舞踏会にて
そうして前世の知識を使いつつ、魔道具の改良をしたり、ポーションの作成を行う毎日だった。
ポーションの材料を粉砕する為にフードプロセッサーの様な物も作った。
錠剤の型を作る時に円周率を使って、体積と重さの比較をして、穴の大きさを決めたので、理想の重さの錠剤の型も2-3回の試作を作っただけで出来た。
そしてあっという間に1年が過ぎようとしている。
座学の授業も教える事はないとほぼ免除になった。まあ、授業内容が私が塾で教えていた事と変わりないから当たり前なんだけど。本当は2年通うはずの学園の卒業資格はもうすでに持っている。
なのでここ最近は、ニコラス先生とアル先生との研究の毎日だ。石化したポーション科の先生は無事に材料が手に入り治ったので、アル先生は授業をする必要がなくなり。王宮から出向という形で学園でポーションの研究開発をしている。
1年間、週末以外はほぼ毎日一緒にいたのでアル先生はニコラス先生ほどではないけど、私に対する表情が柔らかくなってきた。
研究の方はニコラス先生が作り出した最新の秤によってより細かく、早く材料を測る事ができる様になり、今まで作るのが難しいと言われていたポーションも量産ができる様になった。
そして、今回の遠征でアル先生が作り出した、状態異常を無効化するポーションが大変に役に立ったと、次に王宮で開催される舞踏会で国王陛下と謁見し、感謝の言葉を賜る事になった。
討伐対象だったのは魔法を使う魔物らしく、幻覚魔法をかけられて、自分の大切な人が周りにいっぱいいるように見えたらしい。魔物は幻影の中に隠れて襲ってくるので状態異常を無効化するポーションを使い、魔物を特定して無事に討伐できたとの事。ちなみに、お父先生とお兄様は私がいっぱいいる状況に大満足だったらしく、戦闘不能な上にポーションを拒絶。副団長と団員さん達が羽交い締めにして飲ませたらしい。
「魔物より厄介だった」と副団長さんが真顔で報告してくれた。本当に申し訳ないです。
私は助手として手伝っただけなので、国王陛下との謁見は辞退しようとしたが、ニコラス先生とアル先生に拒否権はないと言われ行く事になった。
舞踏会の日。私のエスコートはもちろんお兄様だ。私は自分の目の色に合わせて若草色のドレスにしたが、お兄様は俺の色だとご機嫌だ。兄妹だから目の色は同じなだけです。
会場に着くと、初めに国王陛下からのお言葉があるというので、アル先生が私を陛下の御前に連れて行ってくれる事になった。お兄様は勿論不満気だがしょうがない。
ニコラス先生と合流した時、アル先生が何かをポケットから出した。
「これは魔道具ですか?」
「ああ、アクセサリー型の魔道具なんだが。嫌な噂を聞いたのでこれをつけてくれないか。君を守ってくれるから」
「何か危ない事が起きるんですか?」
「今回の事で君は他国からも期待のポーションメイカーとして名前が広まってきている。優秀なポーションメイカーを持つことは国にとって重要な事だから、何らかの接触があるかもしれない」
それって。。誘拐されるとかじゃないでしょうね。
「俺たちと一緒にいれば大丈夫だが、念の為に」とアル先生から渡されたのは銀のバングルで紫の石がついている。
「その石を使えって言われた時に何となくわかったが、お前結構束縛系なんだな」とニコラス先生はニヤニヤしてる。
思いっきりアル先生の色だものね。お兄様と同じレベルだな。アル先生も実はシスコンなんだろうか?
国王陛下との謁見も終わり、お兄様の所に戻ろうとしたら、アル先生に手を掴まれた。
「一曲踊って貰えないか?」
「え?アル先生踊れるんですか?舞踏会には殆ど参加されないと聞きましたが」
アル先生はニヤッとして。
「人の噂で判断してはいけない。自分自身で検証をしてみないとな」と言いながら、私をダンスフロアに連れ出した。
お兄様の目が怖いが、お兄様はご令嬢方に囲まれて動けない。お兄様は結婚したい独身貴族で上位に入るしね。すぐに断ってしまうので、結婚する気はないみたいだけど。
「お兄様も早く結婚相手を見つければいいのに」と私が呟くと。
「あのシスコンを覆すような女性はそうはいないからな」とアル先生が言うのでつい笑ってしまった。
アル先生はダンスは上手だった。リードも的確で踊りやすい。
「意外に上手ですね」
「お前、かなり失礼だな、お前が小さい時に大きくなったら踊って欲しいって言ったんだろ」
「え?その為に練習してくれたんですか?」
「そ。。そんな訳ないだろう。貴族の嗜みだ」と言うアル先生の耳は赤くなっている。
何だか私まで恥ずかしくなってしまった時に曲が終わった。
「エマ。。」アル先生が何かを言おうとした時に後ろから低い声が聞こえた。
「エマ、次は私と踊ってくれないか?」アル先生の後ろにお父様が立っていた。
「お父様!出る時にお見かけしなかったので、来られないと思ってました」
「娘の晴れ舞台を見逃す訳がないだろう、アリスター君、久しぶりだな。娘がお世話になっている」
「ラフィーノ騎士団長、お久しぶりです。ご挨拶が遅れて申し訳ございません」
握手をしているが、笑顔のお父様に対して何故かアル先生の顔色が悪い。
お父様は私のバングルをチラリとみて、
「さあ、可愛いエマ、一緒に踊ろう」と私の手を取った。
ご令嬢に囲まれているお兄様が「父上、ずるい」と叫んでいるが、聞こえないふりをした。
「お父様とダンスするのは本当に久しぶりですね。最近はお忙しくて、家にもいらっしゃらないし」
「ああ、ここ最近多くの国でで魔物の数が増えているからな。我が国はニコラス君やアリスター君のような優秀な魔道具師やポーションマスターがいるからまだ良いが、他国は大変だろうな。これからもますます忙しくなりそうだ」
「私はお父様とお兄様が心配です」
「私達は大丈夫だが、エマも気をつけるんだよ。ポーションを作れる者はどの国でも貴重だからな。それはニコラス君の魔道具だな、デザインは思う所があるが、絶対に外してはいけないよ。そして学園では必ずニコラス君やアリスター君と一緒にいる事」
「分かりました」
曲が終わる頃になんとかお兄様がこちらにやって来れた。
「アルのやつ、手が痛いと言っていたが、何かあったのか?」
私はお父様をじっと見たが、お父様はニコニコしているだけだ。
その後は散々お兄様と踊る事になり、もう足が疲れて動けない。
「お兄様。。もう無理です。休ませてください」
「そうか?俺はまだまだいけるぞ」
騎士の体力と一緒にしないでください。危うくお兄様にお姫様抱っこで運ばれそうになったが、意地でも自分で歩いた。バルコニーにソファーがあるというのでそちらで休む事にした。
お兄様はドリンクをとりに行くと言うので、ニコラス先生と奥様のリズ様が一緒に待ってくれる。
「エバンは相変わらずだな。君とダンスしたい男性に1ミリの隙も与えてなかった」
「私、このままだと結婚出来なさそうなんですが?」
「あら、エマちゃんは結婚したいの?」とリズ様がワクワクした顔をして聞いてくる。
「今すぐではないですが、いつかはしたいですね。子供も好きですし」
「だってよ、アル」とエコラス先生が私の後ろに向かって話しかける。
いつの間にかアル先生が私の後ろに立っていた。
「ポーションを持ってきた。足が痛そうだったから」とまたいつもの不機嫌な顔で言う。今日は機嫌悪いのかな?でも基本的には優しいのよね。
「え?いいんですか?ありがとうございます。このままだとお兄様に抱えられて家に帰る羽目になりそうで」
「。。。だろうな、だからポーションで治そう」
「アル先生の手は大丈夫ですか?お父様は握力が強いので」
「大丈夫だ」
「うわーー、アル。だから手が痛いのか?お前絶対苦労するな、あの2人相手じゃ」
アル先生はニコラス先生の言葉は聞かないふりをして、私にポーションを渡してくれた。
ニコラス先生の奥様は目を丸くして
「アル様が甲斐甲斐しい。。。」
「これを毎日のように見せられている僕は可哀想でしょ?」
そんなに変かな?お兄様のお世話がすごすぎて、麻痺しちゃってるのかな?
と思ってたら、お兄様がドリンクを持って。。。いやドリンクがたくさん並べられたカートを押してきた。
「エマが好きなの選べる様にお酒以外は全部持ってきたよ」
私はいつもの事なので涼しい顔をしていたが。
ニコラス先生が
「エマちゃん、これが普通と思ったらいけないよ。本当に結婚出来なくなるよ」
「は?ニコラス、これぐらい出来ない奴にエマを任せられないだろう」
「エマちゃん。。そうね、これは頑張んないと結婚出来ないかもね」とリズ様が呆れた様に言った。
アル先生は無言で私の後ろに立っていた。
でもエバンより本当に怖いのは娘を溺愛している騎士団長です。




