本の紹介37『ロスト・ワールド』 マイクル・クライトン/著
恐竜の絶滅を通じて人類の未来に思いを馳せる傑作
「ジュラシック・パーク」の続編で前作のキャラクターも登場します。前作同様にスティーブン・スピルバーグ監督が映画化していますがストーリーは完全に別物です。ティラノサウルスが人間社会を蹂躙する映画版もパニックものとして面白くて好きですが、原作は絶滅をキーワードに人類の行く末を暗示するような内容となっており魅力的です。
前作の騒動から6年後、恐竜たちの生き残りが生息しているという島<ロスト・ワールド>の存在が噂される中、島の存在を突き止めた古生物学者のリチャード・レヴィンが調査に乗り込むという内容です。調査の途中で消息を絶ったレヴィンを救出するため、数学者のイアン・マルカムを始めとするメンバーも島に上陸することになります。恐竜たちの追撃を逃れながらの脱出撃という流れは前作を彷彿とさせますが、物語の印象は前作と大きく異なります。 これは前作で準主役的立ち位置だったイアン・マルカムが今作では主役に躍り出たことで、アカデミックな要素がより前面に出てきているからだと感じます。様々な恐竜たちが襲いかかってくるスぺクタクル要素は健在ですが、島で生きる恐竜たちの生態を観察しながら、人間の過去、現在、未来に思いを巡らせる様が印象的です。
「絶滅」が本作のキーワードとなっており、絶滅を巡る論点については物語冒頭でマルカムの講義という形で端的に触れられています。「絶滅」の捉え方を巡って、マルカムとレヴィンが意見を戦わせることになるのですが、二人の舌戦も本作の魅力の一つです。
レヴィンは本作からの新キャラクターなのですが、自信家で人を見下す態度を取ることもあり、読者の印象は悪くなりそうですが、そこは作者の造形が見事で、読み進めていくと傲慢さに見合った行動力と責任感を持っていることが分かり、なんだか憎めないキャラクターに感じられます。また、対立するマルカムをも強烈な個性を放っているので、あくの強さが相殺されているようにも思います。
本作でフィーチャーされるのはヴェロキラプトルという人間に近いサイズの恐竜です。ヴェロキラプトルは連携して獲物を追い詰めることのできる賢さが特徴なのですが、本作ではその有り様がどこか人間とオーバーラップされているように感じます。
彼らはふとしたきっかけで人間が島に持ち込んだ携帯食(化学食品)を食べてしまうのですが、その味に魅了されて争いを始める様が示唆に富んでいます。欲望を膨張させ、滅亡の道を突き進んでしまう生物として描写されているのですが、これはそのまま現代を生きる人間に当てはめることができるように思います。
かつて地上を支配した恐竜という種族の滅びへの道を見つめることで、今現在繁栄している人類という種族の行く末を占う内容となっており、射程の広い作品という印象を受けます。30年くらい前の作品ですが、現在の人間社会の有り様を踏まえると、恐ろしいほど人間への洞察が鋭いなと感じます。終わり




