新しい護衛
舞踏会の後、またすぐにお父様とお兄様は遠征に行く事になった。
「今回は流石に長くなりそうだ。国境沿いに行くまででも2-3日かかってしまうからな。そしてあの舞踏会からエマへの求婚の申し込みが一気に増えた。我々がいない間にエマに何かあってはいけないので、エマに専属護衛をつける事にした」
え?求婚の話なんか聞いてない。それより護衛?一日中くっつかれるのはちょっとなと思っていたら。
「ミリー、入ってきなさい」
「え?ミリーお姉様?」
「エマ様お久しぶりです」
「げ、暴力女かよ」とお兄様がうめく。
「エバン様も相変わらずですね」と兄様に笑顔を向ける。
ミリーお姉様はラフィーノ家の領地で働いているのにどうしてここに?
「ミリーにエマの専属護衛の仕事をしてもらおうと、こちらに来てもらった。領地の騎士団でもますます剣術を磨いて、王宮の騎士団に入れるレベルになっているからな、それに火魔法も使える」
「ミリーお姉様が帰ってきてくださって、本当に心強いです。宜しくお願いします」
お兄様と同い年のミリーお姉様は優しくて頼れる本当のお姉様の様な存在だ。いつも私に構いすぎるお兄様をコントロール出来る人で、いつもお兄様と結婚して本当のお姉様になって欲しいと思っていた。
でも2人とも顔を合わせると喧嘩ばかりするのよね。
「ミリー、お前は本当にエマを守れるのか?そんなほっそい腕で」
「あら、エバン様。魔法に体格は関係ないです。相変わらずの脳筋ですね。まあ、幻覚に惑わされて任務を遂行できなかった騎士には剣術でも負ける気がしませんが」
相変わらずの毒舌で素晴らしいわ、ミリーお姉様。お父様もちょっと恥ずかしいそうにしている。
「エバン、ミリーの腕は私が保証する。女性の護衛騎士は貴重なんだ、エマに男性の護衛をつけるのは嫌だろう?」とお父様が言うと、
「それは絶対に無理です」とお兄様は机をバンと叩いた。
「じゃあ、決まりだな。ミリー宜しく頼むぞ」とお父様が静かに言う。
「ラフィーノ伯爵様、おまかせください。命に変えてもエマ様をお守りします」
そうしてお父様とお兄様は遠征へ旅立った。ミリーお姉様が私から離れようとしないお兄様をひっぺがして、迎えにきた騎士団の皆様に投げつけたのはさすがだった。
一緒に学園に来たミリーの話を聞いて、ニコラス先生とアル先生は大笑いしていた。
「相変わらずだなミリー、久しぶりに会えて嬉しいよ」とニコラス先生が言う。
「ミリーがいるなら安心だな」とアル先生が材料を測りながら言う。
「お二人も相変わらずおかわりがなく、特にアル様はますます表情筋が無くなりましたね」
「お前の毒舌も変わらないな」とアル先生は顔を上げもしない。
「懐かしいな、俺たちとエバンでよく騎士ごっこをして遊んだな。ミリーには誰も敵わなかったが」
「そんなに状況は悪いのか?エマに護衛がつくとは」とアル先生がやっと顔を上げてミリーお姉様に聞く。
「良くは無いですが、まだそこまででは無いですね。お嬢様が学園に入学された時からお話は頂いてたのですが、なかなか決心がつかず。今回の遠征の事と伯爵様の説得でこちらに帰ってきました」
「あら?お姉様。そんなに領地に残りたかったんですか?」
「それもありますが、会いたくない人がいまして。でもお嬢様の安全の方が大切ですし、家族の近くにいれるのは嬉しいですから」
あら、誰かしら。ミリーお姉様が会いたく無いなんて相当ね。
ニコラス先生とアル先生は何とも言えない顔でミリーお姉様を見ている。
アル先生は普段は部外者が研究室に入るのを嫌うが、ミリーお姉様は幼馴染なので大丈夫そうだ。
そうして1週間が過ぎ、お父様達の討伐も無事に終了して、後片付けが終わり次第出発すると連絡が来た。
「帰って来るのに2-3日かかると言っていたから、来週の頭ぐらいかしらね。お父様とお兄様の好きなお菓子を買いに行きたいから、週末に一緒に街についてきて貰ってもいいかしら?」
「あのチョコレートケーキですか?まだお2人ともお好きなんですね」
「そうなの、良く覚えているわね。私も好きなんだけどね」
そして週末に、昼食を食べてから私とミリーお姉様でチョコレートケーキを買いに街へ出てきた。
チョコレートケーキはカフェが併設されているケーキ屋さんで買える。
「やっぱり、味が落ちてないかチェックするべきと思うの」と私が言うと。
「同感です、カフェで味見をしてから買いましょう」とミリーお姉様も真面目な顔で言う。
そして2人で笑ってしまった。
ケーキはとても美味しく、ついお土産のケーキも買い過ぎてしまった。
「こんなに食べれるかしら?」
「エバン様は甘党ですから大丈夫ですよ」
「え?お兄様はこのチョコレートケーキしか食べないと思ってたけど」
「エマ様の前でカッコつけているだけで、いつも部屋にお菓子を持ち込んでましたよ、母が虫が湧くからやめてくださいといつも怒ってましたから」
マーサに怒られているお兄様を想像して思わず笑ってしまった。
「そろそろ帰りましょうか、荷物が多いので私は馬車を呼んできますので、こちらでお待ちくださいね」とミリーお姉様はお店を出て行く。
私はお店の中にで待つ事にした。
すると店員さんがやってきて
「馬車がくるまで、隣の待合室でお待ち頂けますか?来たらすぐお呼びしますので」
と言ってくれた。
そうよね、テイクアウトでケーキを買う人の邪魔になるものね。
私は店員さんの後について待合室に入る。
その瞬間、全てが暗くなった。
気がつくと私はどこかの部屋に閉じ込められていた。口は塞がれて足と手も紐で縛られていて身動きが取れない。
どう見ても私は誘拐されたっぽいわね。
えっと。。どうしましょう。
そうしたら、誰かが部屋に入ってきた。
「おや?気がついたのか?国に帰るまで寝てもらうつもりだったのだが、我が国のポーションはやはり質が良く無いな」と見知らぬ男が話しかけて来る。
隣国の人間では無いわね。どちらかと言うと日本人に見える。この国にもアジアの国があるのかしら?
しかも私が苦手だった山田塾長にそっくりだわ。
「それにしても、こんな小娘が本当にポーションが作れるのか?連れて帰る前に試した方がいいだろう、おい、こいつを研究室に連れて行け」
私は担がれる様に他の男に連れて行かれる。
研究室と呼ばれる場所はアル先生の研究室に似ていた。
「さあ、お前はここでハイポーションを作るんだ」そういいながら、私の口を塞いでいた物を剥がし、手足の紐を切った。
「何で私が誘拐されてまでポーションを作ると思っているのよ」
「おやおや、威勢がいいな。やっぱり保険を連れてきて良かったな。俺の為に作るんじゃ無い、こいつの為に作るんだよ」
良く見たら奥の床に誰かが転がっている。
「ミリーお姉様!!!!!」
そこには腹部から血を流しているミリーお姉様がいた。
「早く作らないとこいつは死んでしまうぞ」と笑いながら男は部屋を出て行った。
私はミリーお姉様に駆け寄る。
「ミリーお姉様、しっかりして!」
ミリーお姉様はうっすら目を開けて、
「私は大丈夫です。お守りできずに申し訳ございません。私は大丈夫ですから、あの窓から逃げてください。テーブルを使えば届くはずです」
「ダメよ、私はポーションを作ってあなたを治さないと」
「エマ様が無事に逃げるのが先です。私は大丈夫です」しかし、ミリーお姉様は咳き込み、口から血を吐き出した。
私はポーションに必要な材料を探す。しかしここには本当に基礎の材料しかなく、勿論アル先生の錠剤もない。
何とかギリギリ普通のポーションは作れるかもしれないが、ミリーお姉様の傷は深い。
私は悔しくて叫んだ。
「アル兄様の嘘つき。このバングルが守ってくれるんじゃないの!!!!」
その瞬間、お兄様の声が聞こえた。
「そう言う時は、エバンお兄様って呼ぶんだろ!」
ドアが蹴破られて、お兄様とアル先生が飛び込んできた。
次で最終回です。エマとアルの話でしたがおまけまでつきました。




