なーろっぱ世界の短編 婚約破棄とか聖女とかドアマットとか転生とか
婚約者がアレな殿下の側近にされてしまいました。 ~普通のことしかできない彼が好きです~
わたしは平凡です。
黒髪、黒目、顔は十把一絡げ、体もまぁ……可も不可もありません。
そして、婚約者である彼も平凡です。
金髪で、でもキラキラではなく、碧眼ですがしょぼしょぼ、つまり十把一絡げです。
ふたりとも成績別クラスで真ん中のクラス。
ふたりの実家もまた凡庸です。
可も不可もない伯爵家同士。
両家のちょっとした利益のために婚約して、月一回交流を続けて、別に何の波乱もなく交流を重ねているうちに親しみが増し。
学園で昼食の時は、お互い友人からの誘いがなければ、一緒にランチをします。
今は、この人でよかった、とお互いに思っています。
そんな彼がランチの時、少し困った顔をしていました。
「どうしたの?」
「……殿下の側近に指名されてしまった」
困った顔に納得です。
正直、王太子殿下は、アレです。
去年から、平民あがりの男爵令嬢に夢中。
婚約者である公爵令嬢にろくに会おうとしません。
そんな困った人の側近に指名されるのは誰だって面倒です。
「でも、どうして?」
「側近候補がまた辞めた」
「そうでもなかったら、あなたにまわってこない、か」
「父上は、断れないと」
「でしょうね」
伯爵家ではね。
正面切って、王太子殿下はアホなので、息子を側近にしたくありません。
とは言えませんね。
「断れないから、受けるしかないんだけど……気が重い」
「あなたなら大丈夫」
「どうして?」
「今までの人はみんな辞めてるか、辞めさせられているんでしょう」
「だけど、オレの実家は伯爵だからな……自分から辞めるのは無理」
「大丈夫。あなたが普通にふるまえば」
「そうかな。まぁ……オレはそうするしかないんだけど」
「だって、あのひとたち普通じゃないから」
婚約者は、一瞬、目をぱちくりして。
それから、ちいさくわらった。
「……ああ、そうだね」
※ ※ ※
半月後。
いつも通りの、ランチの時間。
「君が言っていた通りになった」
「ようございましたね」
側近になった彼はごく普通にふるまいました。
彼にはそれしかできないんですけどね。
彼がやったのは側近としてごくごく普通のことばかり。
殿下には、婚約者に対する態度をいさめ。
男爵令嬢には、相手との距離を考えるべきだと忠告し。
殿下から『婚約者が男爵令嬢をしいたげているから調べろ』と言われたので、真面目に調べて、そんな事実はありませんでした、と正直に報告し。
殿下の婚約者には、なんらかの手を打つべきだと提言し。
いろいろな大人たちには、報告し。
結果、全方位的に煙たがられて、クビにされてしまったのです。
「だけど、驚いたよ」
「『貴様はクビだ!』ですね」
婚約者は、王太子殿下に指を突きつけられて、『貴様はクビだ!』と宣言されたのだそうです。
で『了解しました』と、あっさりと承諾して、呆気に取られている殿下と側近をしり目に退出。
婚約者の父上は、各方面に『殿下おんみずからクビと言われましてしまいました。そう言われた以上、お仕えはできません』と通知しておしまい。
「普通の神経の持ち主なら、あんなことこっぱずかしくてできないと思うんだけど……」
「あなたも一度くらいなら、してみたいですか?」
「いや。似合わないな」
「平凡な人は、平凡に行動するに限ります」
「ほんとだね……まぁ、それしかできないんだけどさ」
婚約者は苦笑した。
わかりはします。
たまには、突拍子もないこととかしてみたいですよね。
そもそもそれができないんですけど。
でも、わたしはそんなあなたが結構好き。
平凡な人が、平凡な行動しかできないっていうのは、結構、才能かもしれないから。
「でも、それしかできないオレを、それしかできないから大丈夫って言ってくれる君のこと。オレは好きだな」
頬がちょっと熱くなったのはナイショです。
※ ※ ※
殿下は、そのあとすぐ、本当に婚約破棄事件を起こし廃嫡されて離宮へ。
男爵令嬢の家はお取り潰し。男爵令嬢は、平民に。
側近達もみんな廃嫡されたりいろいろ大変でした。
こうなる前に、さっさと辞めていた元側近達も、ちゃんと報告しなかった人たちは、それなりの目にあったようです。
そして婚約者であった公爵令嬢も、何も手を打たず大人に報告もしなかったのを咎められ、公爵家の長女である自覚ナシと、修道院に送られました。
でも、普通に対応し、かつ、ちゃんと報告や記録を残していたわたしの婚約者には、何のお咎めもありませんでした。
いつものようにランチをしながら、婚約者はしみじみと、
「普通って大事だよな……」
問題が起きそうだったら、上のひとに報告、連絡、相談する。
ごく普通です。
それを皆様がしていれば、婚約破棄のドタバタは起こらなかったでしょう。
だけど。
わたしはこっそり思うのです。
どこまでも普通のあなたは、実は普通じゃないなって。
そんなあなたをわたしは。
「……あなたのこと好き」
と思わず言ってしまいました。
「え」
「わたし、あなたのこと好きです」
「……オレも君のこと好きだよ」
でも、告白なんて普通ですよね。
だって、わたしたちごく普通のカップルなんですから。
たくさんの作品の中から、本作をお読みいただきありがとうございました。
最後までお付き合いいただけたこと、とても嬉しく思います。
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別の物語も書いておりますので、もしよろしければ、そちらも覗いてみてください。




