイヴの声がそう告げる。

「分かってます〜。これでも私ここの元司書なんですからね!」

クゥアルバルタルの死文書とは他者の精神や、心に思い描いている世界などを覗き見る法や、その世界に侵入出来る法が書き記されたもので、過去にはある国の王の精神を侵食し、一国を滅ぼすという事件が起こっている。往々にして魔法書物とは悪しき使い方でその存在を示している。

「よーし。最終関門のプロテクトウォール破壊完了」

粉々に砕かれた厚さ数十センチほどもある鋼鉄を模した壁を破壊し終えたリペアが遂に魔法書物管理倉庫に侵入を果たした。

「えーと〜。たしかクゥアルバルタルの死文書はと・・・!?・・・まさか・・・くっ!してやられたみたいね・・・」

(リペア?どうしたの?)

「やられたわ・・・私達より先にクゥアルバルタルの死文書を盗み出した奴がいるみたい・・・やっぱり私達を囮に使ったみたいね」

落胆しているリペアを追い討ちするかのようにリペアが眠らせておいたセキュリティシステムが起動し直し、けたたましいアラームを鳴り響かせている。

「やっばぁ!・・・イヴ一旦そっちに戻るわ!フォローお願い」

(分かった)

それから数瞬後、リペアの姿は霞のように消え、その空間には何もなくなっていた。







―喪失ノ秋―

秋の日差しが心地良い。

鳥の囀りが遠方から聞こえてくるのが安らぎを与えてくれる。

秋の日の昼過ぎにテーブルにうつ伏せになりながら、剣示はさながら何かのRPGの混乱魔法にかかったモンスターのようにぼーっとしていた。

理由は無い。

そう、何も無いからぼーっとしているのだ。

今日は休日なのか、それともそもそも自分はすべきことが無いのか。

ただ思うことは、何をするべきなのかということだ。

「剣示さん?剣示さん?・・・どうしたの?」

「ん・・・?ああ、エッジ・・・」

「ああエッジじゃないわよ?さっきからずっとぼーっとして・・・どうしちゃったの?」

「なぁ、エッジ・・・俺は今から何をすればいい?」

「どうしたの?剣示さん・・・急にそんなこと言い出すなんて?」

いつも通りの反応を示すエッジに急に寒気が走る。

そう、エッジは剣示がこう訊くと決まってこういうのだ。

「剣示さんは何もしなくっていいのよ。して欲しいことある?それなら私、何でもするよ?」

何故俺は何もしなくて良いのだろうか?


大体――は?――?・・・なんだっけ?大体・・・なんて思ったんだっけ?


ああ、頭がぼうっとする。・・・に出よう。


何処に出るって?・・・?ああ。ああ。何だろう?



ワカラナクナッテクル・・・ゼンブ、ドウデモイイコト?



リン・・・

リン・・・リン・・・

まただ・・・この家に鈴の音を出すモノなんてあったっけ?

そんなもの・・・あるのだろうか?

大体、この家は誰の・・・家?


嘘だろ・・・?


分からない・・・


何だ・・?何だよこれ・・・


剣示は急に途轍もない恐怖に苛まれ始めた。何もかもが分からない。そんな恐怖に怯えながらこれからずっと生きていかなければならないのだろうか?そんなことを思いながら剣示はそれでも動けないでいた。

何故なら唯一つ、エッジとの暮らしの中に在った安らぎや幸福。それらは嘘でもなんでもない自分自身がそう感じた唯一の感情だったからだ。

「エッジ・・・。」

「なぁに?」

「・・・エッジと暮らし始めてどれくらいだっけ?」

「そうだなぁ・・・もうすぐ一年経つね・・・」

一年。

そう一年もエッジと二人きりで暮らしてきた。

本当に二人きりで。


「剣示さん。愛してる」


「ああ。知ってるよ」


そう、十分過ぎるくらい知っている。

君が俺を愛していることを。

そして、君の愛がどれだけ大きいのかを。


でも俺はこの世界を疑わなければならない。俺はこの世界の異常さに気付いてしまったから。

気付かなければ良かったと何度思ったことだろうか?

本当はもっと前から気付いていて、それでもシラをきってきたのだろうか?


ワカラナイ。


今でも本当にこの世界のことに気付いているのかさえも分かっていないのではないだろうかとさえ思う。


「本当に気付いていないわけじゃないのだろう?」

「!?」

目の前にいきなり現れたのは黒いロングコートを纏った銀髪の男だった。

記憶の中にあるような、どこか知っている男。その男は嘲うかのように口元を歪めた。

剣示とエッジ以外の存在を初めて認識することが出来る事実に剣示は戸惑う。

今までこの世界で剣示はエッジ以外の人間を認識したことが無かった。

大学へ行っても店にいっても、そこには本当は誰も居なかった。ただ、居ると思い込んでいただけ。

本当に認識できる存在はエッジ以外いなかったのだ。

驚きと戸惑いを織り交ぜた感情が渦巻く剣示とは反対に、エッジは半ば何かを諦めたかのように疲れたような顔をした。

「エッジ・・・」

「なぁに?剣示さん・・・」

「俺にとって・・・この世界は」


ヒテイスルノカ?


エッジは瞳を閉じ、諦めたように口元に笑みを浮かべる。

「この世界こそ、本当だ」

「!?」

エッジは驚いたように目を見開く。黒いコートの男も同じくそれに習う形で目を見開いていた。

「けん・・・じさん?どう・・・して」

「君は何を言っているのか分かっているのか?そうだとしたら失望だ」

「煩い。お前に何が分かる。何も知らないくせにのこのことこの世界に進入しやがって、お前、うぜぇよ。キエロ」

黒いコートの男はせせら笑う。幼稚な子供を見るかのように、穏やかな瞳で剣示に向って力を放つ。

咄嗟に両腕で衝撃を防御するものの剣示は慣性の法則にしたがいテーブルや椅子を壊しながら壁にぶち当たった。

「剣示さん!!」

「ぐっ・・・こ、の」

「どうして分かってくれないんだい?君は必要不可欠な存在なのだよ?その君にこんな世界に引きこもられては困るのだよ」

身体に力を入れて立ち上がろうとするものの全身の痛みがそれを妨げる。

「無駄だ。イーヴァルズグラァックスの力を断ち切ってしまった君などに最早抵抗する能力は存在していない」


イーヴァルズグラァックス。


イヴ・・・


俺は。その魔法書の主。


「止めなさい!これ以上剣示さんに傷を負わせるようなことをしたら貴方を許さない・・・」

エッジは男を睨み付けながら一歩一歩と距離を近づけていく。

「ふ、フォースの女か。だが、本当の自分を取り戻しているのか?お前は誰か分かっているのか?お前はこの夢の住人に過ぎない、この夢の中ではお前は何だ?只の人間。何の力もない只の人間に過ぎないのだろう?」

男の声は世界に響くかのようにエコーする。エッジが目を眩まされたかのようにフラフラとしている。何が起こっているのか剣示とエッジの二人には理解出来ない。

へたり込むようにエッジが床に尻餅をついたと同時に男がエッジの顔面を強かに蹴りつける。

「あぐっ!!」


ドクン。


ああ。この感覚は知っている。


この男を知っている。


俺が殺意を覚えた男だ。


ああ、コイツは今何をした?


俺の大事な人に何をした?


コロス。アア、コイツハイキヲスルカチスラナイ。









剣示の家のリペアの部屋でイヴはリペアの精神がリペアの身体に入るのを確認してから頬をペチペチと叩いた。

「う、・・・はぁ、びびったぁ」

起き上がりながら溜息を吐いてからイヴに向き直る。

「全く、あのサッドとかいう女。やってくれたわね」

「最初からリペアにセキュリティを眠らせて囮にするつもりだったということ?」

「そゆことね」

イヴは力が抜けたように座り込み、悲しそうな顔をする。

「・・・まぁ、剣示さんを取り戻せなかったことは痛かったけど、元気だしてよ、きっと戻ってくるって・・・ね?」

「・・・うん」

返事をしてイヴの表情が豹変する。瞳の色も赤く変わり、異常さを前面にだすかのように呟きだした。

「マスター・・・マスターが私と繋がる・・・。マスターが私の力を顕現しようとしている」

「え!?剣示さんが!?じ、じゃあ剣示さんはこの世界に帰ってきているってことなの!?」

表情の消えた顔で首を振る。

「違う。世界を越えて繋がっている。私とマスターのリンクが再開される」

「まさか、そんな・・・次元を越えてリンクするなんて・・・出来るわけが・・・」

リペアの顔が蒼白になっていく。在り得ない事が起ころうとしていた。

イヴが右手を翳すと右手からペラペラと本のページのようにバラけ始め、宙を舞い始めた。

遂にイヴの姿全部がページと成り果てて収束していく。

「何故・・・主もいないのに真の姿に成り得るわけがない・・・」

リペアは驚きに身を凍らせたようにその場に尻餅をついてしまう。

完全なる魔法書物の姿へと変り、今度はその魔法書物は何処かへと移動するかのように消え始めた。


「マスターが・・・呼んでる」


イヴの声が響き、魔法書物は消え去っていた。







「ヤメロ」

剣示の瞳が赤く血の色に染まっていく。

「ほう、それでいいのだ。剣示君。君は君の存在意義を理解すべきだ」

「ダマレ」

剣示は立ち上がり、一歩踏み出す。先程とは確実に違う。力が身体から溢れるほど漲る。

「知っているかい?君が主となった魔法書物イーヴァルズグラァックスは、全ての魔法書物の中で最も悪の属性が強く、限りなく破壊の力に秀でている」


煩い奴だ。ベラベラと講釈たれやがって。


「だからこそ、その魔法書物の主は心を侵食され易く、最後には史上最強最悪の殺人鬼と化していく・・・最高の結末だろう?」


黙らせるならどうすればいい?そうか、もう二度と動けないように全てを粉々に、塵に還してやる。


ドクン・・・


懐かしい感覚。剣示の右手には見慣れない本が握られていた。


マスター・・・。


リン・・・鈴の音が聴こえる。


「・・・イヴ」

「ほう、顕現するとは・・・流石は剣示君だ。そろそろ引きこもりはやめにするんだね」

男の言葉が終わると共に剣示は男の顔を渾身の力を込めて蹴り上げた。

男は易々と天井に穴を開けて吹っ飛んでいく。

床に落ちてきた男の頭を踏みつけ、冷ややかに見つめながら呟く。

「コロシテヤル」

「くっくくくく・・・そうだ。その感情はいいぞ。とてもいい!!」

男は剣示の足を払い、飛び上がり手を翳し何かを呟く。

「闇より闇に属する力。さぁ、来い。ナッシング」

真っ白な光というよりも、照らすというより打ち消すような白の剣を翳した手に呼び出した。

「さぁ、思い出すんだ自分が何であるのかを・・・」

「何を言ってる。てめぇは何様だ?うぜぇんだよ!!!!」

男は床を蹴り、風のように剣示に斬りかかる。その剣撃を剣示は避けつつ回転しながら回し蹴りを男の後頭部にぶち当てた。

男はそれさえも些細なことのように難なく床に足をつき、振り返って床を蹴る。

同じように斬りつける剣撃を避けた剣示の顎に今度は男の翻したコートの影から蹴りが強かに打ちつけられた。仰け反った剣示の鳩尾に蹴りあがった足を直角に落とす。

凄まじい衝撃に口から血を吐き出した剣示は、痛みは感じないような素振りで立ち上がる。

「楽しいだろう?殺し殺される感覚は。楽しいだろう?」


ああ。タノシイ。


お前をコロスコトハタノシイ。


「さぁ。楽しもうじゃないか最高の感覚を」


剣示の口元は自然に歪み、禍々しい笑みを浮かべるのだった。

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