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第一夜:その名はリペア

「好きです!」

人通りの少ない舞阪市夢幻町住宅地郊外の道路のど真ん中で、いきなり美少女に告白を受けるという、きょうびギャルゲーでもないシュチュエーションに驚きつつも冷静を装う男子高校生相島剣示18歳。

生まれてこのかた女の子に告白された事など一切無い。

しかも、だ。告白してきた女の子はまるで芸能人だと言われても納得してしまう様な容姿の持ち主なのである。しかも、金髪の青い瞳、最高です状態である。

「ちょっと、考えさせてくれないかな?」

うおおおおお。これだ!このフレーズ言ってみたかったんだよね!最高です神様!もう死んでもいいかもー・・・

剣示が心の中で身悶えている間、女の子は少し俯いて言う。

「じゃあ!殺させてください!」

そして、こんなストレートなお願いもされたことは無い。

勿論、じゃあ!の意味が分からない。告白の次に来る言葉に相応しくないランキング第2位にランクインしそうなくらい訳が分からない。

じゃあ、1位は何かって?とりあえず2位に置いとけばこの先、物凄く悲惨な言葉を聞いた時にランク落ちはないかと思ってこうしてますみたいな感じだろう。

幸福から一転、困惑。

その言葉の意味を理解するまでに数秒もかかってしまった。

「その、冗談だったらほかをあたってくれや」

ガックリとうな垂れる剣示が女の子に背を向けた瞬間、背筋に冷たいものが走った。

思わず飛び退いた数瞬後、どこから取り出したのか女の子の日本刀が振りかぶられていた。

「え?マジ?」

「まじまじ」

にっこりと頷く女の子に少しドキっとしてしまうが、ある意味この状況でドキっとしないほうがオカシイだろう。

「あー・・・俺、何か君にしたのかな?」

「え?全然。何もしてませんよ?」

本当に屈託の無い無邪気な笑顔が痛い。痛すぎる。あらゆる意味でイタイ子である。

「えー、君の名前は?」

「私、アカシッククロニクレス図書館司書。リペアです」

赤だか黒だか知らないが、図書館の司書に命を狙われる状況に陥った人間は一体どれくらいいるだろうか?というか、図書館司書に命を狙われる理由が思いつかない。

「あー、リペア君。俺には君に命を狙われる理由が一切無いような気がするのだが、君はどう思うよ?」

「そーですねー・・・まぁ、貴方には何の過失もありませんが、とりあえず死んでもらえればなぁと思うしだいなのですよー」

ああ。と剣示は思った。

阿呆か。こいつは、き○がいなのか。

剣示はこいつに関わってると、とんでもない事態になりそうな気が物凄くしてきた。

そういうことなので、こういう場合に陥ってしまった人は俺を見習って欲しい。

剣示は一目散に逃げ出した。あっけに取られるリペアを他所にとりあえずありったけの力を振り絞り、まぁ言うなれば学校のアイドルが見ている体力測定での短距離走並に振り絞りまくった。

「はぁ・・・はぁ・・・す、スケさん、カクさん、も、もういいでしょう・・・て、感じやわ」

数分の全力疾走で心身ともに憔悴しきった顔で剣示は崩れ落ちた。


ここ、舞阪市夢幻町は特に誇れる名産物もなければ芸能人が出身地なわけでもない、人口数千人の只の田舎街である。まぁ強いて言うならば、ここには奇怪な事件が多々語り継がれている。

かといってTV局が取材に来ることもない。てか来いよ!な感じである。

そして、我らが主人公、相島剣示は、容姿普通。運動神経普通。成績普通以下。特に何の取り得もない冴えない男子高校生である。


痙攣しそうな足を引きずりやっとこさ家路に着いた剣示は、安堵のため息を吐き、玄関のドアを開ける。

「おかえり、剣ちゃん。遅かったわねー、お友達が待ってたのよ?」

と剣示の母が出迎える。

友達ねぇ・・・剣示はまたオタッキーの佐藤が来ているのかとウンザリしたのも束の間に。

「剣示さん、遅かったから心配しましたよー」

「ナンデイルンデスカ?」

何故か母と出迎えている人は先程出会った、き○がい女リペアだったことに思わず言葉がカタカナになってしまう剣示だった。


「というか、帰ってくれますかね?」

剣示の部屋の中央のテーブルに見合う様な格好で座り、開口一番剣示は言う。

「まぁまぁ、落ち着いて、殺風景な部屋ですが。さぁコーヒーでもどうぞ」

「お前の家かよ!てか、なんで家に居るんだよ!そして、誰だよお前は!」

「ここは私の家ではないですねぇ。まぁここに居るのは貴方が逃げたからで、私は前にも言いましたがアカシッククロニクレス図書館司書、リぺアといいます」

リぺアは律儀に全ての質問に順を追って答えていく。

「いやいやいやいやいや、判ってる!今言った事全部判ってるけども!!アエテイワセテモライマシター!」

もうどうでもいいですよ口調で剣示は叫んだ。脳天から声が出るほどの叫びだった。

叫んだら喉が渇いたのでコーヒーを頂いた。

「ケッコーナオテマエデ!」

「お粗末さまですー」

「俺が淹れたんだけどな」

「そうでしたねぇ。おほほほほ・・・ところで」

ふと急にリペアが真剣な面持ちで話を続ける。

「私のコーヒーはないんでしょうか?」

「貴方はお客様ではありません」

「酷い話です。他人のお家にお邪魔しても、コーヒーさえも出してくれないなんて」

本当に機嫌を損ねたように口元を歪める。しかし、まぁよく見ると本当に整った顔をした女の子だと良くわかる。怒った顔も可愛いとかよく言うが、まさにこの娘には当てはまるだろう。

「本当に酷い話だけどな、しかし俺はもっと酷い話を知っている。まさに最近のことなんだけどな、告白してきた女の子が次の瞬間、殺させろとポン刀で斬りかかってきたんだぜ?」

「まぁ!本当に酷いお話ですねぇ」

リペアは心底驚いたという顔をして相槌を打った。

「アナタノコトデスヨ?トンチキ娘がっ!」

「あー・・・私のことでしたねぇ。でもでも、正当な理由にならなかったんでしょうか・・・そう言う文献を載せた書物を見たことがあるんですけどねぇ」

本当に何が悪かったのか判らないといった面持ちでリペアが首を傾げている。

剣示はコーヒーをもう一口含み、コクリと喉を鳴らし、どういうことか質問する。

「えっとですねー、告白しますよね?フラレますよね。逆上しますよね?そして殺害。」

「まぁ、連鎖は分かるが正当ではないわな。しかも最後行き過ぎだから」

割と普通にというか冷静に答える剣示にハテナマークいっぱいの顔で考え込む。

「というか、フッてねぇし」

「え゛!?・・・うぁ・・・あの、私ちょっと貴方は趣味じゃありませんのでごめんなさい」

「ソウデスカー。ワタクシも貴方のような頭の螺子が1本どころか10本ほどぶっとんじゃってる系な子は趣味じゃないんですよー。気が合いますね」

リペアは心底ほっとした表情で「そうですねー!」と笑った。

「まぁ、当然ながら訊くけども。じゃあなんで告白した?」

「正当に貴方を殺すためですかねぇー・・・あっ、じゃあ結局私フラレちゃったわけで。あーのー・・・殺していいんですかねぇ?」

剣示は眉間の皺を指で押さえながら怒りも押さえ込む。

怒るな俺!耐えろ俺!がんばれ俺!

「まぁまぁ、ちょいとここらでシリアスっぽい話を折り込もうや。いい加減テンポについて行けん」

「と、言われましても。アカシッククロニクレス図書館最重要書物倉庫イデアから盗まれた魔法書物、イーヴァルズグラァックスが貴方の脳内に隠されてしまったのでそれの回収命令を受けて行動していますのでとりあえず、殺させていただいたうえに頭部の回収を速やかに行わなければならないのですよー」

ごめんごめん。ちょっと俺、話に全然ついていけてないわ。シリアスもいい加減にしたほうがよさそうだわ。

自分の振った話だが、たちまち後悔してしまう剣示であった。

「まぁ、落ち着こう。その・・・イーヴァルなんちゃらが俺の頭に埋め込まれたとでもいうんだろうけど、俺は生まれてこの方大きな病気はしたことないから手術なんぞしたことはない」

「イーヴァルズグラァックスです。まぁ簡単に説明すると、アカシッククロニクレス図書館に収められてる知識は全て磁気情報集合体なんですよね。つまり、貴方の脳に直接コピーされてるって考えたほうがいいでしょうね」

「そうかー・・・よし!まぁとりあえずカエレ。」

いい加減、日常生活に戻してください本当に。精神が崩壊しそうです。

「帰れ帰れと、私も終いには怒りますよ?言わせてもらえば、魔術書物に比べれば貴方の命などわんこの大便です!」

憤慨だと言わんばかりに髪を振り乱し、リペアはテーブルに拳を叩きつけながら言う。

「なんだとぅ!言わせておけば自分の価値観だけで物言いやがって・・・大体こっちゃあ被害者なんだよ!どうにかこうにかする方法でも見つけたらどうなんだ!」

「あーあ。嫌だ嫌だ、こうやってすぐ人間は被害者面ですよ。ちょっと何か言われたらこっちは被害者だーですよ。ホント勘弁して欲しいです」

あえて剣示に聞こえるようにリペアは愚痴をこぼしながら悪態をつく。

リペアの言葉をそのままに取るのならば自分は人間では無いような台詞にふとした疑問を抱き、剣示は取り合えず訊いておく事にした。

「取り合えず訊くけども、あんた人間じゃないのか?」

「まぁ。貴方方の言葉を取って言わせていただくと、私は天使という存在になりますね」

「俺にとっちゃあ、あんたは死神にしか見えんが」

「やだー、私なんて・・・そんなまだ人の魂を司るほどの職務を任せられるほど偉くないですよー・・・でもこの任務をこなしたらちょっと偉くなりますけどー・・・でも私そんな偉く見えます?あはっやだなぁもう」

嫌味を言ったつもりだったのだが、意に反してリペアは照れくさそうに否定をし始める。

どうやら死神とはリペア側の世界?では偉いらしい。

今だもじもじと照れているリペアにウンザリとしつつも剣示は訊かなければならないことがあったことを思い出し、言う。

「ちょっと訊くが、その魔術書物を俺の頭に埋めた奴はどうなってんだよ?というかそいつにも俺は命狙われるのか?」

「さあ?」

今まで質問には律儀なほどに答えてきたリペアの答えとしては明らかに短く、そして回答にはなっていなかった。

「さあ?ってなんだ?そういうとこ知ってなきゃならんのじゃないのか?」

「知りませんよ。そういうのはフォースの仕事ですし、私はアカシッククロニクレスの管理ですからフォースの仕事内容まで把握しているわけ無いじゃないですか」

「なんだその、フォースっつーのは・・」

と訊こうとした事柄に答えるかのような状況はいきなり起きた。

剣示の部屋の窓を突き破ってテーブルの上に叩きつけられるような形で現れた人影に剣示はもう驚くことも無く、ただ一つだけ心配事を抱えるのだった。



ガラス代弁償してもらえるんだろうか?と・・・。

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