幻想郷へようこそ
……見えているかしら?
ごきげんよう、人間。
貴方、幻想郷に興味があるようね?
それも特別地底に……ええ、ええ、分かっていますわ。
それも構いませんもの。
幻想郷は全てを受け入れます。こちらへどうぞ。
………………。
あまり隙間の内を覗かない事を勧めましてよ。
ようこそ、幻想郷へ。貴方は今、外の世界から消えました。貴方が辿った全ての軌跡が、貴方と紡いだ全ての記憶が……。
ですが、それを望んだのも貴方。
ここは幻想郷、忘れ去られた物が集まるこの世界でどう生きるかは貴方次第、どうか良き人生を。
さようなら
風が吹く。
懐かしさをくすぐる香りがする。
そう、例えば夏の早朝に若草が吐き出した空気のような。例えば、冬の真昼に僅かな陽光に温められた雪解けのような。
そんな過去にしか無いような思いが胸に込み上げた。
「幻想郷……ここが。」
ゴクリと唾を飲み込み、歩き出す。
目的地は無い、こともないが場所が分からない。
この世界に居る人物、妖怪が、外で知られてる彼女達かどうかは分からない。
「まずは、霊夢に会うべきだったか……。」
林の中に放り出された為、方向感覚が狂っている。
「せめて太陽の位置と日陰で方角が割出せたら。」
雑木が少なそうに見える方へ歩を進める。
およそ20分ほど歩いた時、右手の茂みからバキバキと音が鳴った。
「ッ……!」
咄嗟に身を屈め、息を止める。
心臓が早鐘を打っている。手首の脈がビクビクと跳ねる感覚が気持ち悪い。
『妖怪』主に人間の恐れより産み出され、人に対し害をなす。いたずら感覚で人を殺す。物の怪。
この幻想郷はそう謂われる物達が数多、存在している。
(何も現れない、様子を観ているのか?)
そっと、息を吐き出しもう一度吸う。
周囲に目をやり、感覚を研ぎ澄ませる。
物音は聴こえない。
窮屈な姿勢に次第に足先が痺れ始めてきた。
(動けなくなる前に走るかッ?)
僅かな逡巡の後、大きく息を吸い込み駆け出す!
怖い。背後に何がいるかも分からない。
何をされるかも分からない。そもそも、どこまで迫って来ているかも分からない。
ただ恐ろしい。
息が上がり、太ももが熱を持ち、痛みを訴えてくる。
スローダウンしながら振り返る。
これでダメなら仕方がない。これ以上は走れないのだから。
「はぁ!はぁ!ふぅ!……ふぅ……ふぅ……」
肩で呼吸を整えながら何度も振り返るが、誰も追っては来ていないようだ。
「はぁ、はぁ、生きてる……。」
木に寄りかかり心拍が落ち着くのを待つ。
「運動、しとけば良かったなぁ」
足の痛みは少しだけ落ち着いたが、すでに筋肉痛が始まっている。
「……知らねぇヤツが居るから脅かしてみたけど、外の人間だな?泣き出さねえ辺り、根性はありそうだぜ。」
箒に跨る人影が空に浮かびながら独りごちる
歩き続けて1時間位だろうか?随分と歩きた気がするが、序盤に全力で走ったせいで足も痛み、歩く速度はゆっくりだった為、距離としてそこまででは無い気がする。
視界の開けた先に石垣と綺麗に整備された道が見える。
灯籠と鳥居、社へ続く少し長い階段。
「博麗……神社。」
疲れと痛みを無視し走り出す。
敷地を右に回り込み階段の正面に立つと誰かの声が微かに聴こえる。
「上、だな」
階段の左端に寄り、登り切る。
「なかなか来ねぇなぁ」
「あんたが見間違えたんじゃないの?そこら辺の妖精共と」
「いやいや、あれは絶対違うって!方向的に絶対ここに来るはずだって!」
何か言い争いをしている2人組
白を基調とした巫女装束に赤いリボンを髪に結ぶ少女と、黒を基調とした不思議な格好。所謂、魔女帽子を被りタイトなパンツを履いて箒に腰掛ける少女。
「おっ!来たぞ、霊夢!アイツだ!」
黒い方がにぱっと笑顔に変わる
「はぁ、今年も来たのね……」
不服そうに溜息をつく赤い方
「あなた達は霊夢と魔理沙、だよな」
「私たちを知ってるの?誰から……アイツか」
舌打ちをしつつ苛立ちを滲ませる霊夢
「そうよ、私が博麗霊夢で」
「こっちが霧雨魔理沙だ!紫のヤツから聴いてたのか?」
2人に歩み寄る。
(箒で浮いてたのか、本物って感じだ)
「いや、俺は知ってるんだ」
不思議そうに顔を見合わせる2人がさらに尋ねる。
「知ってるってなんだよ、まだ初めまして、だろ?」
「紫じゃなくても別のヤツから聴いたんじゃないの?」
外の世界に幻想郷に関する物語かある事をいくつか話し、今日あったことを聞いてもらう。
「そういうことね、なるほど分かったわ。でも私にはあなたの面倒は見れないわよ?」
腕組みしながら霊夢が答える
「だってこっちに来たかったのはあなたなんでしょ?他の外から来たやつと違って、還せって言われたってもう帰る場所無いもの。」
そうだ、幻想郷に来たかったは間違いなく俺だ。
「分かってる、ただ知ってるとは言ってもそれも外で伝わる内容で、真偽は分からないし、生活する基盤が全くない。少しの間、住み込みで働かせてくれないか?」
少し嫌そうな顔を霊夢
「おいおい、可哀想なことを言うなよ。この貧乏神社で住み込みだ?ただでさえ賽銭なんてないのに、給料貰ったら霊夢が飢え死にしちまうぜ」
ヘラヘラと笑う魔理沙を憎ましげに見つめる霊夢
「賽銭……。財布はある、こちらで金として使える紙幣じゃないかもだか」
ポケットから財布を出して紙幣を見せる
「あんた!今すぐ私に寄越しなさい!それ1枚で3日間住まわせてやるわ!」
目の色を変えて飛びつく巫女。本当に巫女なのか?
「お、おいおい、コイツ結構金持ってないか?」
「……やめた、人里を目指す!」
踵を返し財布をポケットにしまってまっすぐ歩き出す
「ちょっと待ちなさいよ!?なんで行っちゃうわけ?!あんた人里だって場所知らないでしょ?」
グチグチと不満を垂らす悪徳巫女
「あの札が使えることは分かった。恐らくだが、幻想郷で紙幣は少ないんだろ?外から持ち込まれるものが全てで流通枚数は限られている。それゆえに紙幣のデザインはどうでも良くて、明らかに機械文明で産み出されたであろう紙幣のみ数字としての金銭的価値を持つ、と」
「うぐっ…!こんなすぐに気付くなんて!!」
「お前知ってたんだろ?!」
魔理沙もおこぼれが貰えると期待していたのか文句を付ける。
「知らないさ、でも、だからそこ君たちの反応で推測がつく。幻想郷に流通するお金が少ないなら、物価が違いすぎるだろう。多方100円でも大金なんじゃないか?」
何も言い返せない二人に交渉を持ちかけてみる。
「じゃあ取引をしよう。宴会を開いてくれ、知り合いが出来たらそのツテで働かせてもらうからさ。それまで博麗神社で宿泊させてくれ。あと飯も頼む。」
いつまでとは言わずに目的が果たされるタイミングまで居着いてやる
「そうだな、魔理沙もしばらくここに通ってくれるならお駄賃ぐらいやらんでもない」
「ほんとかっ!?よし、毎日通ってやる!」
ノリノリの白黒とは裏腹に承服しかねる赤白の巫女
「もう!わかったわよ!それで良いわ!こんの、直ぐに宴会開いてやるんだからっ!」
乱暴に1000円札をむしり取る巫女と何故かすでに両手を前に出す白黒
「早ぇーって」
ニッヒッヒと笑ながら手を引っ込めない魔理沙に渋々10円をやる
おっしゃ!みろよ霊夢ー10円貰ったっ
はぁ?なんでそんなに貰えんのよ!せっこ!
「うーむ、こんなにポンポン上げてたらインフレ起こりそう……やばいかな」
「なんか言ったか?」
「幻想郷がやばいかなって」
はあ?って二人から言われた。
ひとまず下宿先と飯の確保が出来た。
霊夢がいつ宴会を開いてくれるかは知らないが、彼女を呼んでくれると助かるなぁ。
そう、幻想郷で最も会いたい人物。
古明地さとりを。
そのために幻想郷に来たのだから。




